先ず、デ・クーニングの制作の過程を追ってみます。
彼は最初に「女」という主題をもうけます。それはふと目に止まったピンナップの断片的なイメージを出発点に定めただけかも知れません。
主題と言っても、それはまだ制作に取りかかるきっかけに過ぎません。主題の概念はまだ入り口だけが分かる空っぽの入れ物のようなものです。用意したカンヴァスも主題も空白のままです。彼はその空白の「女」という主題とカンヴァスに、浮かんでくるあらゆる思いを絵の具に乗せてぶつけていきます。
無論、彼は主題を美化してまとめるつもりはないのです。ちょうど、精神分析の自由連想法のように、思い浮かんだままを描くアクション行為に託して画面に重ね、あるいは削りとっていくのです。
制作が進むにつれて、無意識の退行がすすみ、絵はあらぬ方向にむかいます。こうなると、彼にはいつどこに完成が待っているのか検討がつきません。彼にできるのは、自らの無意識が再び自我に統合され、ある納得が訪れるまで、描くアクション行為を続けるしかないのです。気がつくと、彼が等身大のカンヴァスに取りかかってから二年間の月日が流れていました。