静寂な夜。私はしーんと静まりかえっているリビングで独り、イモニムが「ようさんもろたから」と送ってくれたドリップオン珈琲をテホくまちゃんのマグカップに淹れて、少しずつ飲みながら読書をしていた。

ページをめくる時、ふとデジタル表示の置き時計が目についた。

23時42分。もうこんな時間。

「…お風呂入ろ。」

しおりを真ん中に挟み、パタンと本を閉じ、テーブルの上に置く。

そのまま座っていたソファから立ち上がり、浴室に行き、お湯を張るボタンをピッと押す。

ピーンポーン…

リビングに戻った直後インターホンが鳴った。

「누구?(誰)?」

お隣さんで私のヨナナンチン(年下彼氏)のテホは仕事で日本に行ってていないからテホなわけないし。

インターホンについてるモニターを見ても誰も映っていない。それにマンションの正面玄関からの呼び出しではない。

足音を立てずにそっと歩いて玄関のドアスコープを覗くが、ここも誰も映っていない。モニターでも映ってないんだから、そりゃそうか。

内鍵をかけたまま、ほんの少しドア開ける。

「なつきぃ!」

えっ!?

「ヴィックさん?」

ヴィックさんは髪がボサボサで、かけている眼鏡も眼力ある彼の瞳からコントで出てくるコメディアンのようにずれていた。強めにお酒のにおいもする。

それに何故かずぶ濡れである。雨降ってたの?

「どうしたんですか?ずぶ濡れですよ。」

「テホの家行くのに近道しようと思って歩いてたら転んで、そこ公園の小川だったんだよ~。テホいないしさあ、電話も繋がんないし。」

「テホ、日本に行ってますよ。」

「そうなのお?知らなかった~。ちょっと休ませてくれない?」

ええ?無理ですよ!

心ではそう断ったが、何も答えられないでいると、

「マネージャーに迎えにきてもらうから、それまで休ませてよ~。」

仕方ないと思いながらも、やっぱり何度も躊躇した。テホがいない時に男性を部屋に入れるって。しかもヴィックさん。こんなずぶ濡れで風邪とか引いて体調悪くなったら大変だと思うと部屋に入れざるを得ないのか。

「…本当にそうしてくださるんなら。」

私は止むなくドアを完全に開けた。

ヴィックさんはニッコリとした笑顔になった。
やっぱり髪の毛ボサボサでも眼鏡ずれてても男前は男前だ。

「おじゃまします~。」

人の家に招かれ入る時にするお決まりの挨拶をしたヴィックさんが靴を脱いで入ろうとする。

「待って!タオル持ってくるから!」

水がズボンの裾を滴り、しずくが落ちているヴィックさんに思わず強めに言った私は、慌ててタオルを取りに行った。

****

「着替え、ないですよ。」

「なんでよ、テホのがあるだろ。」

ヴィックさんは頭をガシガシタオルで拭きながら私に着替えを要求している。

「……。」

私が持ってるフリーサイズのスウェットはあるけど、それはテホが着るもの。何故ヴィックさんに着せる必要が?テホが着るものなのに、ヴィックさんに着せるなんて。

「ちょっと、ここで脱がないで。」

ヴィックさんは私の目の前でその濡れた服を脱ぎ出す。

「濡れてんだから、脱ぐだろ?男の裸なんて、見慣れてるだろ?」

ヴィックさんはその濡れた服を私に渡してきた。

「…乾燥かけときます。」

そうだけど!男の裸は見慣れてる。私はムッとした表情で洗濯乾燥機がある所までヴィックさんのその濡れた服を持っていく。

「汚れてるし。」

ヴィックさんの服の汚れを見つけた私は洗濯乾燥をかけた。

リビングに戻った。すると「목욕이 끓었습니다.(風呂が沸きました)」のアナウンスが聞こえてきた。

私お風呂に入ろうとしてたんだ。

あれ?

「いない。」

ヴィックさんがいない!裸で(正確に言うとパンツ一丁)どこ行ったの?

ってパンツも濡れてんじゃないの?

トイレやお風呂等探してみた。いない。もしかして?嫌な予感しかしなかった。

寝室のドアを開けた。寝室内に入ると、センサーライトが反応して部屋の真ん中にあるベッドも照らす。

ヴィックさんの寝顔が煌々と映った。しかもテホのスウェット着てベッドに入っている。クローゼットから勝手に見つけた?眼鏡かけたまま寝てるんですけど。ヴィックさんってこんなに図々しかったの?ちょっと酔ってるみたいだからそう思うかもしれないけど…あ!マネージャーに迎えにきてもらうって言ってたのに!

時計を見ると、もう0時5分前。

「もう…」

ちょっと寝室内が冷えてると感じたので、一応暖房つけとこうと思い、エアコンをタイマー付きで緩く点け、空気清浄機の電源も入れた。そして彼から眼鏡を取ってベッドヘッドに置いた。


****


深夜0時40分。お風呂から上がり、身体も拭いて肌の保湿をして髪の毛も乾かす、ストレッチをする等の夜のルーティンが無事終了し、あとは寝るだけになった。

ベッドはヴィックさんが使ってるから、私はリビングのソファで寝る。

スマホを見たら、テホからおやすみなさいのカトクが入っていた。

「おやすみなさい。」

私はテホからのメッセージもスタンプにもそう告げて瞳を閉じた。























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うん…?私、なんか持ち上げられてる?なんだろ?

肘と膝の裏をギュッと掴まれている感覚もあり、身体が揺れてるようなそんな感覚を覚えながらも、暫くしたらプニャーとした感触が後頭部にある。

この感触は私が使ってる枕の感触だよ。と、いうことは寝室のベッドの上?

何故か瞳は半目しか開かない。顔面に何かの気配。ぼんやりしてまだしっかり見えない。

う…耳の後ろから首筋に生ぬるい感触と、フンフン息がかかる。

な、なんなの?

「いい匂いがするな?なつき。」

えっ?

どこかで聞いたことのある低音が聞こえた。
その刹那、バチっと私の瞳は開いた。

「ヴィックさん!?なんで!?」

ベッドの上で私とヴィックさんは向かい合わせである。

「テホが好きな女なら、ますます欲しくなるね。テホが抱いた女なら、僕も抱きたい。…このセリフ、前に聞いたことない?」

「모릅니다...(知りません)」

昔は、愛だとか恋だとか綺麗事言っても、男女間においてはセックスが付き物だと思っていたけど、今は違う!テホと出逢って私は考え方が変わったんだ。ってテホにしか触れられたくない!

「テホに会えてなくて淋しいんだろ?俺が代わりになってやるから。」

淋しい時はある。だけどヴィックさんが代わりになるなんて論外だ。

「더 이상 건드리면 호소해야겠어요.범죄예요.(これ以上触ると訴えます。犯罪です。)」

何故か韓国語しか言葉にできない。何故?

「何言ってんの?なつきが俺にお願いしてきたんだよ。抱いてって。」

はぁあ!?私がそんなこと言ったんかい!?



続く



(また年下彼氏の番外編ですが😓続きもっと書こうとしたけど、消されそうなんです🙇続きはpixivかなあ✏️)






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ありがとうございます。