ふたたび歩き始めてしばらくすると、足下のツタがだんだん太くなっていることに気づいた
ヘビのように身をくねらせて、今にもあたしたちに巻きつこうとしているように見えて気味が悪い
「 ねぇ、なんかこのツタ、不気味じゃない?」
隣にいるカリンに囁く
「 そうねぇ…。実は私も、なんだか変だと思っていたのよぉ。」
カリンは太くからまったツタをまたぎながら、困ったように眉を寄せた
「 変って、どういうこと?」
「 うまく言えないんだけど、この子達の気持ちが読めないの。ただ、女の人の顔がぼんやりと伝わってきて…。」
この子達、というのはもちろん足もとのツタのことだ
カリン曰く、どんな植物にも想いがあるのだとか
緑の城の者は植物を操る魔法を使うため、自然の植物と心を通わせることができる
でも、女の人って…?
このツタとその女の人は一体どういう関係なのだろう
戸惑うカリンの肩に手をおきながら考えていると、前を歩いていたカイが突然振り返り言った
「 ここのツタは、森の悲劇の象徴なんだよ。」
カイの隣を歩いていたチトセが訝しげにカイを見る
「 なんだよ、それ。」
あたしとカリンも意味がわからず、首を傾げた
「 ツタが、悲劇の象徴?」
あたしたちの様子を見たカイはやれやれというように首を振ると、足を止めた
「 この地方にずっと言い伝えられている伝説なんだけど、その様子じゃ誰も知らないのな。」
カイが呆れた顔であたしを見る
なんかあたしだけバカにされてるような気が…
釈然としない想いを抱えながらも、好奇心に負けてカイに尋ねる
「 それってどんな伝説なの?」
「 ………。」
カイは少しの沈黙の後、あたしたちを順に見渡して静かに話し始めた
「 その昔、ある森の近くで国境争いの激しい戦争が起こった。
若い兵たちは問答無用で戦地に送り出され、妻子や恋人を故郷に残したまま死んでいったものも数多くいた。
さすがにそれくらいは知ってるだろ?」
その話は前にママから聞いたことがある
あたしたちが生まれるずっとずっと前に、エリニュエス大陸で大きな戦争があったらしい
魔法が飛び交う激しい戦争だったようで、確か終結するまで四年以上かかったという
チトセもカリンも知っていたようで、
カイに先を促している
カイは小さく頷くと再び話し始めた
「 その中に国境を境に恋焦がれる2人の若い男女がいた。
2人は幼い頃からずっと一緒の幼馴染で、結婚の約束もしていた。
しかし戦争が始まってからは国境を越えることはただの一度も許されず、長らく会えないまま男は戦地へと赴くことになった。
派遣先は不幸なことに、最も戦火の激しい戦争の最前線。
いつ死んでしまってもおかしくない状況に耐え切れなくなった2人は、手紙で幼い頃に遊んでいた森で再会する約束を交わした。
そして女は男に会いたい一心で、弾が飛び交う戦地を命からがらくぐり抜けて森へと辿り着いた。」
そこでカイは一呼吸おいた
あたしたちは誰も口を挟もうとしなかった
息を飲んで次の言葉を待つ
「 女は深い傷を負っていたが、それでも愛しい男を待ち続けた。
何日も、何日も。
持参していたわずかな食糧である豆と水は、腹を空かせているであろう男のために残していた。
しかしどれだけ待っても、男はいっこうにの女の前に現れない。
激しい戦火の中を故郷に戻ることも許されず、とうとう女は自分の体がもうもたないことを悟ってしまう。
女は目印にしていた大きな木に愛しい男へあてて書いた手紙をくくりつけ、豆と水をその根元にそっと置いた。
そして自分の亡骸が男の目に触れないように森の奥へ身を横たえた。
そして最期の刻を、一人静かに迎えた。」
カリンが小さな手のひらで口元を覆う
長いまつげが震え、今にも涙がこぼれそうだ
「 それからひと月が過ぎた。
戦争はだいぶ終結し、二国の平和条約も目前となった頃。
薄暗い森の中を、傷だらけの男は目印の木を目指して身体を引きずりながら愛しい女のもとへと懸命に歩いた。
約束の場所には木の根元から細くしなやかなツタが絡み合うように伸び、鮮やかな緑の豆がたくさんなっていた。
男は空腹を我慢しながら懸命に女を探すが、その姿はどこにも見つからない
そしてとうとう木の幹にくくられた女からの手紙を見つけた。
手紙にはこう書かれていた。