『披露宴』

 誰もが嬉しそうだった。誰もが幸せそうだった。誰もが二人の出会いを祝福していた。今まで参列した結婚式も素敵なものばかりだったが、身内の贔屓目を取り除いても、こんなにキラキラとした結婚式は二度とないような気がする。

 従兄弟の子のノブの夢は、プロサーファーになること。それは小学校の卒業文集にも書き残されていた。そして、それと同じくらい重大で、何にも代えがたい夢が、小学校からの幼馴染みであるS奈と結婚することだった。

 小学生だった二人は、幼い恋心で結婚を誓い合っていた。まわりの大人は麻疹のような浮かれた熱だと高を括っていた。だが、ノブが17歳の時、単身でオーストラリアにサーフィンの修行に出たときも、S奈は辛抱強く待ち続けた。そして、やがてノブが海外を転戦するようなサーファーになることを見越し、将来の彼を支える覚悟でS奈自身もハワイに留学をした。

 S奈は語学の他に障害児のケアについても学び、日本に戻ってその知識と経験を活かせるボランティア活動を始めた。その生徒たちが、拙いダンスの映像を披露宴に寄せてくれた。

 ノブの兄とS奈の兄も同じ中学を出た友人同士。ノブの兄が「尊敬できる自慢の弟」といって泣けば、S奈の兄も「辛いことがあったなら、いつでもどこへでも助けにいく」といって泣いた。
 
 晴れ間がのぞいたプールサイドに出れば、S奈のダンス仲間であるウェディングプランナーがリードして、一人二人と踊りだした。そして、いつしかフラッシュモブのように増殖して、圧巻の余興となった。その最前列にいたのは、意外にもオレの従兄弟であり、ノブの叔父にあたる46歳のM人だった。

 ノブの父親からは「幸福とは、成長し続けること」という言葉が贈られ、S奈の母からは、「夢を描き続ければ、必ず叶う」という言葉が贈られた。とにかく、そこにいた誰ものあらゆる言葉、あらゆる感情表現になにひとつ曇りがなかった。

 特筆すべきは、皆が誰かに触れていたことだ。

 娘が父親の肩にもたれる。夫が妻の腰に手を回す。孫が祖父の膝の上に乗る。新郎の友人たちが、両家の親族と、ノブのスポンサーの取締役と抱き合う。何より新郎が新婦の肩に手を回し、バージンロードから消えていく姿は、無垢で美しい姿に見えた。言葉ではどうしても伝えきれないことがあっても、それをきっと温もりが補ってくれるのだと思う。また、触れ合うことで互いの心の距離が近くなることも確かだと思う。

 これ以上は、どれだけ言葉を重ねても、この結婚式の眩しさを語りきれないだろうから、オレの記憶の中に、静かに仕舞うことにする。
 
 ノブ、S奈、結婚おめでとう。そして、素敵なひとときをありがとう。