ヴァチカン博物館を後にして、私が地下鉄に乗って、そしてバルベリーニ(Barberini)駅で降りた。


目の前はバルベリーニ広場(Piazza Barberini)。広場の中心にあるのはあの有名なトリトーネの噴水。貝殻の上に乗せてホラ貝を吹いている人物は海神ポセイドンの息子トリトンだという。


トリトーネの噴水

地図を見ると、国立絵画館(バルベリーニ宮)はこのすぐ近くにあるが、でもその入口は分かりづらくて、見つかるまでちょっと時間がかかった。


絵画館の入口が面する通り。なかなかいい雰囲気ではなかろうか。


国立絵画館前の通り


国立絵画館は1633年に建造されたバルベリーニ家の館を利用したもので、建物はボッロミーニとその師に当たるカルロ・マデルノ、更にベルニーニらの巨匠によって作られた代表的なバロック様式の建築。「ローマの休日」の中、オードリー・ヘップバーンが夜中に抜け出した宮殿がここだとか。


道路反対側の建物が玄関に長い影をおとしているが、それはそれで荘重たる雰囲気が醸し出されている。

国立絵画館


ここに所蔵されている名品、ラフェエロの「ラ・フォルナリーナ」。画家の死から60年も経った後に発見されたこの作品は、画家が密かに描いたものとされる。女性の腕輪にラテン語で「ウルビーノのラファエロ」と署名されており、結ばれることの出来なかった恋人への画家の情熱を感じさせる。


この作品はかつて日本で展示されたことがあるそうですが、その時、私がどこにいたのだろう・・・


ラファエロ「ラ・フォルナリーナ」


カラヴァッジョ「オロフェルネスの首を斬るユディト」(1595-96)。人間の残虐性と暴力性を示す傑作と讃えられるカラヴァッジョのこの作品は、あまりの写実性で画家が実際に人を殺したのではないかの噂が立ったと伝えられた。確かに、生々しい。見るだけでも首筋が妙に涼しく感じるぐらい・・・


オロフェルネスの首を斬るユディト(1595-96)

ホルバイン「ヘンリー8世の肖像」(1540)。教科書や美術史といった類の本によく出たものと思われるが、まさかここで出会ったとは・・・。ちゃんと調べずに不意に訪ねてきただけの自分にとっては、これが意外な喜び。
「ヘンリー8世の肖像」(1540)ホルバイン

しかし、素敵な作品が数々所蔵されているからといっても、館内は実に閑散と言えるぐらい観客が少なかった。このなかの一枚でも海外に出されたら、行列になるまで人が殺到したのではないかと一人で勝手に想像を馳せる。でも、彼らはやっぱりここに一番似合うのだ。ここの静謐の空間、窓外に曳かれた木の陰、そして足の裏まで寒気を伝えてくる石畳の路。ここは彼らの魂が宿る場所なのだ。