幼馴染との再会と思い出話に花が咲いて、

古い仲間との時間もいよいよ終盤にかかろうとしたとき、

向こうのいり口の自動ドアがあいた。

何気なくそちらへ目を向けた私は息を飲んだ。


今の今まで本気で忘れていたキミが、姿を現したのだ。

あの頃のキミと比べてその年相応に変化したキミを見て

私はうれしくなった。

描いていたキミよりも数段素敵になっていて

あの時キミに恋してた私が誇らしかった。


・・・・キミは何で一人でこんなことに来てるの?

・・・・・なんで私の横にイキナリ普通にすわるの?

・・・・・どうして私がここにいることに驚かないの?

・・・・・・・・・・・・・・・・・。


「元気だった?」

キミが話し出した。

「何でいるの?」

私が聞いた。

すると、奥のほうで私の幼馴染たちがクスクスと笑っている。

ああ、あいつらか!!

しかしよく連絡先なんて覚えていたもんだね。

勝手に私のいないところで電話して呼び出していたんだね。

・・・・・・・どうもありがとう。

懐かしい場所とは

昔すんでいた家、

通学路、

友達とよく立ち話をした公園、

そして

キミとよく行った啄木の海。

8年たったあの日も変わらずに美しい景色を眺めることが出来た。

変わったのは

いつまで待ってもあの山の麓辺りに

連絡船の姿が見えないことだった。

啄木の海へ行ったとき、

なんとなくあまりの懐かしさに

自然と涙がこぼれて

急にキミの存在を思い出してしまった。

「今、どうしてるのかな。」

ふと独り言を言ってしまっていた自分がいた。


夕方、友人と電車通りのミスドで待ち合わせをしていた。

思い出めぐりで歩きつかれた私は

一足早く待ち合わせのミスドへ行っていた。

・・・その日偶然にもキミに出会ってしまうなんて思いもしないで。



あれから

8年目の冬、

私は第一の故郷への旅行を決めた。

こっちに引っ越してきてから一度も訪問していなかった。


キミとのことは文字通り自然消滅で

嫌な思いもせずに

本当に自然と消えて行った。


そんなある日、故郷への旅行を決めて、

中学からの友人を訪ねる予定を組んでいた。

頭の中では

キミに会うなんて、そんなことこれっぽっちも考えていなかった。


荷物を詰め込んだトートバッグを持って

電車に乗り、わくわくしながら窓の景色を眺める。

あの弓なりに広がる海岸の景色、

キラキラと光る水面をカモメたちが飛んでいく姿、

ポツンと一つだけ島のように見えるあの山を見た瞬間、

私は「ああ、帰って来たなあ。」

と思い、本当にうれしくなった。


駅には誰も迎えは居なかった。


一人旅なんてそんなもんだから、

とりあえず駅前のホテルに荷物を置いて、

懐かしい場所を散策しに行こう、

そう思った。



2ヶ月の間、

私たちはずいぶん思い出作りに精を出した。


勇気を出してキミに隠し事のことを話すと、

キミは最初

・・・だって、こんなに好きにさせといて

自分だけ遠くに行っちゃうなんて卑怯だよって感じで怒ったりしたけど、

そのうち諦めたのか、

近くに居れる間たくさん思い出をつくろうって決めたよって言ってくれた。


たくさん映画も観たし

同じ音楽も聴いたし

自分のこと、相手のこと、たくさん話したし

スキーに行ったり

ただ海岸通りを散歩したり

会えないときは手紙を書いたり

電話をしたり

毎日がキミだった。


でも、私たちが一番好きだった場所は

あの“啄木の海”

私たちが勝手にそう呼んでいたあの海。

今でもあの場所からの景色は痛いほど目に焼きついている。



こんなに大好きになってしまったキミに

私は隠し事があった。


あんなに大好きで

あんなにいつも一緒にいたくて

あんなに大切に思っているキミと

私は後もう少しで離れ離れにならなくてはいけないって言うことを

どうやって伝えようかと悩んでいた。


正直言ってこんなに好きになるなんて

思っていなかったんだろうね、あの頃の私。

子供の力じゃどうにも出来ない現実で、

自分の幼さを心から悔しいと思った。


私は親の都合でキミと過ごしているこの場所から

電車では半日以上もかかるところへ引っ越さなければいけなかった。

もちろん学校も変わるし

海を越えなければいけなかった。


それにはあと2ヶ月くらいしかなかった。


映画を観に行ったり、

一緒にスキーに行ったり、

でも、

私たちが一番好きだったのは

大森浜の海岸で

二人並んで海を見ながら

どうでもいい話を永遠に日が沈むまですることだった。

キミといた季節はほとんど冬ばかりだけど

どんなに寒くても

あんな吹雪なんてちっとも寒くない。

雪の降る中カモメが飛んでいくのを眺めていた。

二人ぴったりとくっつきながら。

どんなことがあっても永遠に私たちは一緒だと

そう信じていたし、本気でそう思っていた。

今思うと、あの若さで本当に『愛』なんていうことの意味を

なんとなく理解して実行していたように思う。

あれだけ全身全霊を込めて誰かを愛せるなんて

今となっては自分の息子への愛情以外ないような気がする。

まあ、それだけ無知で純粋で素直できれいだったんだろうな。


私たちは初めて会ったその日から、

本当にお互いのことを大好きになり

もっともっと一緒にいたいと思うようになった。

寒い冬、私たちに落ち着ける場所はなく

いつも湯倉神社か

大森浜なんかの浜辺で会っては

たわいもない話をして楽しんだ。

ほんのちょっとでも一緒にいられる時間が素直にうれしかった。

お互いのいいところをたくさん見つけようと思っていた。

本当に本当に大好きだった。

なんでっていう理由なんてない、

ただ素直に大好きだった。


初めて会った日。

あれは13歳の冬。

忘れもしない11月の16日、日曜日の午後1時。

市民会館の噴水のところで待ち合わせをした。

雨がぬれ雪にかわる寒い日。

傘を持って出かけた。

ママに嘘をつくのが精一杯だった。

現れたキミはグレーのジャンパーを着て、

少し寒そうに背を丸めて恥ずかしそうに歩いてきた。

生まれて初めてするデート。

ドキドキしながら、電車通りを歩くキミの後ろをついていった。


私たち、

このまま年とっていくのかな。

途切れてはつながって

また途切れてはつながって、

とっても細い糸だけど確実につながっている。

切っても切れない糸ってこのことを言うのかな。

お互いにお互いの存在が消えてしまうことが怖い。

いつもは忘れているんだけど

時々思い出す。

思い出したときに存在が確認できる何かがほしい。

結婚していたって

奥さんがいたって

子供がいたって

お互いに幸せだって

どうだっていい。

アイツが生きていてさえくれれば

それでいい。

それを確認するすべがほしい。

あなたの存在で私もまた存在する。

このまま

死ぬまでこんな風に

見えないけど確実に存在するこころのよりどころとして

お互いに支えあう?

最近、楽しみがひとつ増えた。

たまにくるアイツからのメール。

内容的には別に何だってことないけど、

メールが届くだけで

なんとなくハッピーな気分になる。

生活にハリが出る。

アイツの存在に感謝。