どこかで傷ついたすべての人へ 

 『小鳥とリムジン』は、『食堂かたつむり』や『ツバキ文具店』などで知られる作家・小川糸さんによる心温まる長編小説です。


2023年にポプラ社から刊行されました。本作の主人公は、すこし生きづらさを抱えた若い女性・キリコ。かつて傷ついた過去を持ち、世間や人との関わりから少し距離を置いて暮らしています。


けれどある日、一台の黒塗りのリムジンと出会ったことで、彼女の世界が少しずつ変わり始めるのです。 


  黒いリムジンと「小鳥」のような少女

リムジンに乗っていたのは、ある男性と「小鳥ちゃん」と呼ばれる少女でした。


小鳥ちゃんは、まだ幼く無垢で、まるで本物の小鳥のように繊細な存在。キリコは彼らと出会い、奇妙だけれども優しい時間を共有するようになります。


この出会いは、キリコの閉ざされていた心の扉を少しずつ開いていきます。

“人との関係”が怖かった彼女が、再び世界とつながろうとする姿が、静かで優しい筆致で描かれていきます。 


  小川糸さんらしい、やわらかく静かな筆致

小川糸さんの作品にはいつも、“誰かをやさしく受け止めるまなざし”があります。


本作も例外ではありません。どこか寂しさや不安を抱えた登場人物たちが、それぞれの形で癒やされ、少しずつ前へ進んでいきます。 


登場人物たちの会話や風景の描写は、とても静かで丁寧。読んでいると、まるで自分自身も物語の中の登場人物になったような気持ちになり、優しい気持ちに包まれます。 


  「生きるのが苦しい」時に、そっと寄り添ってくれる 

 『小鳥とリムジン』は、物語のなかで大きな事件が起こるわけではありません。けれど、読む人の心の中に“何か大切なもの”を残してくれる作品です。 


現代社会の中で疲れたり、自分の居場所を見失ったりしている人にとって、この作品は“自分を取り戻すヒント”を与えてくれるかもしれません。


物語の最後に近づくにつれて、キリコが見つける“小さな希望”は、読者の心にも小さな光としてともるでしょう。

 

  おわりに

 『小鳥とリムジン』は、今この瞬間を頑張って生きている全ての人に贈る、やさしい再生の物語です。


 ほんの少し立ち止まりたくなったとき、そっとこの本を開いてみてください。きっと、あなた自身の中にある“光”に気づかせてくれるはずです。