**********
今日の日本では、寄生虫病にかかる人は少なくなりました。ですが、海外ではとても多くの人が寄生虫病にかかり、そして命を落としています。寄生虫の恐ろしさを知っていただくため、いくつかの例をご紹介いたしましょう。
寄生虫の中には、脳に寄生するものが数多くあり、有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)はその一つです。有鉤嚢虫は、有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)(サナダムシの一種)の幼虫で、主に豚の糞に含まれる虫卵で汚染された水や食品を摂取することにより人に寄生します。この寄生虫は体の様々な場所に寄生しますが、特に脳に寄生することを好みます。多数の有鉤嚢虫が脳に寄生することにより、脳が穴だらけになっていることがあります。有鉤嚢虫が脳に寄生すると、体が痙攣したり、意識を失ったり、失明したり、場合によっては死亡することがあります。有鉤条虫の虫卵は豚の糞だけではなく有鉤条虫にかかっている人の大便にも含まれています。家族が有鉤条虫に感染していると、家族の大便が原因で有鉤嚢虫にうつることがあり、自分が有鉤条虫に寄生されていると、自分の大便から自分に有鉤嚢虫がうつってしまうことがあります。
エキノコッカス症は、主に肝臓に寄生するエキノコッカスという寄生虫の幼虫に寄生されることによっておこる病気です。主にキツネやイヌなどの糞に虫卵が含まれており、この虫卵で汚染された食品や水を摂取することによりエキノコッカスに寄生されます。寄生された後、数年(1~30年)はなにも自覚症状はないのですが、その間にエキノコッカスは、少しずつ肝臓などの臓器を食べ続けており、自覚症状が現れたときには、肝臓は寄生虫に食い荒らされて蜂の巣のようになっています。残った部分も肝硬変を起こして正常な部分がほとんど残っていません。さらに、肝臓から漏れ出た寄生虫が脳、その他の臓器や骨髄などに寄生し、死亡します。
バンクロフト糸状虫は、蚊にさされることによってうつる寄生虫です。症状が全くないことも少なくないのですが、重症化することもあります。この寄生虫はリンパ管、腕や足などに寄生しますが、陰嚢や陰茎に寄生することもあります。陰嚢に寄生すると陰嚢が巨大化し、重症の場合には陰嚢が大きくなりすぎて歩くのが困難になります。江戸時代に陰嚢が巨大化した芸人が複数存在したことが文献(「想山著聞奇集」「東海道中膝栗毛」「北斎漫画」)に記載されています(大きいもので五斗=90リットルくらいあったようです)が、これらの芸人はバンクロフト糸状虫に感染したものだろうと言われています。
寄生虫には、肉眼では見ることの難しい小さな原虫というものと、指でつまむことのできるくらいおおきな蠕虫というものがあります。
**********