257年25日









この日はエルネア国民にとっては、ギート麦の種を植える日だ。
大抵の国民は、朝から晩まで畑仕事をする。
僕だってご多分に漏れず朝からギート麦の種を買いにせっせと農地を訪れる日だ。
でも、3年前のあの日から、僕と父と姉にとってこの日は、忘れられない特別な日になった。
3年前から父はこの日に限って元気がなくなる。
もちろん、表面上はいつもと変わらず穏やかな笑みを浮かべてはいるが、その笑みに影があるのを僕や姉は気づいている。
3年前の今日、母ツェリはガノスへと旅立った。
家族にとって、これほど辛い日はなかった。
でも、あの母が、僕たちがいつまでもこの日を辛い日として暗い気持ちになっているのを許すだろうか?と思ってもいる。
だから…僕はこの日を、ただ辛いだけの日ではなく、幸せな日にしようと決めたんだ。
今年に入ってからずっと考えていたこと…
龍騎士になったら、彼女にプロポーズしようと。
それを、今日、この日にしようと決めたんだ。
もうすぐ昼になろうとする朝の4刻。
むぎの種を植え終えた僕は、家の前の畑でポケットに入れたものを取り出して確認していた。
ビロードの箱に入ったそれは、美しく煌びやかに光っていた。
散々待たせたのだから、プロポーズする時には奮発しようと、少し前にキャラバン商店に注文して取り寄せたウィムの宝石。
彼女は喜んでくれるだろうか…
僕はひとつ大きく深呼吸した。
大丈夫、きっと断られるなんてことにはならないさ。
そう、自分に言い聞かせて、ビロードの箱を再びポケットにしまい込む。
さあ、まずはデートだ。
今日は彼女を水源の滝に誘おうと思う。
そしてデートが終わったら、神殿のアトリウムへと誘うんだ。
昼1刻。
家を出たらすぐ目の前が待ち合わせ場所の街門広場だ。
今日も街門広場は、デートの待ち合わせの人達で溢れかえっている。
そんな人達の中で彼女を見つけた僕を、言いようのない緊張が襲う。
ドドドドドドと、心臓が早鐘を打つ。
彼女の元へ行こうと足を踏み出そうとするけれど、アレ?どうやって歩くんだっけ?と、パニックになってしまう。
落ち着け、僕!
歩くなんてこと考えなくても出来るんだから考えるな!
深呼吸して、落ち着け!
ああ、もう!
バグウェルと戦った時より緊張するぅ〜😫
彼女が僕に気づいて小さく手を振ってこちらにやってくる。
ああマズイ。
ただのデートでこんなに緊張してる奴いないだろう。
バレちゃうよ!
落ち着け、落ち着け!
「ユーくんお待たせ!今日はどこ行こっか?」
あ〜、じゃ、じゃあ水源の滝に行こうか?
「…うん、いいけど…ユーくんどーかした?」
へ?ななななんで?
「いや、なんか緊張してる?」
ええ?べべべべ別に緊張なんてしてないよ?
ハハハハハハ…
「いや、顔強ばっちゃって全然笑えてないんだけど…」
そ、そんなことないって!
それより早く行こ?
「う、うん…」
やばいやばいやばいやばい!
絶対バレてる!
絶対バレてるって!
僕は彼女を連れて歩きながら、内心パニックになっていた。
いつもどうやって笑ってたっけ?
なんで肝心な時に笑えないんだよ!
いつだって大抵の事はアイドルスマイルで乗り切ってきただろう!
いつもは遠いと思ってた水源の滝までの道のりなのに、今日はあっという間に着いてしまった気がする。
ぅうううう、もう少し時間が欲しい!
落ち着くための時間が〜😣
水源の滝に着いて、やっぱり滝は落ち着くな〜なんて平静を装って話していて、次のデートはどこに行こうかとか話してたら、いきなり彼女が
「私は…神殿のアトリウムがいいかな♪」
なんて言い出して、心臓止まるかと思った。
これからそこに誘おうとしてるんですけど?
ばばばばバレてるよね?
え?
それって…もしかして…
「や、やだぁ。そんなんじゃないってば!」
彼女は顔を赤くして否定した。
いや、でも、そういうことだよね?
催促してるんだよね?
よ、よーし!
だったら行くぞ!
プロポーズするぞ!
ねぇ、突然だけど…
今からデートしない?
「え?………う、うん、もちろん行くよ!」
多分彼女はここで完全に理解したんだろうなぁ…




滝から神殿までは遠く、かなりの距離を歩くんだけど、その間僕達は一言も言葉を交わさずに黙々と歩いた。
僕自身は緊張してたし、これから言うと台詞を頭の中で何度も繰り返してた。
大事な場面だから絶対に噛みたくなかったしね。
彼女も多分、緊張していたんだと思う。
神殿のアトリウムには何度もデートで訪れたけれど、今日はその美しい花々も目に入らない。
緊張で視野が狭くなっているのだろう。
僕は大きく深呼吸してから、覚悟を決めてポケットからウィムの宝石を取り出して愚痴を開いた。
今日は、その…
聞いて欲しいんだけど。
「うん…」
これ…
僕と結婚してください!
「これって…ありがとう!すごく嬉しい」
よかったー。
2人で幸せになろうね!
「うん…」
彼女が肩を震わせて俯いた。
まさか、泣いてる?
どうしたの?
大丈夫?
「だって…嬉しくて…」
ごめんね、随分待たせちゃったよね?
「ううん、いいの。…本当はもっと待たされると思ってたから」
ん?
「ほら、結婚について話をした時にさ、普段ポジティブな人なのに結婚についてはネガティブなんだなぁって思って。これは15歳くらいまで待たされるだろうなって」
いやいやいやいや、だってあの時子供は欲しいねって話はしたでしょ?
「15歳でも子供は産めるもの」
いや、そーだけどさぁ。
「最悪、熟年になったってウミカイの卵だってあるわけだし」
ちょっ、そこまで待たせる気なんて最初からなかったんですけど?
「分からないじゃない。私には、そんなこと」
ま、まあね…
「だから、思ったより早くって驚いたし、嬉しかったの!」
彼女はグイッと手の甲で涙を拭いて笑った。
その笑顔がキラキラと輝いて見えて、僕は思わず彼女を抱きしめた。




しばらく抱きしめた後、彼女が結婚式はいつにするの?と言ったので我に返る。
そうだ、プロポーズして終わりなわけじゃないんだ!
すっかりやり遂げた気持ちになっていた。
この後一緒に家に帰ってもっと彼女を喜ばせよう…なんて不埒なことを考えている場合ではなかった!
慌てて神殿に入り予約表を確認する。
すると、奇跡が起きていた!
ねぇ見て!
リカちゃんの誕生日空いてるよ!
「あら、ほんと!」
この日にしようよ!
絶対いい記念になるよ!
「いいの?誕生日が結婚記念日になるなんてすごく素敵♡ありがとうユーくん」
彼女はそういうと僕に思いっきり抱きついてきた。
ぼくも嬉しくなって彼女を抱きしめたあと、彼女を持ち上げてその場でぐるぐる回った。
彼女は始め驚いてキャッと声をあげたけれど、その後はケラケラと笑ってされるがまま回されていた。
傍から見ればどっからどう見てもただのバカップル。
そんなことは百も承知だ。
でもいいじゃないか。
たった今、結婚を決めたばかりの2人がバカップルにならずしていつバカップルになると言うのだ。
流石に目が回り始めたので彼女を降ろした僕は、神殿の隅っこで少し早めの誓いのキスを彼女に贈った。
チュッどう音を立ててキスをしたあと、僕と彼女は目を見合わせて笑って、幸せを噛み締めた。
ごめんね、ファンのみんな。
みんなのことは変わらずに大好きだけど、今日から僕“みんなのユーリくん”じゃなくて、“リカちゃんだけのユーくん”になりまーす(๑>•̀๑)テヘペロ

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【中の人】
ついにプロポーズ致しました!
ずっと、龍騎士になってからプロポーズしようと思ってて、しかもリカちゃんのは誕生日に結婚式がしたくて、wikiで調べたところ25日~28日にプロポーズすると4日(リカちゃんの誕生日)に式が出来るとの事だったので、25日にしようと決めてました。
どうせなら何か意味のある日にしたいと思い、ツェリちゃんの命日を選びました。
この日を選ぶのが、少しマザコン気味のユーリくん(マザコンというか、母親の言うことは絶対と信じて疑わないように育てられたと言いますかw)らしいんではないかな?と、自分では思っています。
婚約期間がかなり長くあるので、めいっぱいデートを楽しんでよりイチャイチャしたいなぁと思ってます!
目指せ最強のバカップル♡
