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★華の光★信義★

はまって抜け出せない「シンイ」★
気の迷いから書きだした二次...らしきものと、ちょっとした日々の出来事をたまには書けたらな。

皆様大変ご無沙汰しております。
ブログもシンイも長いこと離れていましたが、またこちらまで来てくださり、本当にありがとうございます★
放置状態の間にも、アメンバー申請やメッセージをいただいたり、訪れてくださる方々がいらっしゃること、とても嬉しく思っています。



途中で投げ出したままのお話を、また少し少しにはなりますが、忘れた頃にはなりますがUPしていけたらなと思っています。


会いたい人 ー伝•ー


「まさか…ヨンが飲んだのか。」
息が止まるようだった。チェ尚宮は一瞬にして目の前の視界に入る全てが消えたと同時に、その場に膝から崩れ落ちた。
安全な場所などどこにもないのか。

王宮内にある一室の扉前。
テマンは大きく息を吐吸い込みながら深く下げていた頭を上げると、向こう側にいる主人を案じるように扉をじっと見据えていた。

「誰ひとりとして立ち入らせるな。何があっても近づけるでない。」
ウダルチにさえ知られてはならないのだと、今まで血の気の引いた顔をしていたチェ尚宮が、今度は厳しい口調でテマンに言った。


「王妃よ、あまり待たせるな。」
言葉のわりには咎めるでもない優しい背後からの声に、棚へと伸ばした手を止めた。
「何か探しているのか。」
ほんの少し腰を屈め、青磁の壺の表面をつるりと指先でひと撫ですると、王妃はゆっくりと静かな瞬きと共に言葉を返す。
「いいえ何も。…行きましょう。王様。」



「もう長く待っておるだろうな。」
ほんの少し後ろを歩く王妃の歩幅に合わせながらも逸る気持ちは隠せない。
久しぶりにチェヨンと話ができるのだ。これから過ごす語らいの時間を、仕事と呼ばれる雑務に邪魔をされないように今まで時間を費やしてきた。自分で呼びつけておきながら、王宮へ戻ったばかりの足で待たせていると言うのにだ。

「チェヨンには先に軽い食事を用意させました。今頃は…ゆっくり過ごしているはず…」
申し訳なさそうな王に、王妃は心配ないと言うと、今日は普段とはまた違う話しを聞かせてくれるからと含み笑いを浮かべていた。


またひとりあの場所へ行っていた。あの方と最後に別れたあの木の下へ。
今では時間さえあれば、王はささやかなご褒美をくれる。好きなだけ待つと良いのだと。王はチェヨンが今、この高麗にいてくれるということが褒美を与えるに値するのだと、会いたい人を待つ時間に「ささやかな褒美」と言う名をつけた。
本当の褒美は天から授かるのだろうから。その会いたい人にまた会えることがチェヨンにとっての何よりの褒美なのだから。



長い廊下の先から、王と王妃を知らせる足音が近付いてくる。
やっぱり間に合わなかったのだろう。
テマンは唇を噛み締めた。
王様と大護軍を今は合わせられないからと、チェ尚宮は直ぐに阻止しに行ったのに…
これは俺のせいじゃないっ。

間に合わないかもしれない…という事くらい解ってはいたことだったが、もうこんなに近くにまで来ている王をどう阻止すればいいのかと、テマンは頭を深く下げたまま眼を泳がせた。

扉を塞ぐテマンの前で、王は抑えるような笑みを浮かべる。すると…
「い、ま、は誰も入れません…」
不思議そうにテマンの顔を覗く王。
ふっ、と口元を緩めた王妃が先に口を開いた。
「何故じゃ?」
「あの…えー、今は会えません」
「大護軍はもう中にいるはず…開けよ。」
テマンは大きく首を横に振ると、また深く頭を下げる。
王も王妃もテマンの相変わらずの態度にはすっかり慣れている。ただただヨンに忠実なのだ。
さてさてどうしたものか、と王が王妃に顔を向ける。
「あ!チェ尚宮に言われました。」
嘘は良くない。だから理由はチェ尚宮に聞いてくれたらそれがいい。そうだ、それならいいだろうとテマンの声が届く頃、重く閉ざされていた扉の内側から、床に落とされた割れ物が音を響かせた。

しまった!と苦い顔して振り返るテマンの頭にはチェ尚宮の拳が素早く振り下ろされる。
王は素早く扉を開くと、投げ出された腕を枕にして卓に伏せるチェヨンの方へと向かう。王とヨンの接触を阻止できず、苛立つチェ尚宮は散らかった床の片付けを女官に指示すると、すみやかに人払いをした。
テマンは扉の前でまた見張りに付いている。そのテマンを見張るように距離を置いて、チェ尚宮は早く時間が過ぎることを切に願い瞳を閉じた。



「チェヨン、一体何が…」
どうしたと言うのだ…
「王様、大事はありません。すぐにでも叩き起こしてやってください。」
チェ尚宮も何事も無かったように、そのまま去って行った。
王妃は慌てる様子もなく、当たり前のように王の手をきゅっと握った。そしてヨンの顔を覗き込むと、王の手を握る反対の手で眠っているヨンの額に手を当てる。
「目を覚ますのじゃ。チェヨン」
王妃の声が聞こえたのだろう、重たそうな瞼が動く。
「目を覚ますのじゃ。」
今度ははっきり聞こえたのだろう、忘れていた息を吸うように目覚めると、身体を起こし王と王妃を交互に見上げた。なんとなくの状況がわかると、立ち上がり礼をする。
そして2人の繋ぐ手が目に入ると、自然とヨンの表情が柔らかくなる。


それから実感してしまう…またひとりで戻ってきたのだな。