スタインウェイショールーム つづき

　ショールームに入るやいなや、後藤社長が私にご質問されます。

　「あなたはピアノを弾かれますか？」

　んんなぜにその質問スタインウェイのショールームに来る人は、みんなピアノを弾く人ではないの

　返事に戸惑っていると、社長が、

　「いや、どうしてこんな質問をしたかと言いますとね、このスピリオを見学に来られるお客様の75%は、ピアノをお弾きにならないのです」

　えええーーーーピアノ弾かないのにピアノを買うのしかもスタインウェイだよ。

　でも。すぐに、なるほどと思いました。このピアノ、ピアノ弾く人をターゲットにしているわけではないのです。

　スピリオに付加される自動演奏機能。この優秀な自動演奏機能によって、世界の名だたる音楽家たちの演奏を、ほぼ100%に近い再生が可能なのです。スピリオが自宅にあれば、自宅で世界中の演奏家たちが、ピアノ弾いてくれているのと同じなのです。この、通常はお金では買えない空間を買う、これこそが、スピリオがアピールしているところなのです。

　ピアノを弾かない人にピアノを売る

　スタインウェイは新たな顧客の拡大に乗り出し、滑り出しは上々のようです。我が夫も、見事にその術中にはまりました。

　ということで、早速スピリオの説明をしてくださいました。

　スピリオは、 iPad に入れたアプリによってコントロールされます。楽曲を聞くことしかできない音楽家もいれば、動画も見ることができる音楽家たちもいます。動画リストはこのようになっています。

　動画がある作曲家たちのものは、アップルテレビというものと Bluetooth 接続をして、WiFi を使って再生されます。

　表面がアップルテレビ、右側に見えているのがスピリオです。

　アップルテレビに映し出された演奏家の演奏を見ながら、音はそばのスピリオから生音が聴こえてきます。実際この空間にいると、ものすごく臨場感にあふれていて、感動します。

　(自動演奏の模様を動画に撮ったのでお見せしたかったのですが、著作権に引っかかるようでアップできませんでした)

　自動演奏の最中に直にピアノに触れて、演奏家たちの指の動きを感じることができるのです。夢のようです。

　こちらはピアノだけを録った、スタインウェイピアニスト・金子三勇士さんの、「ラ・カンパネラ」のコーダの部分です。

　さて。

　それでも私は、『ピアノを弾かない人にピアノを売る』というこのコンセプトには今一つ納得しておりません。

　そりゃあ自動演奏によって、ピアノは使われるかもしれませんが、私にはそれは「弾かれている」とはどうしてもなりません。

　鍵盤に、手垢のつくことのないピアノ。ピアノの人生にとって、それは幸せな人生だと言えるでしょうか。私がピアノだったら、汚れても傷ついても、弾かれて愛されるピアノでいたい。そう思います。

　なので私が弾いて気に入らないピアノを、夫が買うことに同意はしません。こちらでも試奏をさせていただきました。

　スピリオは、奥行211 cm の B 型と、奥行170 cm の M 型があります。それ以外の大きさに自動演奏機能をつけたければ、完全オーダーとなるようです。できないことはなさそうですが。

　ショールームにあったのは B 型なので、まずは B 型を弾いてみました。

　スタインウェイらしい、王道な響きです。どんな弾き手にもどんな曲もにも対応できる、オールマイティさがあります。

　そして次に、商談中ということでショールームには置かれていなかった M 型が、倉庫のようなところにあり、このようなところでよければ是非弾いてみてくださいとおしゃったので、もちろん弾かせていただきました。

　うーん。。

　やはり、違いすぎるのです。お部屋の環境が違いすぎるので、一概には言えないのですが。。

　ボディの大きさによる差が明らかなのです。そして一番気に入ったのはレスの速さです。小さい方の M 方は、レスが遅いのです。遅いと言っても実際にはコンマ1秒あるかないかだと思うのですが、それでも弾きづらいのです。車に例えて言うならば、アクセルを踏み込んだ時、B 型がマニュアル車だとすると、 M 型はオートマチック車のような、そのような感覚の違いがありました。

　もしも買うならば B 型しかありえないな。でも、M 型でさえ、そうそう手の届かないような価格なのですよ、、＿|￣|○

　自宅に迎えることはないとしても、こんなに素敵なピアノで、一番好きな『献呈』を３回も弾かせていただき、それだけでも思い出となります。

　でも、このようにピアノ弾いていて、ピアノが楽しくてたまらないと思えば思うほど、やがて訪れるであろう右手の指が動かなくなる日のことを思います。このままずっとピアノを弾いていたい。その X デーがやってきたとき、私は何を思うのでしょう。

　今現在でさえ右手がこんななのに、こんな素敵なピアノを自宅に迎えることは、私には考えられません。

　そしてまた、このことを夫は知りません。なので話はややこしく、買えないと思う理由を述べるのに、今一つ真実味を欠いてしまいます。そこを夫が見抜けないはずがありません。

　困ったなぁ。。

　とりあえず、この日説明していただいたスピリオについてのことと、ピアノを弾いた感想は、夫に持ち帰ることにします。

　記念写真撮影。後藤社長と仲良し店長も一緒に。

　表のウインドウと玄関。この玄関、自動ドアなのですが、営業時間中でもドアが開くのは内側からのみで、外からは開かないのです。

　昨日の夕焼けが綺麗だったので載せておきます