“コーダの自分史”の更新は、久しぶりになる。
それぞれのコーダが、自分のあゆんできた道をつづってくれている。そのひとつひとつの語りには、家族と育ってきた時間の流れが、それぞれの形で刻まれている。
今回は社会人 30代 みーさん![]()
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お母さまがふとこぼした「みーの声が聞きたい」というたった一言を、何年経っても大切に抱えてきたコーダの記録。
その言葉を出発点に、本格的に手話を学びはじめ、お母さまとの関係を改めて見つめようとする過程が、ていねいに綴られている。
一人のコーダが見て、感じて、迷いながらも前へ進もうとする等身大の語り。
この語りが、どこかでひとりでがんばっているコーダにも伝わりますように。
そして、自分の歩みをふり返るきっかけや、ほんの少しの勇気の種となれば嬉しく思う
社会人 30代 みーさん
家族構成:父(聴者)、母(ろう者)、兄と自分(コーダ)
「みーの声が聞きたい」
ろう者の母から一度だけ言われた言葉。ずっと忘れられず私の心に残り続けている言葉。
これがきっかけで、私はろう者である母ときちんと意思疎通ができるように、2024年、本格的に手話の勉強を始めた。
私は2人きょうだい(兄)の末っ子として生まれた。
父は聴者、母はろう者。2人は同じ手話サークルで出会った。
私はこの31年間、聞こえる世界と聞こえない世界が組み合わさった世界でずっと生きてきた。
私は、穏やかな兄と違ってわんぱくでよく問題を起こす性格。よく母には怒られた。怒られるときも声で怒られるわけではない。ゲンコツは当たり前。腕を掴んで連れ出されるのも当たり前。今ではダメな怒り方かもしれないけれど、当時はそれが日常茶飯事だった。
朝が弱い私が幼稚園のバスに間に合わないことも多く、いつも母が自転車の後ろに私を乗せて、猛スピードで幼稚園まで送ってくれた記憶が今でも鮮明に残っている。その時ももちろんゲンコツ1発くらった。
母の若い頃は手話が禁止されており、口話での会話になっていた。だから、母の母(祖母)は手話は一切やらず口話。私も兄も、口話だから手話はできない。父のみ手話ができる。母は補聴器をつけると、なんとか音は分かるものの、何の音なのか、誰が何と話しているのか、内容がわからない。それでも母は、祖母が大好きで毎日のように祖母に電話をかけ、なんとか補聴器を通して祖母の声を聞き取ろうとしていた。内容が分からなければ私に電話を代わり、内容を聞いて母へ伝える。母に伝え終わったら受話器を母へ渡す。その繰り返しが毎日あった。母は祖母の話が分からなくても音声として話したい、祖母の声が聞きたい、それくらい母は祖母のことが大好きなんだなと、娘の私から見てすごく分かった。
私が大学生の頃、祖母が他界。母は相当落ち込んでいた。
母が立ち直った頃、ふとこんなことを言った。「またお母さん(祖母)と電話したいな」。
あぁそっか、母は祖母以外と電話をしたことがなかったんだよな。ちょっとためしに提案してみた。
「私と電話してみる?」
この言葉に母は照れながらも嬉しそうだった。この頃スマホが普及されていてテレビ電話ができるはず。でも、母は機械が苦手なことと、祖母との思い出もあることから、音声での電話を希望した。その時に初めて母に言われた。
「電話したい。みー(私)の声が聞きたい」と。
「じゃ、明日大学の授業終わって帰る時に電話かけるからね」
私が言うと、母はまたも嬉しそうだった。
そして次の日、授業が終わって初めて母の携帯に電話をかける。
5コールくらい鳴ったあと「もしもし?」と少々嬉しそうな母の声が聞こえた。
私はちょっと大きめの声で「今、終わったから、これから帰る!」と言うと「もしもし?」と返ってくる。
もう一度「今、終わったから、帰る!また、連絡する!」と話したら「うんわかった。ありがとう。またね、気をつけてね」と母。
こうやって母が返事してくれたのは、事前に帰る時に電話するって言っていたから、私の話す内容が分かりにくくてもそう返してくれたのかもしれないし、少しでも聞こえていたのかもしれない、と思いながら帰宅。
母は、実際はわずかな私の声(音声)が補聴器を通して聞こえただけで、内容は分からなかったみたいだった。
それでも母は、私と話せて嬉しかったって喜んでいて、私も少し泣きそうになった。
この出来事は私の中で一生忘れられない出来事だと思う。
最近は、母だけでなく、色々なろう者と話せる機会が増えてきた。少しずつでも手話ができてきて、ろう者と会話ができて嬉しいと思いながら日々を過ごし、より手話を頑張りたいと思っている。
私は母に、音声として自分の言葉を伝えることはできない。口話でのコミュニケーションには限界がある。
それなら、母の第一言語である手話を勉強して、母に手話で言葉を伝えたい。母の伝えたい言葉(手話)を理解したい。
それが私が今、大切にしている気持ちである。
もちろん、手話の勉強は楽しい反面、覚えるのが難しい部分もあって絶賛苦戦している。
手話の習得に時間がかかるかもしれない。
それでも、絶対に諦めたくない。
諦めるわけにはいかない。
今まで大切に育ててくれた母へ恩を返したいと日々思っている。
(みーさんの未来を応援しています)