勝目梓さんの短編集。私は今回初めて彼の作品に触れたのだが、彼のようなジャンルの小説をバイオレンス・ロマンというようである。官能小説を土台として、そこにバイオレンスとアクションを持ち込んだものが彼の世界らしい。

 官能小説としてみてみると、そんなに辛口なものではなく、普通の小説でももっと生々しいシーンはいくらでもある。
 そして、こういう類いの小説を読むといつも思うことだが、そこにはいつも哀しさと儚さがある。何故だろう。
 
 性欲とは。

 その欲を前にして、人間とはかくも弱いものかと思う。必死に努力して身を立てたのにも関わらず、性欲に抗えずにその地位から陥落した人は、枚挙にいとまがない。性欲を前にすると、理性は何の役にも立たなくなる。

 結婚していても、人を好きになるときもある。結婚している人だと知りながらも、強く惹かれてしまうこともある。直ぐに消え去ってしまうとわかっていながら、やはり追い求めてしまう。そして、求めた後に残る哀しさを埋めようと、またも求めてしまう。延々と、ただ延々と、繰り返される無情。

 でも、それを美しいとも思う。そこにはただ身体だけではなく、愛も、存在している。性欲と愛は、とても近いところに存在している。

 だからこそ、哀しいのか。儚いのか。

 不思議なものだ、性欲とは。
 そして、この私もまた、それを前にして無力さを痛感しているひとりである。