この物語は『異能』と言われる力をもった『異端者』と呼ばれる現代社会の日影に逃げ隠れる様に存在する人々と、その者たちを危険分子とみなして同じく『異能』を持って秘密裏に処理しようとする警察の話である。
 この世界では『異能』は秘匿されている。
 一般人は『異能』というものが存在していることは全く知らない。
 時折、不可思議な事件がニュースで流れている。そのくらいの認識しかない。
 警視庁異能捜査課、略して異捜の尽力により今のところ大きな被害は出ていない。
 しかし、中には自らの力を曝け出したいと考えている『異端者』も少なくはない。
 警察側も事を荒げたくはないので極力ひっそりと行動をしている現状である。



 そんな世界のお話



 20××年 8月 千代田区

「あそこでベンチに腰掛けラブラブしている奴が異端者なんじゃないかと思うと逮捕したくなる」
「それ、ただ単に異端者を捕まえたいだけなのでは?」

 直接太陽光に照らされる公園のある一角で暑苦しいスーツをキッチリ着て会話する二人の姿
 一人は薄い黄色の髪に白黒反転した目の色をした端正な顔立ちの男、早乙女 尚橘(さおとめ なおき)
 もう一人は薄い茶色の長髪に目立つ橙色の目をし、スーツ姿には似合わない帽子を深く被る、一見女にも見える男、蒼生 なずな(あおい なずな)
 二人はそう見えないが実は警察だ。しかも警視庁勤めである。
 二人は刑事部捜査第一課に勤めている。しかし、これは本来の部署ではない。
 本来は、異能捜査課という『異能』をもった『異端者』を同じく『異能』をもった『異能者』を使って排除しようとする専門の課に勤めている。
 しかし、そんな凄い部署に所属していながらも二人は特に何をするでもなく、ただただそこで雑談をしているだけであった。

「いずみ遅いな」
「どこまで買いに行ったのでしょうね」
「あいつ減俸だな」
「あなたにその権限はないでしょう」
「奢らせる」
「既に奢らせているじゃないですか……」

 どうやら仲間の一人である『いずみ』と言う者を待っている様子だ。
 いずみも普段は二人と同じく捜査第一課にと『異捜』に勤めている。
 雑談を交わしながら時間を潰していた時、早乙女はふと顔を右に向けた。
 そこは早乙女にとっては変わらぬいつもの風景。
 偶然、公園の側を不機嫌な顔で歩いている男が視界に入った。
 黒髪、眼鏡、細身に長身。そして何より奇妙なのはこの炎天下の中、暑苦しいマフラーをしていること。
 早乙女はその男の出で立ちが気になったのか、なずなに話しかけた。

「……なぁ、あいつ…………」
「え? あぁ……暑そうな人ですね」
「………………」
「……早乙女さん?」
「おーい! 買ってきたよー……はぁ、疲れたぁー」
「あ、お帰りなさい、いずみ。遅かったですね」

 手を振りながら二人の元に駆け寄ってくるこの男がどうやら二人の待ち人いずみのようだ。

「だってよー……どこにも焼きそばパン売ってないんだよ! すっごい走り回ったよー」

 なずなより濃い茶髪に深い海のような色合いを持つ青色の目。
 この二人より明るい印象を受けられる。
 そして、弄りやすいのか焼きそばパンを買いに行かされていたようだ。

「早く焼きそばパン渡せ」
「もー折角買ってきたのにーお礼とかないの?」
「はいはい、ありがとうありがとう」
「もう!」

 文句を言いながらもしっかり早乙女となずなに焼きそばパンを渡したいずみは、相当疲れて腹が減っていたのかすぐに自分の分も取り出し食べ出す。

「んー! 美味しいー! やっぱ苦労して買ってきた物は美味しいなぁ。後はこのうだるような暑さが無ければいいけど!」
「そうだな、いずみも戻ってきたし、行くか…もぐ」
「そうですね、もぐもぐ…一度戻って本部に報告しなくては」
「この案件の犯人早く決まるといいねーもぐもぐ」

 警察官が行儀悪くも食べながらすぐ側にある警視庁への道のりを歩む。
 今、この三人が追っている案件は実はこの公園で起きた殺人事件である。
 公園のある一角では映画でよく見るようなKEEP OUTのバリケードテープが張られており、三人とは違いしっかりと制服を着た警官がいるので一般人は入られないようになっている。
 被害者は40代既婚女性。何か細いもので首を締められ、死亡していたところを散歩中の一般人男性が朝、発見したとのこと。
 加害者には夫が上げられており、アリバイもない。
 日頃から妻を疎ましく思っていたようで職場でも『死ねばいいのに』などの過激な発言をしていたところから一番怪しい現状で現在事情聴取中である。
 そのことを考えるとすぐに終わりそうな案件なのか、三人は特に気を負っているようなことはないようだ。
 この三人はここで新たな証拠がないか最終的な現場検証をしていたようだ。
 それも終わり、丁度昼だったこともあったのか、いずみに焼きそばパンを買いに行かせていたらしい。
 成果があったのか足取りも軽やかである。

 早乙女を除いて



 焼きそばパンも食べ終わり警視庁に戻ってきた。

「では私は報告書を書いてきますね」
「あぁ、頼む。いずみ、お前は……ミルクティー買ってこい」
「えーー!? またっすか!?」
「なんか文句あるのか……?」
「横暴だー!」

 なずなは報告書を書きに、いずみはしずしずだが言われた通りにミルクティーを買いに
そして早乙女は自分の机に戻り、引き出しをあさる。

――確かここに……あった

 どうやら警察側が確認出来ている異能者の異能一覧のようだ。

――俺の思ったような異能はいくつかあるのか……。
――なずなは……報告書を書くのに夢中か。
――確認してくるくらいならば……書き置きくらいはしとくか。

 早乙女はささっと付箋紙に『少し出てくる』と書き残して警視庁を後にした。

――本当、困った方ですねぇ……

 なずなはどうやら自分の異能、『未来予知』により早乙女が出掛けることを知っていたようだ。
 但し、未来は不安定である為、必ずこの未来になるとは限らず、自分とそして様々な者の選択肢により変わってくる。
 所謂パラレルワールド、というところだ。
 しかし、今回は当たったのだろう。

「あれ? 早乙女さんは…?」

 ミルクティーを買いに行っていたいずみが戻り、なずなに問い掛けた。

「早乙女さんは『少し出てくる』だそうですよ」
「どこに行ったの?」
「さぁ……」
「少し出てくるですぐに帰ってきた試しないのにーミルクティーどうするのかなぁ、もう……」

 どうやら二度もパシりにされ、仕舞いにはいないという事実にいずみは少し拗ねているようだ。

「名前を書いて冷蔵庫に入れときましょう? きっと戻ってきたら飲みますよ」
「……うん。あっ! 早乙女さんの仕事どうする……?」
「そうですね……私たちが出来るものは私たちでやりましょう。」
「了解」

 なずなは早乙女の仕事を自分といずみの分にわけ、いずみはマジックペンでミルクティーに『さおとめ』と書き、冷蔵庫に入れに行った。



 ところ変わって早乙女はというと、特に目的地があった訳でもなかったようで、考えごとをしながら歩いていたら先ほどの公園に戻ってきてしまったようだ。

――思わずここに来てしまったが、どうしたものか……

 そこは先ほど三人がいた時とは違い、バリケードテープもなければその側に立っていた警官もいない。
 なずなが報告書を提出したことにより、現場検証はもう必要なくなったという判断により撤収したのだろう。
 早乙女は暫くそこをぼうと見ていたが、こんなことをしていても無駄だと思い、そこら辺をふらふら歩こうと決めた。
 振り返り、歩き出そうとした時、前方から来た人とぶつかってしまった。

「うぶっ!」
「あ、すみません」

 そう言うと早乙女はぶつかり尻餅をついてしまった人に手を差し伸べた。

「いえいえ、しっかり前を見てなかったのは俺ですか……」
「「あ」」

 尻餅をついた人が顔を上げて、互いに相手の顔を確認したと同時に二人が声を揃えて言った。

「……どうぞ」
「あ、ありがとうございます」

 尻餅をついた人が早乙女の差し伸べてくれた手を取り立ち上がる。
 その人の容姿は黒髪、眼鏡、細身に長身、そしてマフラー。
 先ほど見た暑苦しそうな男に間違いないようだ。
 しかし、顔を間近で見てみるとどういうことか、早乙女が追っている案件の第一発見者であった。

――先ほど会った時はこのような格好をしてはいなかったというのに……

 早乙女は無表情で驚いている。
 遠目からということと、朝会った時とは違う格好だったのだろう、全く気づかなかったようだ。
 対して暑苦しい男は、まさかこんなところでまた再会すると思っていなかったので少し嫌そうな表情を浮かべていた。

「あっえー……っと、刑事、さん?また会いましたね。 休憩中な感じですか?」
「早乙女だ。まぁ、そんなところだな。お前は確か……高橋 稔(たかはし みのる)だったか、こんなとこで何をしてる?」

 早乙女は昼、見た時からこの男は異端者なのではないかと疑っているので、まるで尋問しているかのような声音で言う。

「へ? あ、はい! 帰り道、なんです」

 苦笑いをしながらもしっかり返した。
 この男、高橋稔は早乙女が踏んだ通り、異端者である。しかも過激派グループに在籍している。
 高橋稔という名も実は偽名であり、似ている顔で実際に存在している者の名を勝手に借りているだけ。
 本当の名というものは無く、親しい者によく呼ばれている名は三ツ屋 水月(みつや すいげつ)である。
 他にもルナ、葉月(はづき)、和月(かづき)、泉月(いづき)……それらを総称してユエと呼ばれることもある。
 三ツ屋は早乙女が異能者だということに気付かないまま、早乙女は三ツ屋を異端者だと疑いながら会話を進める。

「殺人事件があったというのにまたここを通るのか?」
「いやぁ近道ですから」
「そうか。しかしお前そんな格好で暑くないのか? 見てる俺が暑い」
「はは、刑事さんもそー変わらないじゃないですか。しかも涼しそうな顔してますよ?」

 何気ない会話にも早乙女は地味に探りを入れている。
 三ツ屋は「人間と会話する気なんかないよ」と思っていて、帰りたそうにしている。

「あ、じゃぁ俺こっちですから」
「奇遇だな、俺もそっちに用があったんだ。一緒に行かないか?」
「(うげぇ……)あ、はい。是非」
 
 そうして二人は歩き出した。
 早乙女は出来るだけ三ツ屋から何か聞き出したがため、特に用はないのだが嘘を吐いた。
 三ツ屋もくそ正直に帰ることが出来なくなってしまったので歩き出した方向は適当である。
 内心、今日は厄日だと落ち込み、諦めている。

「そのマフラーや眼鏡……してなかったよな?」
「オシャレですよ、オシャレ。最近流行ってるんですよー」
「……そんな暑苦しい連中あまり見ないがな…………」
「えーいますよー あ、犯人ってわかったんですか?」

 三ツ屋は苦笑いを浮かべながら次の話題に持っていった。

「……あぁ、最有力候補は被害者の夫だ」

 話題を変えられてしまい、少し眉を潜める。
 しかし、強引に話を戻すわけにもいかず、そのまま進める。

「えっ」

 三ツ屋は少し驚いたような顔をした。

「何か、知っているのか」
「あ、い、なんでもないです!あの人、夫いたんだーって驚いただけですよ」
「そのことはちゃんと誰かが伝えたはずだが……」
「忘れちゃったんですよー死体見ちゃいました、しね……(俺が警察に、人間に、協力することもない、か……)」

 三ツ屋は何か知っているのだろうか。
 少々心苦しい言い訳をしながら、へらりと笑う。
 早乙女は三ツ屋に対しての不信感が更に募った。突っ込んで話を聞こうとした時

「キャー! 誰かー! 引ったくりよー!」

 お婆さんの鞄を強引に奪い取り、原付バイクで逃走を謀るものがいた。

「……ナンバープレートから突き止められるな」

 早乙女は冷静に分析しているが、その後ろを女性警官が後を追って走っていた。

――あいつは……はぁ、あの馬鹿

 早乙女はその女性警官を見て、呆れていた。
 本来なら原付バイクに追いつけずに確実に引き離されるはずだが

「おわっ! なんだ!?急にスピードが!!」

 何故か原付バイクのスピードが落ちて女性警官が追いついた。

「トアーッ!」
「ギャー!」

 跳び蹴りをかまし女性警官は見事、引ったくり犯に追いつくことが出来た。
 後からもう一人の女性警官が現れ、腕時計を見ながら犯人に手錠をかけた。

「15時36分48秒。あなたを現行犯逮捕します」
「くそぉ……」

 跳び蹴りをかました女性警官は走り疲れ息を切らしながらもしっかりとお婆さんに鞄を渡していた。
 お婆さんは嬉しそうに笑っている。

「凄いガッツのある女性ですね……」
「むしろ馬鹿だ」
「お知り合いで?」
「まぁ、な」

 早乙女は女性警官たちに近づく。つられて三ツ屋も早乙女の後を追う。

「「あ」」

 どうやら女性警官二人が早乙女に気付いたようだ。

(うわぁぁああ今の早乙女さんに見られてた!?異能使ったのバレた!?)
(大丈夫だよ)
(いや、でも……)
(大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫)

 跳び蹴りをした者の名は、煉谷 茅花(れんたに つばな)と言う。
 もう一人の女性警官の名は、白田 咲(しろた さき)と言う。
 二人は早乙女と同じく警視庁異能捜査課に勤めており、早乙女は上司にあたる。
 しかし普段は早乙女とは違う警視庁刑事部交通課に勤め、カモフラージュを施している。
 煉谷の異能は『テレパシーと重力操作』
 白田の異能は『テレパシーと治癒』
 どうやら今、異能の一つである『テレパシー』を互いに使い会話しているようだ。

「活躍だったな。茅花、後で話がある。来て貰えるか?」
「は、はい……」
(バレてるーーーー! 何が大丈夫だよ!!)
(早乙女さんには誤魔化せなかった、ね……)

 そして、煉谷は先ほど引ったくり犯を捕まえる際に『重力操作』の異能を使い、犯人を捕まえた。
 異能は秘匿されるべきものである。
 こんな街中で一般人にバレるような異能の使い方をするなと散々言われてきているので、
 今回はそのことでお咎めがあると煉谷は解っているのだろう。落ち込んでいる。

「えっと、その方は?」

 白田が空気を変えてあげようと話を逸らす。

「あぁ、こいつは高橋稔だ。俺が今追ってる案件の第一発見者だ」
「どうも、高橋です」
「で、こっちの髪が長い方が白田咲。デカいヘヤピンをしてる方が煉谷茅花だ」
「どうも、煉谷です」
「白田です、よろしく」

 互いに手を差し伸べ、順番に握手を交わす。

「えーと……お二人と刑事さんはどういう関係で? 上司と部下?」

 早乙女は少し黙り二人に視線を送る。

「彼女らは……まぁ、仲間だ」
「へぇ、そうなんですか(質問に答えてねぇ)」

 異捜では上司部下という関係ではあるが早乙女と二人の部署は違う。
 そのことを言うわけにもいかず、しかし友人というわけでもなく、早乙女は少し考えた末に曖昧に答えた。
 煉谷はちらりと引ったくり犯に目線を移したのに気づいた白田は自分が仕事中なのを思い出して言った。

「それでは私たちはこの者を連行するのでここで失礼します」
「ご苦労だったな」
「早乙女さん、後ほど伺います」
「あぁ」

 二人は自分らが乗ってきたパトロールカーに引ったくり犯と共に乗り込み、去っていった。

(茅花ー)
(うわっ! 運転中にテレパシー使って話しかけないでよ!)
(あの、高橋さん?だっけ?)
(うん)
(が、付けてたピアスって、ルナも付けていたよね……?)
(え、あれ、そうだっけ)
(うん、多分だけど。髪長くてあんま見えないけどさ、そうだった気がする)
(あー……確かに言われてみればそうだった気がする)
(しかも片耳だけだったよね、二人とも)
(あ! もしかして、カレカノ!?)
(やっぱそう思う? 二人が知り合いとかだったら面白いよね!)
(今度、ルナに聞いてみようか!)
(うん!)

 場面は戻って早乙女と三ツ屋はというと

「えーと、つ……ば、なちゃん、でしたっけ。凄かったですねー流石警察っていうか、俺思わず興奮しちゃいましたよ!」
「普通の警官はあんなことしないんだがな……捕まえられたからよかったものの」
「まぁまぁ結果良ければ全て良し、ですよ!」
「まぁな……」

 白田と煉谷を見送った場所に立ち止まり、このようにただの雑談とをしていた。
 そして話はあるテーマに変わった。

「刑事さんって、超能力とかって信じてます?」
「………………」
「俺いつも思うんですよねー。心読めたらいいなーとか、空飛びたい! とか、動きたく時に物を動かして手元に引き寄せる、とか」

 すっと目を細め早乙女を見る。

「……そうだな、手から火を出したり、電気を発生させたり……こんな暑い日に涼しくする能力などあったらいいな」

 じっと三ツ屋の目を見つめ返す。
 その目はまるで獲物を狙う肉食獣の目にそっくりであった。
 しかし三ツ屋はそんな目に気付いていないかのように、くるくる回ったあと歩き出した。
 危ないことに後ろ向きで。
 にっこりと笑いながら、話を続ける。

「刑事さんって、名前なんでしたっけ」
「早乙女。早乙女、尚橘だ」
「早乙女、なおき……ありがとうございます」

 またもやにこにこと笑顔を浮かべる。
 その顔が早乙女はあまり好きではないのかわからないが、眉間に皺をよせて見ている。

「あっ!」

 三ツ屋は何かを確認し、いきなり足を止める。
 それに倣い、早乙女も足を止めた。

「おーい! たっちゃーん!」

 三ツ屋の視線の先に知り合いがいるようで、手を大きく振る。

「刑事さん、あっちに友達がいるんでここでさよならです」
「あ、おい!」

 そう言うと三ツ屋は早乙女の横を通り、駆け足で友達のところに向かう。
 だが、まだ聞きたいことが山ほどある早乙女は反射的に三ツ屋を引き止めようと腕を掴んだ。掴んだはずだった。
 しかしなぜかわからないがするりと抜けてしまった。
 早乙女は三ツ屋の先に友達らしき人物が立ち止まっている事に気付く。
 だが、三ツ屋が重なり、逆光も相まって顔を認識することは出来ないようだ。

「刑事さーん」

 三ツ屋が友達の近くで立ち止まり、少しだけ声を張り早乙女を呼ぶ。
 あまり距離は離れていない。
 今から走れば追いつけるだろう。
 しかし、今早乙女がいる場所が悪かった。
 横断歩道の前に立っており、三ツ屋は横断歩道を渡った奥にいる。
 今現在の信号は丁度赤。
 現役の警官が市民の前で信号無視する訳にもいかない。

「そういえば、今朝の事件の凶器って見つかったんですかー? あのーまるで血のように赤くて、細くて、鞭のような縄のようなものー!」

 早乙女の知り得ない情報を問い掛ける三ツ屋。

「どういうことだ!」
「あれー? 言ってなかったですけー? あははーすみませーん!」

 冷静に聞き返すが、三ツ屋はけらけらと意地の悪い笑い方をしている。
 早乙女の眉間の皺が深くなる。
 反対の横断歩道の青信号が点滅している。
 あと少しで信号が変わる。
 赤になった。
 車道の信号が黄色に。
 あと、数秒

「それじゃあ、また会えたら」

 早乙女の目の前を大きなトラックが若干車道的にも信号的にもギリギリな感じで通る。
 信号は青になった。



 しかしもう、二人の姿はなかった。