バンクーバー特集「メダルに挑む」

第1回 氷上編 1 『浅田真央』

迷路の出口がようやく見えてきたのだろうか。昨年12月の全日本選手権を制し、五輪切符を得た浅田真央(中京大)は言った。

「初めての五輪はすごく楽しみでワクワクしてます。」


こんな言葉が出るのは“真央のジャンプ”が戻ってきたからだ。
最近は、少々のミスが出ても、滑りの質が高ければ演技構成点が出る傾向とはいえ、フィギュアスケートは「ジャンプが決まらなきゃ始まらない」。(浅田)


今季の前半戦はひどかった。

「例年、序盤は調子が悪いから、普通かなと思ったけれど、(5位に終わった)ロシア杯で全くて手応えを感じられなかった」


ジャンプの回転数が予定より少なくなり、3回転が2回転になるようなことを「パンク」と云う。タイミングのズレが主因で、今季の浅田はそのパンクが多かった。

小学校のときに3連続3回転を跳んだジャンプの天才だからこそ、戸惑いは大きかった。GPFに進めず、昨年10月のロシア杯から全日本までの2ヶ月間を『スケート人生でもっとも苦しい時』と浅田は表現する。

10月以降、良かったころの自らの映像を何度も見たという。優勝した2008年世界選手権などを分析、今の自分との違いを探した。


トリプルアクセルを跳ぶ前の軌道から違っていた。2年前、リンクの壁に真っ直ぐ向かってから跳んでいたのに、昨年は斜めに入っていた。元に戻すことにしたものの、ここまで違うと最初は形が定まらない。でも焦らず、何度も挑戦した。

ジャンプは生き物だ。自分の変化はなかなか気付かなかないものだから、コーチにチェックしてもらう者も多い。浅田は自分で修正点を見つけ、「ここ」という跳ぶタイミングをつかんでいった。


全日本選手権では、トリプルアクセルを2回跳んだ。1つは回転不足だった。連続ジャンプの後ろにつける2回転が回転不足になる問題も解消されず、ジャンプに慎重になっているようにも見える。それでも、着氷が綺麗に出来ているのは確かな進歩であり、今の浅田はプラス思考だ。


「修正は完璧じゃないけど手応えはある。百発百中を心がけて練習してきたのは間違ってなかった」


こんなに具体的に技術を語る浅田は初めてかもしれない。

「3回転ジャンプは体を思い切り締める。2回転は少し緩めないといけないけれど、(回転不足にならないように)もっと締めてもいいかな。」
スッと答えが出る。試練を乗り越え、たくましくなった。


今季の女子はキム・ヨナ(韓国)が頭一つ抜け出た。それでも、一朝一夕では得点が伸びない演技構成点で、キム・ヨナを脅かせるのは浅田だけ。


「ジャンプさえはまれば」と期待半分、心配半分の周囲を横目に、「焦りはない。気を引き締めて頑張ります。」


子供の頃からの習慣で、紙に目標を書いて家中に張っている。五輪前にまた新しく書き換えるつもりだが、内容だけはいつも同じ。
『金メダルをとる』

以上 (文)原 真子

 

(日経新聞より全文転載)

 

ご紹介、ありがとうございました

 

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