私のトレド観光は些細な戸惑いを伴いながらスタートした。その理由は、地図を頼りにすることに慣れた私の手元には、「地球の歩き方」に載せた一枚の簡易地図しかなかったからである。しかも、トレドは丘の上に建てたお城なので、坂や細い路地が複雑に入り組む構造になっており、初めてたずねてきた人にとっては多少わかりづらい部分がある。こういう時はやはり人に聞くのが一番はやい。実際に、私がトレドの市街地に足を踏み入れたところから、早速方向を見失ってしまって、結局、一組みの老夫婦に助けてもらって、やっとサンタ・クルス美術館にたどり着けたのである。。
アルカンタラ橋西側の門。曲がり角が多いことは古くには攻めてきた敵を困惑させるためのものだろう。1人でここを静かに上っていくと、タイムスリップしたような錯覚に襲われる。
門を抜けた後、長い石階段が坂の上まで続く。途中で振り返ると、遠くまで見える。
坂の上の両サイドに、車がずらりと並ぶ。トレドでとても感心したことの一つは、ここの人々の運転のうまさ。なにより、坂道だけではなく、車一台がすれすれに通れる細い路地が多い町なので、こちらが無理無理と思う場所でも、みんな平気で、しかもすばやく車を通せたから、何でも慣れと分かったとしてもやはりすごいなぁと感じる。
まっすぐな地平線はほとんど見られない。緩やかなカーブがこの町の独特の風情を醸し出す。
サンタ・クルス美術館(Museo de Santa Cruz)は16世紀に建てられたもので、もともとはイサベル女王が病院や孤児のために完成させた施設だったそうだ。正面ファサードは華やかなプラテレスコ様式で、繊細な浮き彫りが施されている。
サンタ・クルス美術館は入場無料。館内は絵画、美術品、考古学三つの部門に分けられているが、タイミング悪く、私が行った際に絵画部門は何らかの理由で閉鎖され、見ることができませんでした。エル・グレコ、リベーラ、ゴヤの所蔵品が豊富だと聞いているが、拝見できなかったことは実に残念でたまらない。
一階の展示スペースには巨大なタペストリーが壁一面に掲げられている。
中庭を囲んだ建物には回廊があり、横に階段をあがると、二階の工芸品展示室へ行ける。
サンタ・クルス美術館のすぐ近くにソコドベール広場があり、広場へ行く階段の手前に本を手にするセルバンテス(1547~1616)の銅像が迎えてくれる。波乱万丈な人生を送ったセバンテスはトレドに滞在したこともあり、ドン・キホーテの一部もここで執筆されたそうだ。