お久しぶりです。

とても遅くなりましたが、拍手コメントのお返事となります。

 

2023年3月20日

 ・15:57の方さま

 こちらこそお読みいただきありがとうございます!!

 もっとこれから書きたいという意欲はありますので、稀でいいのでまたお越しくださいませ。

 夢はでかいぞ、大きいぞ! 目指せ、いろいろ!!

 

 それでは、本日、2月22日猫の日!!ということで、以下、小説となります。

 続きは明日には載せたい……。いや、今夜できれば……。どうなる!!?( ;∀;)

 

 

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季節的には珍しい、ぽかぽかと温かい日差しに包まれて、野原の真ん中で一人、体をしならせて大きく伸びをする。
そよぐ風もただ心地いいだけの感触を残して通り過ぎ、微かに落としていく梅の匂いを堪能しながら一つあくびを漏らした。
あぁ、実にいい天気であり、実に良き猫の日、日和だ。


俺の名前は、うみのイルカ。
忍者の卵を育てるアカデミー学校に勤める一教師だ。
里で私用目的の忍術は推奨されていない中、教師という子供に模範とならねばならない立場で変化をする訳は、ぶっちゃけ俺自身にもよくわからない。


昨年の春から受付任務も兼任し非常に充実した毎日を送っているが、別に働くことは苦じゃないし、忙しく動いているのはどちらかといえば好きだと言える。たまに体にガタがきそうなほどの忙しさに追いかけられるけど、まぁ、それはそれで楽しいとも思う。


毎日接する子供たちは可愛い。
同僚たちとする日々の仕事をするのは楽しい。
嫌味な上忍を相手にするのは疲れるが、それでも尊敬はしている。
火影さまを始めとして、上司に当たる方々からも随分可愛がられていると思う。
商店街のおじちゃんやおばちゃんたちも親身になって接してくれる。


不満があるわけではない。逆に人間関係には恵まれていて、ありがたいぐらいだ。
けれど、どうしようもなく一人になりたい時がある。


そうして俺はつい、やってしまったのだ。
当たり前すぎて誰の目にも止まらない小さな鳥へ変化し、外へと飛び出した。
瞬間、圧倒的、解放感に包まれた。
顔見知りを眼下に見下ろし、自由に飛び回れる清々しさ。
何だか訳も分からないほどの喜びに包まれて、俺はピヨピヨと高らかに鳴いた。
最高の気分だった。誰彼構わず愛を叫びたいほどのアゲアゲの気分だった。
すると、どうしたことか直後に暗転した。
何ものかに全身を抑え込まれた。
刹那に見えた影を思い出し、俺は上空からトビに強襲されたのだと理解した。


襲われた時点で変化は解けるため、人間に戻った俺に驚いてトビは驚き逃げて行き、特に怪我という怪我はない。
落ちた場所が人気のない森の木の上で本当に良かった。
浮かれてトビの気配に気付かずに襲われて墜落などしては中忍失格だろう。
周囲に誰もいないことをくどいほど確認し、俺はその日の出来事を胸奥底に深くしまい込み、逃げ帰った。
だが、その一連の出来事は俺に深い傷を残した。
恥ずかしい。赤っ恥だ。
その日はあまり眠れなかった。


だが、俺は諦めなかった。
休日の日にあの解放感を味わうため、再び変化をした。
今度は犬だ。ちょっとひねくれた気のある、人には懐きそうにない薄汚れた野良犬となった。
やっぱり何とも言えない解放感を味わいつつ、ささっと住宅地を抜け、人気のない森の辺りへ直行。
るんるん気分で犬になりきっていると、一つの気配が俺の前に現れた。


任務帰りの忍びのようだった。
銀髪をした、額あてと口布で大部分の顔を覆い隠していた忍びは、少しくたびれた感のある正規服に身を包み、ぬぼーと佇み俺を見下ろしていた。
独特な気配をまとう忍びに、俺の中忍的直感がずばりと告げた。
こいつは上忍だ、と。
まさかもしや俺の変化がバレたかとビビる俺の心情に連動して、ご機嫌だった尻尾が丸まり、お腹にくっつく。
じりじりと後ずさりして、そのまま逃げようかと踵を返したかけた直前、件のたぶん上忍は口を開いた。
「……お前、一人なの? オレもだーよ」
と、非常に寂し気な目で俺を見つめ、あろうことか俺を抱きしめてきた。
「ウオ、オ、オン!?」
さすが推定上忍。
逃げる間もない抱擁だった。
さすさすと後ろ背を撫でながら、きっと上忍はぽつりぽつりと語りだした。


自分の生い立ち。
相次ぐ戦いで友を、恩師を、そして友を殺したと壮絶なる過去を語る絶対上忍。
やだ、ちょっと待って、待って、重い、重すぎる。
今日初めて会った薄汚い犬に話していいことじゃないでしょう?
お前、絶対上忍なんだから、こうも簡単に身の上話していい立場じゃないと思うんだ。しかも、あれだよ、あれ。心開くの早すぎてこっちついていってないから。俺が犬だから口が軽くなったかもしれないけど、泣きながら縋りつく相手は別にいると思うんだ!!


「う、っ、ひ、ぐす」
「オ、オオオン、オン、オン!!!」
泣くなよ、泣くじゃねーよ! 男だろ! 辛いのは分かったがシャンとしねーと!! 亡くなった人たちもお前がそんな悲しそうな顔をしてたら浮かばれないって!! な? なぁ?! 泣き止めって、な!!
俺に縋りついて泣きまくる上忍に、俺は犬ながら必死に励ました。
きっと伝わっていないが全力で励ました。
そうして時は過ぎ、あたりが完全に闇に落ちた頃、銀髪上忍はようやく泣き止んだ。


「っ、お前、優しいーね。……うちの子になる? オレね、他にも忍犬飼っているんだけど、お前ならきっとうまくやれるよ」
にっこりと笑い、銀髪上忍はオレに誘いをかけてきた。
絆されすぎやしないか、上忍……!! もし俺が他里の忍びの変化だったらどうするんだ! 危機管理なさすぎじゃないか、上忍!!
銀髪上忍はオレの内心の動揺を尻目に、よしよし帰ろうなと俺を抱きかかえようとしてくるではないか。いや待て、待って、待たんか、ごらぁぁぁあぁ!!!
「あ、クロスケ!」
俺は渾身の力で銀髪上忍の手を跳ねのけるや、ここ最近で断トツの本気を出して逃げた。尻尾まくって逃げまくった。
後ろから銀髪上忍の悲痛な声が聞こえてきたが俺は無視した。でも、すでに名前を決めているんだとちょっとげんなりしたが、中忍の全力で俺は家へと逃げ帰った。


家に着いて変化を解き、廊下へ倒れこんだ。
非常に疲れた。
よりにもよって物好きな上忍に絡まれるとは誰が予想しようか。
しかし、俺は疲れ果てた頭で次なる手を考えていた。


そして俺はとうとう見つけたのだ。
短い時間からお試し変化し細かく検証した結果導き出された、誰も俺に注目しない、目に入れたとしてもそこそこの接触ですぐに解放される至高の存在に!!


というわけで、休日の本日、俺的至高の存在である猫の姿で野原を歩いている最中だ。
時々飛んでくる虫へ戯れに猫パンチをかましつつ、俺は野原を当てもなくふらふらと歩く。
商店街の屋根上散歩も飽きたし、火影岩での日向ぼっこも気が乗らない。今日は森で木登りでもしようか。
本日の予定も決まったことで、のんびりとした足取りで森へとたどり着けば、いた。
奴がいた。


「クロスケー! 出ておいでぇ、クロスケぇぇぇ。オ、オレと一緒に帰ろう! クロスケぇぇ」
がさごそと森の入り口あたりで藪に頭を突っ込んだり、木に登ったりと、実に忙しない様子でクロスケを探す銀髪上忍。
もしやまさか。
俺が犬生活を諦め、猫生活を大いに堪能している間も、この銀髪上忍はクロスケとやらを探してたのか。俺が猫生活をし始めて早一か月は経っている。それなのに諦めもせずに探しているのか、この上忍。
その執念を目の当たりにし、ぞわっと体の毛が逆立つ。
俺が変化した犬だということはバレていないようだが、このご執心ぶりを見るとバレる可能性が非常に高い。ここはそっといなくなるにかぎ――
「おぉい、カカシ。黒いのがいるぞ」
方向転換しようとする寸前、背後から声があがった。
ちょ、ま、気配なんて一つも感じなかったぞ!!


ばっと振り返って見れば、明らかに普通の犬ではない。
理知的な瞳に、額には木の葉の額宛。くしゃっとした顔をしたパグ犬が俺を真っすぐに見つめている。
やべぇっと先ほどより毛を逆立て、俺はここから離脱するために足に力を入れ地を蹴ったところで後ろから拘束された。
「ク、クロスケェェエェェェエ!!!!!」
「フギャァァァァア!!」
背後から手が出て、抱きしめられる。それと同時に背中に何度も固いものと柔らかいものが行き来するから怖気が走る。
止めろ、止めろぉぉぉぉぉ!!
ぞわぞわする感触にしっちゃかめっちゃか暴れたが、背後の気配は気にする素振りもなく、ご満悦な息を吐いて信じられないことを宣った。
「はぁ、ようやく見つけた。さ、帰ろーね」
「うにゃぁぁぁあ!??」
ぎょっとして背後へ振り向く。
クロスケは犬だ。だが今の俺は猫だ。犬違いも甚だしい間違いである。
「うにゃ、にゃ! にゃ! にゃにゃ!!」
おいテメっ、目ん玉ついてんのか! 俺は猫だ! おめぇの探し求めている犬とは似ても似つかないだろうがっ!!
フシャーっと渾身の威嚇をしながら唸れば、足元のパグ犬が首を傾げて物を申してきた。
「おい、カカシ。その猫は違うと言っているようだぞ。確かにお主、犬を探していたんではなかったか?」
すげぇ、パグ犬!! 俺が言いたいことを全て言ってくれた。さすが忍犬。そんじょそこらの犬とは一線を画している。


パグ犬の言葉にちょっとホッとしつつ、銀髪上忍を見上げれば、銀髪は俺をじぃっと見つめていた。その眼差しの強さに、思わずひぃっと息を飲めば、銀髪は静かに言った。
「パックン。大丈夫。これはクロスケの生まれ変わりだーよ」
は、はぁぁあああぁ!???
頭おかしいんじゃないか発言をしてきた銀髪に二の句が継げない。
パグ犬ことパックンはその発言を聞き、非常に難しい顔をした後、「そうか」と一言だけ呟いた。
え? ちょっと待って、そこ突っ込むところ。絶対スルーしちゃいけないところだぞ!?


「みぎゃぁぁぁ、みぎゃぁぁ!!!」
下ろせ、下ろせと俺は必死こいて暴れたが、銀髪の手は一度も緩みはしなかった。
「うんうん、クロスケもオレに会えて嬉しーんだね。ふふ、相思相愛だぁね」
俺を胸に抱き、優し気に微笑む銀髪の唯一見える右目からはほんのりと涙が染み出ているからなお悪い。
嫌がる俺を見てそんなことを平気で宣うお前の神経が信じられない。
「うぎゃぁぁ、ぎぃやぁぁぁ」
嫌だ、俺は帰るんだ! 俺は俺は――
「うんうん、帰ろうね。今日からクロスケはオレの家族だぁよ~」
うふふふと非常にご機嫌な様子で歩き出した銀髪に向けて、俺は腹の底から叫んだ。
「うにゃぁぁぁぁああぁああ!!」
人間なんだぁぁああっぁ!!

つづく