静かな田舎の、通学路。

周りには、どこまでも広がる静かな田んぼと、子供たちの声が響く。


わたしは、「今年は綺麗に教科書を使わなくちゃ」と、これから始まる新学期に、心弾ませながら、学校へ迎う。


「あっ。春になると、蟻が出てくるんだ。」


嫌な事を思い出してしまった。


わたしは、蟻が苦手。


黒くて、小っちゃくて、想像するだけで、手足がゾワゾワしてくる。


通学路を堂々と歩く蟻を踏まないようにと。


わたしは、爪先立ちしながら、蟻に遠慮して通学路を歩くことにした。



「あーあ、夏になったら、もっと蟻が出てくるんだ。」



考えたら、憂鬱になって来た。


真剣に、ただただ、足下だけを見て歩く。


ちょっと、疲れる。


時々、友達の顔を思い出したり、新しい担任の先生は誰なのかなと想像して、気分をまぎらわす。



「早く学校に着きたいな。」



まだまだ足下を見て歩いていた。


どのくらい歩いただろう。


久しぶりの学校だから、少し遠く感じる。


大きなランドセルを背負い直す。



「後、どのくらいかな?」



久しぶりに、顔を上げた。



「あっ。」



大きな桜の木が一本、目の前に立っていた。



「あれ、」



春なのに、



「桜が咲いてない。」



春なのに、



「葉っぱが紅葉している。」






足下ばかり見ていたら、






秋になっていた。



「今年も、行き過ぎちゃった。」



ランドセルを背負い直し、来た道を戻る。


おかもとまり