それから私たちは頻繁にLINEメッセージのやり取りをするようになった。これから出掛けることや、読む本、観た映画、食べた物など日々にことを一日何十通もやり取りした。LINEをの既読未読無視の常習犯の私としては珍しいこと。彼との軽いやりとりが楽しかったのだ。


 

彼は母親より年上の私に気を許したのかネット上で出会った女性との話もよくしていた。恋愛事から離れている私にとっては刺激的で面白かった。

私にサラッとLINE交換させたように他の女性にも巧みにLINE交換をしていた。そんな対岸の火事のような彼の色恋沙汰をリアルなエンターテイメントとして楽しんでいた。


 

LINEメッセージだけには至らず段々と電話で話す時間が増えてくる。彼とは波長が合い、毎日話しても飽きずに楽しい。彼の好奇心旺盛な知的な話は私の知的欲求を満たした。

 


朝の挨拶メッセージから始まり、午前中からお昼に掛けて電話し、電話を切ってからもメッセージのやり取り、夕方にも1〜2時間話す。彼から連絡があれば夜に数時間話すこともあった。寝る前のおやすみ電話も習慣化していった。

 


彼は私の他にも数人の女性と連絡を取っていて、私とのおやすみ電話をした後に寝落ち電話をしているようだった。あの子が可愛い、この子が可愛いと女の子の話題が多く、全員を把握出来ない人ほどの女の子と電話をしていた。コロナ禍で人と会うことを躊躇う時、そのストレスを電話で解消しているのだと思った。

彼の女の子のお友達は少し頭が弱そうな子が多く、年上で気が強く好奇心の強い私は物珍しいのだろう。毎日大量にLINEメッセージのやり取りをし、隙間があれば電話をしていた。

 

彼のことが気になりつつ私からはもう連絡するつもりはなかった。おばさんが若い子と話したがるのキモいもの。


 

朝までの長電話から4日後、彼から「やっほー元気?」とLINEが届く。「元気じゃないよ。娘と物凄く下らないことで大喧嘩した」「笑笑」「笑ってるし」「何で喧嘩したの?」「下らなさの極みよ」「話せる?」

軽いノリで電話をし始め、娘とのたわいもないことから発展した大喧嘩を彼に話し笑われる。「どうしようもない話を聞かせてごめんね」「いや?」と小さく笑う。

「意外と優しいね」「ハイジとクララを見てるおじいさんの感覚だったから」「また優しい例えだな」「じゃれ会いを聞いたらそんな反応になるよ」「じゃれあい言うなー!」「俺に取っちゃじゃれ合いだわ」「くだらな過ぎるし、そんなことでまだ腹立ってる自分が情けなくて泣けてくるよ」「なんというか……うん滑稽」吹き出すように彼が笑う。

 


これまで家族と喧嘩したことは人に話すことはなかったが彼だと自然と話してしまう。会ったこともない人だからこそだと思った。彼をまるで王様の耳はロバの耳の穴みたいだなと思った。

 


翌日は私から話したいと連絡し23時から明け方まで夢中になってお喋りした。娘との大喧嘩の詳しい経緯と現在の話から、彼の家族の話になっていた。彼には10歳以上年の離れた妹がいて、赤ちゃんの頃に全てのお世話をし、今もとても可愛がっている様子だった。年齢の割りに大人っぽいのはそんなところからも来てるのだろうなと思った。

更にその翌日、娘と仲直りしたことを連絡した。

速読マスター方法が得たくて彼と連絡を取りたかった。ただ、それ目的のために電話をするのを躊躇い出会った日から2〜3日の時間を空けて連絡をしてみた。


 

「元気にしてる?読書音声ルームで君の話題になったよ」「あ、そうなの?何話したんだろ?」「主さんがいない時に本をとんでもなく読んでいる素晴らしく賢い学生の子が来たと話したら、主さんも女性の方も直ぐ分かったよ。君が酔っ払いに絡まれたことを話したら主さんがめっちゃウケてた。」「おおい笑 話そ?」「家事してくるから、ちょっと待って欲しいのだけれどいい?23時半くらいでいかが?」「いいよー待ってる」「ありがとう!」


 

速読マスター方法を詳しく教えてもらったが、これが目的で話していることを悟られないため他の話もした結果、本以外でも彼とは話が弾む。互いの家族のこと、友人のこと、趣味、映画、ドラマなど多岐に渡って話す。私たちは23時半から翌朝6時まで夢中になって話した。

 


旦那さんのお弁当準備があるため6時で電話を切った。楽しかったけれど、なんで親より年上のおばさんと話してくれるのだろうと疑問を感じた。

世の中には物好きな若者もいるものだなと思った。まあ私は趣味趣向が男向きだと思う。長年付き合いのある男友達も多い。それが20歳の子にも面白いと思ってもらえたのかな。速読方法も教えてもらったし、しつこく思われるのも嫌なので私から連絡するのはやめておこう。そう思った。

 

「先日はおばさんをかまってくれて、ありがとう!またお暇な時にお喋りしてね」と翌日、彼にLINEした。直ぐに返信が来る。「今夜話す?」「今夜は家族がいるので、まだ分からない」「あーそれじゃ、話したくなったらLINEして。また話したいし」「ありがとう。今度、速読について詳しく教えてね」「うん!」


 

ーまた話したいしー

20歳の男の子から、そんなことを伝えられて少しときめいた。そして何をこのくらいでときめいているの?彼はときめかせようと、そんなこと少しも思ってないはずなのに。自分で自分を諌める。

彼は20歳、私は53歳
 
互いに出会いは求めてなかった。でも私たちは出会ってしまったのだった。

その頃の私は音声アプリに夢中になっていた。在宅で仕事をしていた私はコロナ禍で友達にも会えず話をするのは家族だけ。


 

高校生の娘たちは学校へ行けず、ずっと家にいる。小学生以来の親子でゆっくり過ごせる時間を喜んでいた。楽しかった。受験生の娘には勉強に集中してもらうため家事は一切させなかった。

 


最初は感謝していた娘たちも家のことをするのは私だけなのが当たり前になっていく。甘えが加速していく。洗面所兼脱衣所には入浴時に脱いだ服や使ったタオルは洗濯カゴに入れず床に置きっぱなし、洗面台はケア商品でいっぱい、床は抜け毛だらけ。抜け毛をガムテープで取っているとブラシでとかしている娘から髪の毛がハラハラと落ちてくる。食器もシンクに運ぶがただ置きっぱなし。茶碗にこびりついた米がなかなか取れない。


 

娘たちもこの閉塞感にストレスを感じているだろうから怒りたくない。ただただ優しく注意しているためか何度注意しても改善されない。極、小さなことだが毎日毎日散り積もり私を蝕んでいく。でも話を出来るのは家族しかない。

 


誰かと話したい。友達の連絡はLINEがメインになって、お喋りするにも約束するようになってしまい無闇にお喋り出来ない。そんな時、20年来の男友達から音声アプリを教えてもらう。最初は緊張したが見ず知らずの方達とたわいも無いお喋りに夢中になった。

自分の音声ルームを作り、常連さんで直ぐいっぱいになる人気ルームとなった。会ったことはないが気心知れた人が何人も出来、毎日お喋り興じた。

 


自分の音声ルーム以外にほぼ行くことはなかったが、読書音声ルームには時々遊びに行っていた。読書音声ルームの主さんは物静かながらユーモアのある知的な方で、知的なお喋りをしたくなると遊びに行っていた。そこで彼と出会った。

深夜、眠れなくて読書音声ルームが開いていたので話に行く。音声ルームに入ると主さんは電波が悪いようで落ちてしまい20代のサラリーマンと大学生の男の子がいた。


 

主さんが入ってくるまで、この二人と話すことにした。サラリーマンの方は声が高くハイテンションの男性でベストセラー本について語っていた。大学生の男の子は速読をマスターしていて年間最高で1500冊を超える読書量の知的な子だった。二人とのバランスを取りながら本を話を進めていく。サラリーマンの方のテンションの高さは酒に酔っているためのようだった。その内に大学生の子に絡み始める。宥めるが全く聞かず大学生の子にひたすら絡み続ける。


 

程なくして酔いのピークが来たのか自らルームを出て、大学生の子と二人になる。「大変だったね」とサラリーマンの酔っ払いぶりに笑い合う。

また二人で本の話に戻る。彼は知的で品のいい話し方でとても感じ良かった。絵本や児童書に詳しく、私も娘たちに絵本を数千冊は読み聞かせしているので共通点が多く話が盛り上がる。

 


明け方近くになっても話が止まらない。すると彼に「もっと話したいのでLINE交換しませんか?」と言われる。今まで音声アプリで誰ともLINE交換をしたことはなかった。躊躇したが大学生の男の子が私に特別な感情を抱くはずもなく、こんなに若いお友達が出来る機会なんてそうそうないことなのでLINE交換をすることにした。

 


LINEでも1時間半ほど話し、朝の8時を過ぎたので家のことをしないとならないと電話を切った。娘と然程年の変わらない男の子とこんなにお喋りで盛り上がるなんて、と高揚感を感じていた。不思議なご縁もあるものね。速読マスター方法について詳しく聞きたいと彼に興味を持った。