ピアノという楽器からは想像もつかぬ | ノイズのなぐさめ

ノイズのなぐさめ

歪んだ美意識。
ちっぽけ 些々たる しがない
たわい無い 些末 末梢的
スマート、スィート、デンジャラス
大切なのは長く働くこと。

グレン・グールド(1932-1982)は、生涯に2枚、傑出したブラームス作品集を残した。最初が28歳の年に録音した「間奏曲集」、そして死の年に録音した「4つのバラード&2つのラプソディ」である。若きグールドがブラームス最晩年の作品を扱った前者には淡い抒情と静寂があり、50歳を目前にしたグールドがブラームス青年期の作品を取りあげた後者には荒涼とした孤独の色が漂う。どちらもグールドを愛する者なら、ぜひ手元におきたい宝石のようなアルバムである。このCDには、後者の全曲のCD化に、前者から一部を抜粋して加えるという編集がなされている。

「4つのバラード」は、精神の深淵にあえぎながら、遥か上方の青空を遠くながめるがごとき音楽。ブラームス21歳の年に書かれた作品だが、最晩年の作品と何ら遜色のない驚異的な深みに達している。グールドの演奏はベタベタせず、ペダルの使用を極力抑え、冷たくそっけないくらいに響きもリズムも乾いている。甘さや感傷性はゼロで、実に厳しい表情をした、格調高い音楽だ。ブラームス中期の傑作「2つのラプソディ」も、例えばアルゲリッチのピアニスティックで熱い演奏と較べると、ぎこちなく骨ばった、吹きすさぶ寒風のような演奏である。ピアノという楽器からは想像もつかぬ、このような寂寥感をグールドはよくも生み出そうとしたものだ。

5曲の「間奏曲」では、一転して静寂で甘美な憂愁に浸ることができる。コートの襟をたてて足早に冬の森を散歩する物静かな青年グールドの姿が目に浮かんでくるようだ。さらりとして淡い余韻なのに、これほど痛切で深い音楽もない。聴く人を無限の思索へと誘うという意味で、これらのブラームスはまぎれもなく超一級の演奏であり、孤高の鬼才グールドを知る上でも絶対に外してはならないマストアイテムである。(林田直樹)