The Little Willies - It's Not You It's Me
2002年度のグラミー賞“最優秀アルバム”他4部門を獲得した『オー・ブラザー!』や『コールド・マウンテン』で、古きアメリカ南部音楽が注目されたのは、音楽監督を務めたT・ボーン・バーネットの功績でもある。『オー・ブラザー!』のサウンドトラック盤には、カントリーからブルーグラス、ブルース、ゴスペルなどアメリカンのルーツ・ミュージックがたっぷりと詰っていたが、このリトル・ウィリーズのアルバムも、都会的な洒脱感も残しつつ、古き良きアメリカ音楽への愛着や郷愁をさりげなく歌いこんでいる。
リトル・ウィリーズの始まりは、2003年にニューヨークのライブ・ハウス“リビング・ルーム”で一夜限りのライブを行ったことがきっかけだ。ニューヨークをベースに活動していたノラ・ジョーンズと、そのバンド仲間であるリー・アレキサンダー、ダン・ライザーに加えて、ノラのツアーでオープニング・アクトを務めたリチャード・ジュリアン、そしてカリフォルニア出身の凄腕ギタリスト、ジム・カンピロンゴの5人が一つのバンドになった。最初はウィリー・ネルソンのカバー・バンドのつもりでスタートしたので、“リトル・ウィリーズ”を名乗ったが、ハンク・ウィリアムズをはじめとするカントリー・ミュージックの巨匠たちのレパートリーや、オリジナル曲も加えてのレコーディングへと発展する。
このリトル・ウィリーズは、決してノラ・ジョーンズがメインのバンドではなく、あくまでメンバーの一員というスタンスを守っている。リード・ボーカルを、既にソロで活躍していたシンガー・ソングライターのリチャードと分け合っており、更に二人のハーモニーは、カントリー・ロックの未来を提示したグラム・パーソンズとエミルー・ハリスの歌声を彷彿させる。志半ばで73年にこの世を去ってしまったグラム・パーソンズであるが、ジャズ・フィールを持った世界的な人気の女性シンガーが、ルーツ音楽のカントリーに接近して、自分のレパートリーだった曲を歌うとは思ってもみなかったろう。ここには、時代を超越して後世に歌い継がれるべき歌が、同好の士によって最良の形で収められている。ある意味、ナンシー・グリフィスのグラミー受賞アルバム『遠い声(Other Voices , Other Rooms)』と似たようなテイストを感じられるのも嬉しい。
収録曲をじっくり聴いていくと、ノラが幼い頃に移り住み、その後を過ごしたテキサスのシンガー、ミュージシャン達へのトリビュート的な意味合いも濃いのに気付く。グループ名の由来であるウィリー・ネルソンの「アイ・ガッタ・ゲット・ドランク」と「ナイト・ライフ」をはじめ、テキサスを代表する二人のシンガー・ソングライター、クリス・クリストファーソンとタウンズ・ヴァン・ザンド(「ノー・プレイス・トゥ・フォール」は最高!)。さらには、テキサスが生んだウェスタン・スウィングの王者、ボブ・ウィルスの「ローリー・ポーリー」に、ウィリー・ネルソンと共に、アウトロー・カントリーの一翼を担ったトムポール・グレイザー作の「ストリーツ・オブ・ボルティモア」(グラム・パーソンズもカバーしていた)と、有機的に結びついたバンド・アンサンブルとリラックスした歌声で、オリジナルを知らなくても充分に楽しめる内容となっている。
それ以上に注目したいのが、今回書き下ろしたオリジナル曲。ノラの公私にわたるパートナーでもるリー・アレキサンダー作の「ロール・オン」で、ノラ節が炸裂。やっぱり、この声には逆らえない。リチャード作の「イッツ・ノット・ユー、イッツ・ミー」も心に染みわたる名曲。ノラ・ジョーンズ・ファンは勿論、全てのルーツ・ミュージック・ファンに捧ぐ。
(Text/遠藤哲夫)