「ねぇねぇビッグニュース!」
唯の大きな声が耳を響かせた。
「んー、何よ?」
「愁ちゃん!あのねあのね!!」
「唯、落ち着いて」
唯は落ち着きのない幼稚園児みたいな子だ。
「あ、ごめんごめんっ!あのね、5組の夏風君って人がね、んとね!」
「何?」
「余命、は、は、半年なんだって!」
「ふぅーん、まず夏風って誰よ」
私は、人が死ぬとか何だとか別に興味は全くない。それに、そんな事いきなり言われても知らないし。
「もう!愁ちゃんは冷たいなぁ!え!?知らないの?夏風君だよ!夏風宏樹!」
「知らない」
夏風宏樹、聞いた事はある名前。
「もう、愁ちゃん…」
「どういう人なの?」
「!」
唯が目を丸くして私を見てきた。
「え?何?」
「あ、ううん!何にもない!えっとね、夏風君はね、学年1って言われるくらいね、イケメンなの!」
「ふぅーん、見た事ないわ」
私は人好きをあまりしない。特に男子。女子でも、これだけ話すのは唯ぐらいしかいない。
「唯ね、一回だけ見たことあるの!」
「ふぅーん」
「愁ちゃんも見たら絶対興味がわくって!!」
「わかない」
男子なんて、ただの臭い毛玉だ。
「そんな事言わずにー!今日の放課後、夏風君のお家に行ってみようよ!」
「はぁ?バカじゃないの?」
「お願い!愁ちゃん!」
「嫌だ」
「むー…」
唯はふくれっ面になって、睨んできた。
そんな事されても、急に知らない人の家に行くなんて絶対嫌。
「別にわざわざ家に行かなくても休み時間の時に5組に行けば?」
「教室じゃなくて、保健室にいるんだもん…」
「じゃあ、保健室に行けば?」
「あ!本当だ!よし、じゃあ放課後に保健室に行こう!!ね!」
「行かないけど?」
人の事はどうでもいい性格だから。
「もう、いい!愁ちゃんのバカ!わからずやぁぁあ!」
えー…なぜそうなる。唯のマイペース&天然&バカにはたまに、いや、いつもついていけない。
「はいはい、わかったわ。その代わりついていくだけだから」
「やったぁ!んじゃあ、約束ね!」
「うん」
きっとあのまま放っておいたら、唯がまたグズグズすねる。逆に面倒だ。しかし、唯が私と同じ高校2年生の人には見えない。
(ガラガラガラッ)
「はぁーい、それではホームルーム始めるわよー」
ドアを勢いよく開け、担任の田村先生が声をあげた。
「今日はみんなに悲しいお知らせがあります」
教室が微かにざわめく。
「5組の夏風君の病気のお話です」
(それ知ってる~)と言う人もいれば(え!宏樹君どうかしたの!?)と言う人もいる。私は(それ知ってる~)派だ。今からきっと長ったらしい話が続くと考えたら、憂鬱になってきた。
「夏風君は、今保健室で特別授業をしています」
知ってる、と思いながらも少しだけ耳を傾ける。
「重い病気です。おそらく、治らないと言われています」
教室の中がざわめいた。
「余命、半年です」
他のクラスからもざわめく声が聞こえる。そんなにざわめく事なのだろうか?一つの命が消える。それは、そんなに大きな事なのだろうか?
「この事に習って、みなさんには今日は命の大切さについて学んで欲しいと思います」
でた、こう言う事があるたび行う"特別授業"。大人の自己満足のために行う、私の一番嫌いな授業。
「それでは、体育館に移動してください。この授業は学年で行います」
「はぁ…」
ため息が漏れながらも、私は席を立ち廊下に並んだ。ここから、体育館までは一度一回におりてから西校舎に移動して、4階に上がらなければならない。
「あいつ死ぬんだってよークスクス」
横の列の男子がコソコソと夏風?と言う人の話をしていた。
「これで、女子たちも俺らに夢中だなぁーあいつが死ぬからぁ」
何言ってるのよ、臭い毛玉たち。
「夏風くぅーんがかわいそうだろ?そんなこと言っちゃぁー!笑笑」
そんなのただのひがみじゃないの、と思ったその時、後で騒いでいた男子がぶつかってきた。
「キャッ…!」
私は階段から落ちた。低い位置からだったから足をくねっただけだったけど、先生が一応保健室に行っておきなさい、と言ったので、私は保健室に行くことにした。
「愁ちゃん、大丈夫?ついて行こうか?」
「大丈夫よ、ありがとう」
足をくじいただけで、連れて行くのは少し迷惑と思ったから、断った。
保健室に行くための廊下を歩いていると
「教室じゃなくて、保健室にいるんだもん…」
ふと、唯の声が蘇ってきた。
「夏風ねぇ…」
(ギギッ…)
保健室の重たい扉を開けて、私は中を少し動揺しながら覗いた。
「あの、誰かいま…」
「君は、西原愁華さんだね」
急に奥のソファーに座っていた、男の人に話しかけられた。
「え、あなたは誰?どうして私の名前を知ってるの?」
「やっぱ、僕のこと知らないよね」
男の人は少し悲しい顔をしながら、笑って私を見つめた。その顔がやけに、眩しく見えた。
「僕は、夏風宏樹。君の名前を知っている理由知りたいの?」
「貴方が夏風ね。えぇ、知りたいわ」
私は今やっと、この人が夏風だとわかった。
「君を見ていたから」
夏風の言葉は、耳の中にスッと入り、頭の中でふんわりと広がる声。
「…は?何それ」
「今はわからなくていいよ」
「今?じゃあ、いつわかればいいの?」
「僕が死んでから」
夏風の言葉は重くずっしりと肩にのった。
「…そう、なら貴方が死ぬまで待つわ」
その言葉はあまり深く立ち入ってはいけない気がしたから、私はそう言って保健室の救急箱の中のシップを取った。
「ありがとう、西原さん」
ふと、振り返ると夏風が笑っていた。
それは儚く今すぐにでも消えそうな、そんな笑顔だった。
第一話 終
★次回投稿日★
第二話 あの日
9月16日(月) 午後9時~10時
※多少の時間のズレはあります。
