テーブルの上のスマートフォンが振動している。

その時、茜はコールセンターの休憩室でお弁当を食べていた。


ちょっと働きすぎかもしれない。今日は臨時出勤をしていた。休日の筈だったのに、急に来られなくなった人の代わりに出てきてほしいという要請電話を断ることができなかった。自分のこういうところが嫌いだ。


箸を置き、あくびを噛み殺しながらスマホを手に取る。


「茜ちゃん、今夜会える?」

電話を取ると、碧の声がする。


碧はいつも単刀直入だ。茜が仕事が終わる時間を告げると、碧は待ち合わせ時間と場所を素早く決めた。

碧は時々、茜のコンプレックスを刺激する。

愚図な自分が嫌いだ。


二人の名前は、それぞれ生まれた時の空の色らしい。


妹の碧が生まれたのは正午近く。

見事に晴れ渡る青い空が、窓の外に広がっていた。

茜が生まれたのは夕刻。

病室の窓に広がっていた茜色の空に、瞬間的に名前を決めたと母親が言っていた。


夕陽より晴れ渡る青空の方が素敵だ。

名前にすらコンプレックスを感じる。


タイムカードを打って、エレベーターに乗り込む。高層階用は急速なので一階までは一瞬だ。


道路を挟んで正面にたつ高層の双子ビルには一階に多数のテナントが入っていて、待ち合わせ場所はそのうちの一軒であるハンバーガーショップだった。


到着すると、碧がすでにテイクアウトでハンバーガーやドリンクを買い込んでいた。


「茜ちゃん、ごめん。外で食べよう。夕陽めっちゃきれい。」


二人で外に出る。

広がる茜空。柔らかい春の風にコンプレックスが溶けていく。