主人を見送り、何も出来ない私。
家族用の待合室などない古い病院。
古いテレビとソファ、車椅子や備品なども置かれ、半物置のような患者さんとの談話所みたいなところで手術が終わるのを待つ。




基本的に、晴れ女の私。
この日は珍しく、朝から雨。




何もすることがない。
主人のご家族とたわいのない会話。
いつも通りだ。




ご両親は残り、お姉さんたち家族は先に帰宅。
励ましの言葉をかけてくれた。




お茶などを買いに行ってくると、ご両親が席を立つ。
待つ間、ひとりでボーッと、テレビを見たり、外を眺めたり…。
また、泣きそうになる。




このまま、どうなるんだろう…。
手術は無事に終わるのか…。




ご両親が戻り、私の泣いた目に気付く。




「なぁにぃ?不安になっちゃったの?」
と、笑いながら背中をさすってくれる、主人のお母さん。
「大丈夫だから、ね。」
励ましてくれるお母さん。
私が泣くと、お母さんが泣けないよね…。
ごめんなさい…。




やることもないので、手術室の前と待合の場を行ったり来たりした。
何も見えるわけは無いが、中の様子が知りたかった。
たまに、スタッフがバタバタしている様子が見えると、主人なのか?と不安になった。




母の作ってくれたおにぎりも食べた。
空に晴れ間が出てきた。
手術が終わる頃、ちょうど晴れる予定。
きっと、太陽が出て晴れてきたら、手術も無事に終わるはず。
なんだかそう思っていた。





晴れ間が見えてきたので、また、手術室の前へ。
変わらぬ様子だった為、待合の場に戻るとすぐ、看護師さんから手術が終わったとの報告。
タッチの差で、主人が出てくる時に会えなかった。




予定より、少し早く手術が終わった。
集中治療室に戻った主人。
酸素マスクをし、目を閉じていた。




先生から、無事に終わったこと。
取りきれるものはきれいに取りきったこと。
今晩、脳梗塞などないか、慎重に診ていくこと。
明日朝、CTを撮り、脳梗塞などなければ、大丈夫であること。
質問にも丁寧に返事をしてくれ、話してくれた。





初対面では、
「若い先生だなぁ…大丈夫かなぁ?」
と不安になった主治医。
このときは、本当にそんなことを思ってごめんなさいと思った。
先生、ありがとうございます。
本当にそんな気持ちしかなかった。





会話できるが、麻酔も切れたばかりで辛そうな主人。
子供のこともあり、先生や看護師さんに任せ、早めに病院を後にした。





いったん自宅に戻り、荷物をまとめたり片付けをし、実家に向かう。
いつもの元気な子供たち。
ほっとしたのか、お腹がすく。





ご飯を食べながら、またなぜか泣けてくる。
「何の涙?」
と考える。





悲しい、可哀想、嫌だ…そんなんじゃない。
「自分のことのように辛い。」
考え出た答えがそれだった。
夫婦って、こう言うことなのかな…と、ちょっと深いものが分かった気がした。


朝、母におにぎりを握ってもらうよう頼んだ。
母は気をきかせてくれて、卵焼きも焼いてくれた。
食べるかは分からないが、義理の両親の分もお願いした。
何かは食べないともたない。
コンビニも…しょっちゅうは体調が心配になる。



手術は午前10時からの予定。
1時間前には病院に行きたくて、早めに実家を出た。
どうしても氏神様にお参りしたくて、時間はギリギリだが、自宅に寄った。



子供が病気したりすると、いつも来る氏神様。
その度に、自分が弱いときだけお願いしていいのか…と、後ろめたい気持ちもある。
もちろん、お礼参りも欠かせてはいない。



いつものように、お参りをする。
初めて、お賽銭箱にお札を入れた。
撫で牛もいる神社。
牛さんも、いつものように撫でてお参りした。




9時過ぎに病院に到着。
集中治療室に向かう。




変わらず、辛そうに目を閉じている主人。
普段と変わらないよう、声をかけた。




しばらくするとご両親も到着。
術前の処置があるからと、外で待つよう看護師さんに言われる。



集中治療室から出る前、主人に声をかける。



「頑張ってね。待ってるからね。」



両手で主人の頬を包み、おでことおでこをくっつけた。
手術が成功しますように。
悪いものが見付かりませんように。
主人の目が潤んでいるように見えた。





手術室の前で、主人が来るのを待っていると、主人のお姉さんたちも来てくれた。
いつも通り、賑やかに会話をする。




ふと、お姉さんに、
「大丈夫?」
と言われた。
泣きそうになったけど、
「私がしゅんとしてもね…子供たちもいますし😊」
と、笑顔で返した。




主人が手術室の前に。
ベッドで寝たまま、運ばれてきた。
みんなでベッドの周りに集まる。
それぞれ、声をかける。
お姉さんが、
「ひげボーボーじゃん(笑)」
と言うと、弱いながらも主人が笑った。





手術室の奥の扉の前まで主人は運ばれる。
そこでしばらく待たされていた。
付き添いは手前の扉の前までしか入れない。
手前の扉は開いていたため、私は主人が見えなくなるまで見ていた。





ベッドに仰向けの主人。
顔は見えない。
でも、片手の指先で何度も目頭をぬぐっていたのが見えた。




泣いてるのかな?
何の涙だろう?
みんな来てくれたしな…。




頑張ってよ。
待ってるよ。
子どもたちも、待っているよ。
もし、手足が動かなくなっても、車イスでいいから。
でも、記憶は無くなって欲しくないな…。
会話もしたい…。




そんな風に思ったり、願ったりしながら、主人を見送った。
カテーテルの処置は2時間ほどで終わるとのこと。
とても古い病院。
きれいな待合室などなく、車椅子などが沢山置かれた、ソファとテレビのある場所で待つ。





2時間経過しても連絡がない…。
遅い…。
不安が募る…。




3時間経ち、看護師さんに呼ばれる。
カテーテル後、MRIのナビゲーション?
術前の検査?もしていたよう。
検査をすると言う話は聞いていたけど、じゃあ2時間じゃなくて、その時間も入れといてよ…と思う。




主人は集中治療室にいた。
明日の手術まで、絶対安静のよう。
顔を見て安心したけど、検査検査でかなり疲れている様だった。





カテーテルを入れた右足は固定され、寝返りも禁止。
腰や首が動かせず痛いようで、さらに頭痛もあり、辛そうな主人。
こんなに弱った姿を見るのは、初めてだった。




主治医の先生がみえる。
色々な説明を受ける。



カテーテルの処置が無事に終わったこと。
明日の手術のこと。


もうあとは、先生にお任せするしかない。





小脳血管芽種、検索すると必ず出てくる、
フォン・ヒッペル・リンドウ病。
VHLという難病。




血管芽種がなんなのか必死で調べていたときは、全く目に入らなかったが、気付けば必ず、その難病が出てくる。




主人に大きな病歴はない。
でも、主人の祖父、父の病歴がひっかかる。


祖父は腎不全で透析を受けていた。
大動脈破裂で亡くなったらしい。


父は頭に何かあったことがあった。
高血圧で、薬を飲んでいる。
腎臓に動脈瘤や嚢胞があると聞いたことがある。
背中辺りに、大きな脂肪の固まり?みたいなものがあり、とったこともある。


主人も、左胸の上に、同じような脂肪の固まりがある。




主人の両親もいたが、思いきって、先生に話をしてみる。
胸の腫瘍がある、腫瘍ができやすい体質なのか?
祖父や父の病歴。
難病が気になること。




先生は、胸の腫瘍は関係ないだろうと。
腫瘍の多発性の病気であれば、もっとあちこちに出来るはず。
今は手術へ向けてのことしか出来ないが、入院中にざっと全身調べましょうと言ってくれた。




私の突然の話に、ご両親がどう思ったかは気になるが…。
それよりも、主人の身体が心配だった。




今日はもうやることもないし、主人も休みたいようだったため病院をあとにする。
エレベーター前で看護師さんに渡さなけれざならないものを、まだ渡していないことに気付く。
ご両親とはそこで別れ、私だけ集中治療室へ戻る。




主人心電図のモニターを見る。
他の人より、かなり脈が遅い。
60前後で、50台になることも多い。




それは若いときからの事も知っているし、毎年の健康診断で、いつも言われる事でもある。
でもこのまま、心臓も止まってしまうんじゃないか…と不安になり、看護師さんに話をする。




いつも聞かれるが、スポーツやってますか?と聞かれる。
そしていつも、何もやってません…と答える…。


スポーツマンハートと言って、脈が遅いのは長距離ランナーに多いらしい。
脈が遅い分、疲れにくいらしい。
脈を遅くする薬はあるが、早くする薬はないようだ。




主人の脈のことは看護師さんも気付いていて、先生も分かっている様だった。
大丈夫とのことで、安心して病院を後にする。





子供たちは、空き時間に主人の両親が私の実家に連れていってくれた。
自宅に戻り、荷物をまとめ、実家に向かう準備をする。


明日の手術は午前から、終わりの時間はちょうど下の子のお迎えの時間。
手術時間が長引くこともあり、朝の送り出しやお迎えが不可能だったため、子供たちの学校などは休ませることにした。
今日はそのまま実家に泊まり、明日、早くから私は病院へ向かうことにした。




実家では、いつも通り振る舞った。
不安で押し潰されそうだし、気を抜くと泣きそうになるけど、そうなれば、泣いたって仕方ない!あんたがそんなんでどうする!と、優しい言葉はかけてくれない私の母。
おかげで強くはなったし、自己解決が出来る大人にはなった。
でも、弱みを見せたり、素直に悩みを話せる相手ではなくなった。



子育てに正解はないけど…。
子供によっては、正解にも不正解にもなるんだろうな…。




上の子は学校が休みになり、嬉しそうだった。
それでいい、いつも通りで。
子供たちまで、不安になっても仕方ない。
ましてやまだ、小学校の低学年。
もう少し、大きくなったら支えてもらおう…😅





遅い夕食を済ませ、お風呂に入り、布団に入る。
眠れそうになかったが、明日のために、目を閉じた。