他愛のないメロディーながら | ノイズのなぐさめ

ノイズのなぐさめ

歪んだ美意識。
ちっぽけ 些々たる しがない
たわい無い 些末 末梢的
スマート、スィート、デンジャラス
大切なのは長く働くこと。

これは58年8月にニューヨークのジャズ・クラブ、ファイヴ・スポットでライヴ録音されたものである。同じ時の演奏を収めた『セロニアス・イン・アクション』とともにモンク・ファンにはおなじみの作品だ。40年代前半にミントンズ・プレイハウスに出人りしていたモンクはブルーノート、プレスティッジを経て55年からリバーサイドに録音を始めた。62年にCBSに移籍するまでのリバーサイド時代はモンクス・ミュージックが完全に開花した絶頂期である。不遇な状況に置かれていたモンクにようやくスポットライトがあたったのも、このリパーサイド時代である。特に本作の前年、57年のファイヴ・スポット出演がその引き金となった。57年夏にモンクがファイヴ・スポットに出演した時のクアルテットにはジョン・コルトレーンが含まれていた。この時の歴史的セッションによって、モンクはその実力にふさわしい名声を得るようになったのである。しかし残念なことに、コルトレーンを含むモンク・クアルテットのファイヴ・スポット・ライヴは録音されなかった。リパーサイドはライヴ録音を企画したが、当時コルトレーンはプレスティッジと契約していたため実現しなかったのである。その時プレスティッジ側の出した条件は、ファイヴ・スポットでのライヴ録音を認めるかわりにコルトレーンのプレスティッジ録音にモンクを使わせてほしいというものだったが、モンク本人が首をたてに振らなかったそうだ。その時モンクの頭を去来したのはマイルスとのケンカ・セッションだったのだろうか。ともかく、モンクという人はサイドメン向きではなかったため、この条件を飲めなかったようだ。モンクらしさを物語るエピソードである。
 本作はその歴史的な57年のファイヴ・スポット・セッション翌年に同じ場所で録音されたライヴ盤である。メンバーは一新され、ジョニー・グリフィン、アーメッド・アブダル・マリク、ロイ・ヘインズが参加している。前年のライヴ録音が残されていないだけに本作を手がかりとして57年のファイヴ・スポット・セッションを想像してみるのも一興だ。また、そういう聴き方ではなく白紙状態で接しても本作はきわめてスリリングでありエキサイティングな内容である。なぜならこの当時のモンクは絶好調だったからであり、ジョニー・グリフィンがモンクの世界に同化しで快演を繰り広げているからである。
  6曲中「ジャスト・ア・ジゴロ」だけが他人の曲で、この曲だけはソロ・ピアノで演じている。「ブルース・フアイヴ・スポット」は、このクラブにちなんで作曲したナンバー。同じメンバーによる前月(58年7月)ファイヴ・スポット・ライヴ盤にも収録されている当時の最新のレパートリーだ。そのほかの4曲はモンクの以前からのレパートリーだが、たとえ同じ曲でも、そのつどモンクは新しい演奏に作り替えてしまう。この4曲はブルーノートやプレスティッジで録音ずみだが、それらとはまるで違う58年ならではの熱くエモーショナルな、そして何度プレイしても常に新鮮さを失わない瞬間の閃きに彩られている。「モンクはエリントン以来もっとも重要なジャズのコンポーザーだ」と言ったのはマーティン・ウイリアムズだが、ここに聴けるモンクのオリジナルもきわめて個性的で、一聴してモンク作品とハツキリ分かる特徴を持っている。とりわけタイトル曲の「ミステリオーソ」は面白い曲だ。まるで子供が練習曲をおさらいしているかのような他愛のないメロディーながら、その中にモンクのエッセンスが凝縮されていて、不思議な心持ちにさせられる。こんなテーマから緊張感みなぎる完全燃焼のジャズを引き出していくモンクという人は、やはりワン・アンド・オンリーの存在に違いない。なおジャケットの絵は"The Seer"( 予言者、先見者)と題するキリコの絵で、モンクの音楽に実によくフィットしている。       [Dec. 20 1987/市川正二]    ●本解説はCD初発売時のものを使用しております。

ミステリオーソ [Limited Edition]
~ T.S.モンク, Thelonious Monk