261年5日


5日はギート麦の収穫日だ。
そして、近衛騎士隊に所属する僕にとってはトーナメント学校に始まる日でもある。
しかし、今年は同じトーナメントでも「エルネア杯トーナメント」が始まる日だ。


今年は僕と父、それに姉や親友のロドリゴくん、母の代からお世話になっているサナさんやアザミさんも出場する。
誰と当たったところで手加減なんかするつもりはないけど、出来ることならば誰とも当たりたくないってのが本心。


多分、僕が毎年近衛騎士隊トーナメントの準決勝で負けるのは、そんな性格に由来しているんだと思ってる。
身内や仲良し相手だと本気を出し切れないっていう…


騎士隊員としては致命的だと自分でも思っている。
昔、まだ僕が成人したばかりの頃母からも指摘されていた。
「ユーリくんは対魔物だととっても強いんですのに、対人だと途端に弱くなりますのねぇ。それで本当に騎士になりたいと仰るの?」と。


前回のエルネア杯で優勝出来たのも、偶然のような気すらしている。
もしかしたら、優勝したらプロポーズするっていう気合いが入ってたからかもしれないけど…
今回はどうやって気合いをいれようかな…





その前に、国民としての義務を果たさないと。
10日間手塩にかけて育てたギート麦を刈り取って、自分の農地へと納めに行く。


今回のうちの担当の農管さんは男の人ばっかりだなぁ。
つまらない…


…はっ!
いやいやいやいや、別につまるつまらないの話じゃないよね?
麦を納めに来ているのであって、一生懸命働いている農管さんを眺めに来ているわけではないんだから!


でも、ついキョロキョロと周りを見渡してしまう。
妻が来ていないだろうか?
さっきの言葉、口に出してしまわなかっただろうか?


ど、どうやら大丈夫そうだ。
ふぅぃ〜、危ない危ない。
平和な家庭に波風を立たせるような言動は慎まなければ…




現在お見合い真っ最中のイシュルメくんを発見。
なかなかお見合い相手のキャンディスちゃんに会いに行ってくれなくて四苦八苦してるんだよなぁ。


そもそも、2人が仲良しだなのかの確認すら取れていない。
友達ではあると思うんだけどなぁ。
1歳の頃からゆるゆると仲人してきたけど、2人がお喋りしたりしてるのを見かけたのは数回しかないというのも頼りない。


まあ、そもそも僕が仲人に向いていないことが原因ではあるんだ。
向いていないことをなんでやってるんだって自分でも思うんだけどねぇ。
やっぱり、母親のお節介気質を受け継いでしまったとしか言いようがないんだよなぁ。




そのイシュルメくんの尾行中に見かけたこの光景。
麦の収穫の日とか種植えの日とかによく見かける光景ではあるんだけど、一斉にみんなが同じ方向に歩いたり、たくさんの人が同じところで立ち話したりするのやめて欲しいんだよなぁ。


僕は集合体があまり得意じゃないから、酔っちゃうんだよねぇ。
あと、なんか怖いんだ。
何がどう怖いのか説明は出来ないんだけど、とにかく“怖い怖い怖い怖い怖い”って思っちゃうんだよなぁ。










時間はだいぶ飛んで夕1刻。
王立闘技場。

神官である親友ジュリアンの言葉で、エルネア杯で開会式が始まった。
同じく親友イェルシーが国王として言葉を述べるのを、僕は闘技場の真ん中で、12人の戦士の1人として聞いていた。


前回のエルネア杯は全てが初めてのことで、何がなにやらずっと緊張した状態で過ごしていた。
前々回のエルネア杯は、僕が成人した直後の年で、そのエルネア杯の最中に前国王である叔父が崩御し、イェルシーが戴冠した。


今回のエルネア杯は不思議なほど落ち着いていた。
もちろん緊張はしているんだけれど、程よい緊張感というか。
前回よりもクリアに周りが見えていた。


そして僕は玉座にいるイェルシーよりも、右隣にいる父のことを横目でずっと見ていた。


真っ直ぐに、真摯に国王を見つめ、イェルシーの言葉に微かに頷きながら闘志を燃やしている父の顔を、自分の中に焼き付けようとしていたんだ。
何故なのかは分からないけど。


…いや、そんなの嘘だ。
分かっている。
父の戦士としての顔を見るのはこれで最後かも知れないと思っているからだ。
父の初戦は10日。
それまで父が生きていられる保証はないと思っているからだ。


昨日、妻とのデートで笑い飛ばしてみたけれど、実は去年末に父から言われたことがあったのだ。
「もう、長くない気がする…」と。


あまりにも唐突で、あまりにも衝撃で受け入れ難く、僕は一笑に付した。
そんなわけがない、と。
父はそんな僕を苦笑いしながら見ていただけだった。


母にも昔、同じセリフを言われたことがある。
どうやら人は、何となく自分の死期を悟るものらしい。
ならば父ももう…


どれだけ否定をした所で、人は死からは逃れられないのだ。
父の年齢を考えてみても、至極当然と言えば当然なのだ。


だから僕は無意識に父の姿を追ってしまうのだ。
もうこれが最後かもしれないと思うから、目や心に焼き付けようと…








エルネア杯1回戦第1試合。
山岳兵カリナさんVS親友ロドリゴくん。


ステータスはロドリゴくんがだいぶ上。
でも、カリナさんが持っている斧は、ロドリゴくんの苦手武器。
どうなるか予想がつかない対戦だ。


先手を取ったのはロドリゴくん。
しかも、ロドリゴくんがお守りを付けているのに対してカリナさんは丸腰。
やった、これはいける!
と、僕は観客席で密かにガッツポーズする。


が、しかし…
ロドリゴくん1ターンでは決めきれず。
ああ、まずい。
相手の攻撃に耐えきれるかなぁ。


カリナさんが全身を使って攻撃を繰り出してくる。
ロドリゴくんは防御の体勢でひたすらそれに耐えている。
4回の攻撃の後カリナさんが防御の姿勢になる。


よし、何とか耐えた!
あとはゴリ押しするだけ!
防御のことなんて考えるな!
攻撃あるのみ!


ズドン…という銃声の後に膝を着くカリナさん。
やった…勝った…
ロドリゴくんが勝ったー\(*´ ꒳ `*)/


ハラハラしたけど、見応えのある素晴らしい試合だった。
観客席からも唸るような歓声が上がる。
そんな中で両手を突き上げるロドリゴくんがあまりにもかっこよくて、僕は思わず「ロドリゴくん、かっこいいよー!」と、叫んでしまった。
ブレソールが呆れたようにこっちを見た…気がする。