著者の宮崎市定という方は、京都大学文学部史学科を卒業され、京都大学名誉教授をはじめとし、パリ大学、ハーバード大学などの客員教授も務められていた方です。1995年5月にご逝去されています。
この本は、初版が1963年に発行され、2016年に第64版と版を重ねています。
64版も重ねてある本は、私はあまり記憶にありません。それはすなわちこの本が、中国の科挙という制度を、とても詳しく完璧に近いほど書き記されているからではないかと考えます。
というのも、この方自身、この科挙という制度を、おそらく生涯にわたって研究され続けてきたのではないかと思います。
実はこの本を出す前にもう一つ同じ題名の旧版を書かれています。旧版は敗戦の年に世に出ています。しかしその本は内容に意に満たないものがあると思われたため、売り切れと共に絶版にされています。
そして、この本はこの旧版の再販ではなくて、新たに書き下ろしたものとして出版されたようです。
それほどまでにこの方は、この制度に大変なエネルギーを注がれたのだなと思います。
科挙というのが中国の試験制度だということは、おそらく殆どの方がご存知かと思いますが、この試験制度の歴史は古く、西暦600年代の唐の時代にはすでに成立し、新しい教育制度が定められる1901年まで続きます。
しかしその制度はただ一回の試験で終わるものではなく、まず、
①童試の3段階の試験 (県試・府試・院試) があります。その試験を経て生員となります。
②生員となると、郷試の受験資格が得られます。
③郷試を通過すると挙人となります。
④挙人が会試に通過すると貢生、
⑤貢生が殿試に合格すると進士となって、文官として色々な役職に登用されることになったようです。
科挙は、長く中国においては男子生涯の壮挙であり、名誉と実益を兼ね備えたものでした。なので、男子が生まれると、その子が満3歳くらいから科挙を見据えた家庭教育が始まったようです。
私も科挙というものが中国の試験制度だということは存じ上げていましたが、その中身がどういうものかについては全く知識がなく、今回この本に出会ってほとんど好奇心から読みました。
1300年も続いたこの試験制度、本当に様々なドラマを生んだようで、科挙にまつわる面白いお話などもたくさん盛り込まれていてます。制度を詳しく知ることができるだけでなく、中国人の思想と言うか、考え方と言うか、そういうものも垣間見ることができました。
科挙という制度を今振り返れば、それは欠点は数え切れないほどあるかと思いますが、それでもこの制度によって、ヨーロッパ全土よりも広いほどの国土が長年にわたって統治されてきたわけですから、中国という歴史を作り上げた一つの柱だと言っても過言ではないと思います。
楽に読める本ではありませんでしたが、興味深い本でした。