Noka*のブログ

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第一話 恋の始まり春の終わり


「ねぇねぇビッグニュース!」

唯の大きな声が耳を響かせた。

「んー、何よ?」

「愁ちゃん!あのねあのね!!」

「唯、落ち着いて」

唯は落ち着きのない幼稚園児みたいな子だ。

「あ、ごめんごめんっ!あのね、5組の夏風君って人がね、んとね!」

「何?」

「余命、は、は、半年なんだって!」

「ふぅーん、まず夏風って誰よ」

私は、人が死ぬとか何だとか別に興味は全くない。それに、そんな事いきなり言われても知らないし。

「もう!愁ちゃんは冷たいなぁ!え!?知らないの?夏風君だよ!夏風宏樹!」

「知らない」

夏風宏樹、聞いた事はある名前。

「もう、愁ちゃん…」

「どういう人なの?」

「!」

唯が目を丸くして私を見てきた。

「え?何?」

「あ、ううん!何にもない!えっとね、夏風君はね、学年1って言われるくらいね、イケメンなの!」

「ふぅーん、見た事ないわ」

私は人好きをあまりしない。特に男子。女子でも、これだけ話すのは唯ぐらいしかいない。

「唯ね、一回だけ見たことあるの!」

「ふぅーん」

「愁ちゃんも見たら絶対興味がわくって!!」

「わかない」

男子なんて、ただの臭い毛玉だ。

「そんな事言わずにー!今日の放課後、夏風君のお家に行ってみようよ!」

「はぁ?バカじゃないの?」

「お願い!愁ちゃん!」

「嫌だ」

「むー…」

唯はふくれっ面になって、睨んできた。
そんな事されても、急に知らない人の家に行くなんて絶対嫌。

「別にわざわざ家に行かなくても休み時間の時に5組に行けば?」

「教室じゃなくて、保健室にいるんだもん…」

「じゃあ、保健室に行けば?」

「あ!本当だ!よし、じゃあ放課後に保健室に行こう!!ね!」

「行かないけど?」

人の事はどうでもいい性格だから。

「もう、いい!愁ちゃんのバカ!わからずやぁぁあ!」

えー…なぜそうなる。唯のマイペース&天然&バカにはたまに、いや、いつもついていけない。

「はいはい、わかったわ。その代わりついていくだけだから」

「やったぁ!んじゃあ、約束ね!」

「うん」

きっとあのまま放っておいたら、唯がまたグズグズすねる。逆に面倒だ。しかし、唯が私と同じ高校2年生の人には見えない。

(ガラガラガラッ)

「はぁーい、それではホームルーム始めるわよー」

ドアを勢いよく開け、担任の田村先生が声をあげた。

「今日はみんなに悲しいお知らせがあります」

教室が微かにざわめく。

「5組の夏風君の病気のお話です」

(それ知ってる~)と言う人もいれば(え!宏樹君どうかしたの!?)と言う人もいる。私は(それ知ってる~)派だ。今からきっと長ったらしい話が続くと考えたら、憂鬱になってきた。

「夏風君は、今保健室で特別授業をしています」

知ってる、と思いながらも少しだけ耳を傾ける。

「重い病気です。おそらく、治らないと言われています」

教室の中がざわめいた。

「余命、半年です」

他のクラスからもざわめく声が聞こえる。そんなにざわめく事なのだろうか?一つの命が消える。それは、そんなに大きな事なのだろうか?

「この事に習って、みなさんには今日は命の大切さについて学んで欲しいと思います」

でた、こう言う事があるたび行う"特別授業"。大人の自己満足のために行う、私の一番嫌いな授業。

「それでは、体育館に移動してください。この授業は学年で行います」

「はぁ…」

ため息が漏れながらも、私は席を立ち廊下に並んだ。ここから、体育館までは一度一回におりてから西校舎に移動して、4階に上がらなければならない。

「あいつ死ぬんだってよークスクス」

横の列の男子がコソコソと夏風?と言う人の話をしていた。

「これで、女子たちも俺らに夢中だなぁーあいつが死ぬからぁ」

何言ってるのよ、臭い毛玉たち。

「夏風くぅーんがかわいそうだろ?そんなこと言っちゃぁー!笑笑」

そんなのただのひがみじゃないの、と思ったその時、後で騒いでいた男子がぶつかってきた。

「キャッ…!」

私は階段から落ちた。低い位置からだったから足をくねっただけだったけど、先生が一応保健室に行っておきなさい、と言ったので、私は保健室に行くことにした。

「愁ちゃん、大丈夫?ついて行こうか?」

「大丈夫よ、ありがとう」

足をくじいただけで、連れて行くのは少し迷惑と思ったから、断った。

保健室に行くための廊下を歩いていると

「教室じゃなくて、保健室にいるんだもん…」

ふと、唯の声が蘇ってきた。

「夏風ねぇ…」

(ギギッ…)

保健室の重たい扉を開けて、私は中を少し動揺しながら覗いた。

「あの、誰かいま…」

「君は、西原愁華さんだね」

急に奥のソファーに座っていた、男の人に話しかけられた。

「え、あなたは誰?どうして私の名前を知ってるの?」

「やっぱ、僕のこと知らないよね」

男の人は少し悲しい顔をしながら、笑って私を見つめた。その顔がやけに、眩しく見えた。

「僕は、夏風宏樹。君の名前を知っている理由知りたいの?」

「貴方が夏風ね。えぇ、知りたいわ」

私は今やっと、この人が夏風だとわかった。

「君を見ていたから」

夏風の言葉は、耳の中にスッと入り、頭の中でふんわりと広がる声。

「…は?何それ」

「今はわからなくていいよ」

「今?じゃあ、いつわかればいいの?」

「僕が死んでから」

夏風の言葉は重くずっしりと肩にのった。

「…そう、なら貴方が死ぬまで待つわ」

その言葉はあまり深く立ち入ってはいけない気がしたから、私はそう言って保健室の救急箱の中のシップを取った。

「ありがとう、西原さん」

ふと、振り返ると夏風が笑っていた。

それは儚く今すぐにでも消えそうな、そんな笑顔だった。


第一話  終

★次回投稿日★
第二話 あの日
9月16日(月) 午後9時~10時
※多少の時間のズレはあります。