おひさしぶりです!!
猫の日ssです!
読み返しておらず、取り急ぎですいませーん。楽しんでいただけたら幸いです( ´∀`)
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2023年2月22日 令和5年

ふーっと満足気な息を吐き、日の当たるベンチに体を横たえる。
自分の手を舐めて、擦るように顔を洗い、耳の後ろまできちんと毛づくろいをする。
ぽかぽかと温かい日差しが俺の黒い毛に当たって、全身がほんわりと温かくて非常にいい気持ちだ。
黒猫ってやっぱり熱吸収率が高いんだなぁと、自分が黒髪で良かったと心底思えた。

アカデミー教師と、受付任務の二足の草鞋を履きつつ、その合間の休み時間を使って俺は猫に変化して休憩をとっている。
里の中で無闇に忍術を使うのは褒められたことではないが、のっぴきならない理由のため致し方ない。

俺ののっぴきならない理由。
それは、人の頼み事を断れない、ということだ。

何だそんなことかと人は鼻で笑うかもしれない。だが、当人からしたら己の生死に直結する致命的な欠点だ。
考えてもみてほしい。
普通に生活してて休みもなく永遠と動いていられるか? 自分の睡眠をなげうち、6日間連続で働くことができるのか?
答えは否だ!
それを余すことなく体験した俺が言うのだから間違いない。
八方美人? 意志薄弱?
そんなことは俺が一番分かっている! だが、頼まれたらNOと言えないんだよ! いかんいかんと自分でも思っているが、気付けば「うん」って頷いている自分がいる。大丈夫って胸を叩いている俺がいるんだよ!!
気を置けない友人に泣きつつ愚痴を吐く度に、お前のそれは病気だと言われること数度。
そして、無理な頼み事を聞いて、ぶっ倒れること数度。
俺は開き直った。
人間だから駄目なんだと。人間だからこそ、頼み事を引き受けてしまうのだと、思い至った次第である。
そして導き出された答えは。

猫だ。
俺が猫になってしまえばいいという結論に相成った。

犬はそれこそ命令されることに喜びを覚える生き物だし、鳥は鳥で体格小さくて外敵に狙われやすいから気が休まらないし、鼠も同様。うさぎもかよわいイメージあるしと身近な動物を潰していって、猫という最高の生き物が残った。
猫は自由気ままで可愛い癖に、ちゃんと攻撃のできる爪、牙もあるし、何と言っても身のこなしが軽く、危険から逃げる術も持っている。
猫、最高か! と興奮冷めやらぬまま、いざ変化してみてもやはり猫は最高だった。

楽だった。ものすごい気楽だった。この世に春が来たと思えた!
顔見知りの側を歩いても、芝生の上で寝転んでいても、ベンチの上で毛づくろいしても、誰一人として俺に声をかけてくる輩はいない。そればかりか、誰一人として俺に視線を向ける者はいなかったのだ!!

ちょっとトイレに行こうと廊下に出れば「あ、うみの中忍」と声をかけられ、己の膀胱の耐久度を日々試されていたのに、猫になれば一直線にトイレへ行ける。
昼飯時にさてご飯と己の弁当を広げれば、「イルカ、ちょっとこっち来い」と顔見知りに捕まり最後まで食べ切れることがほぼなかったのに、猫になれば誰にも邪魔されずに最後まで完食することができる。しかも残った時間でお昼寝という至福までついてくるのだ!

猫、たまんねぇ。最高すぎるぜ、猫!!

というわけで、俺は己の自由時間が来た瞬間、猫になっては日々を過ごしている。
おかげさまで、ここのところ吹き出物が出ていた顔や始終切れていた口端、濃くなっていたクマは見事払拭されて健康的な面構えとなった。

これも猫さまさまだなぁと、ひとしきり毛づくろいを終えた俺は、くふんともう一度満足げな息を吐き、腕を顔の下に敷いて眠る準備に入る。
が、今日もじぃーっと何かを訴えるように向けられる視線に気付き、俺は内心ため息を吐いた。
俺の素晴らしき猫時間に、ここ最近、ちょっかいを出すものが現れた。
目を開き、ちらっと見れば、大部分が隠された顔の中、唯一覗く右目がきらきらと喜びに溢れるさまを目撃してしまった。

その人の名は、はたけカカシ。
里の誉れと謳われる、木の葉の里を代表する忍びであり、今年卒業した俺の生徒を下忍に持つ、上忍師の先生だ。
顔合わせをしたのは、下忍合格の報告をしにきた生徒たちにお願いをして、紹介してもらった時だった。
生徒たちのことをよろしくお願いしますと深々と頭を下げた俺に、「んー、こちらこそよろしく」とぼんやりと頷いてくれた。
そのときは高名な忍びに関わらず気さくというよりどこかぼぅとしている人となりに、この人、大丈夫かなと不安を覚えはしたものの、受付で受け取る報告書はまことその名に恥じぬ働きぶりで、俺の生徒はいい上忍師に当たったなーと思っていたのだが、ここにきてはたけ上忍は不穏な態度を取るようになった。
よりにもよって、俺が猫に変化している時に限り。

猫の身で初めて会ったのは、今いるベンチでだった。
昼ご飯を食べて、残りの休憩時間はゆっくり昼寝でもするかと、冬の日差しの暖かさに爆睡してしまった時だ。
不意に良からぬ気配を感じて目を開けた目の前に、覆面男のドアップ顔があった。
ほんの少し前に動けば、顔と顔がくっつきそうになるほどの至近距離だった。

俺は心臓が口から飛び出でんばかりに驚いて、カッと口から威嚇の音が出るばかりか、気付けば手が出ていた。
そして、俺の爪は、見事はたけ上忍の口布の上にわずかに出ている鼻梁を左から斜めに跨ぐように抉っていたのだった。
あ、やっちまったと思った時にはすでに遅く、俺は混乱する頭で、上忍の癖に何で避けないんだよ、つぅかお前はたけカカシだろう!? と謎の逆ギレを起こしてしまい、カカカッと続けて体を膨らませ、耳を倒して威嚇をしまくった。
冷静な人間の俺はあっちゃーと痛恨のため息を漏らし、混乱中の猫の俺はあぁん、やんのかテメェと強気に出ている。
逃げる機会は失われ、このまま上忍のえげつない暴力に曝されてしまうと、ほぼほぼ覚悟していた俺に、一向に上忍の怒りの鉄拳は降ってこなかった。

カカッカカカと自然にこぼれ出る威嚇音を吐きながら、よくよく目の前の男に視線を向ければ、俺が引っ掻いた傷跡をそっと撫でて、何故か嬉しそうなくぐもった笑い声をあげたのだ。
「ふふ、引っ掻かれちゃーったっ」
語尾にハートマークがついてもおかしくない上がり調子のその言葉に、人間の俺と猫の俺は同時にドン引いた。
こわっっと呻いた俺に、猫の俺も一歩後ろに下がってシャーッと叫ぶ。
折しも休憩時間が終わる頃合いだったので、いい機会とばかりに脱兎のごとく逃げ出した。
後ろでは「あー、もぅ行っちゃうのー」と残念そうな声が聞こえたが、関わりになりたくないとばかりに逃げる足に力を込めた。

その後、受付任務に入った俺の元へ、はたけ上忍は子どもたちの任務報告書を持ってきたが、傷跡を隠しもせず相変わらずのにこにこ顔だった。
にこにこと笑うはたけ上忍に傷跡のことを聞くか聞くまいか迷ったが、俺は結局触れないことを選択した。
俺が猫に変化している事実は誰にもバレたくない。ようやく得たエデンの園を手放すなど認められる訳もない。
猫関連の話題が出てボロを出さないという絶対的な確信もない以上、関わらぬが吉、君子危うきに近寄らず、なのだ!!
任務お疲れ様でしたとにっこり笑って次の報告者へと視線を向け、俺は受付任務を続行した。
大丈夫、大丈夫。ボロは出してない。ただ真面目に働いているだけですよという態度でその日は終えた。

その対応が完璧だったのか、今のところ俺自身に対してちょっかいをかけられることはなくホッとしていたのも束の間、はたけ上忍は猫の俺に絡むようになってしまったのだ。
大抵は俺が昼飯を食べた後の昼寝中にそーっとやってきて、じぃーっとこちらを見てくる。
俺は猫であるという絶対的な地位を胸に、ガン無視で寝る。
初めてのときもそうだったが、はたけ上忍は俺を見つめはするが特に何もしてこないので気にしなければ無害も同然だった。
まぁ、距離が近すぎるというのが難点だが。

なので、今日もいつものことだと、俺は無視してさっさっと眠りに入る。
はぁ、今日もいい天気だ。冬の冷たい風もこの猫の体ならばちょうどよい涼しさに感じる。
ふわふわっと優しく撫でられる風が気持ちいいなぁと思ったところで俺の意識は途絶えた。

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初めて見たときは我が目を疑った。
アカデミーの敷地内、木の葉の本部のお膝元とはいえ、憩いの場ではあるが不特定多数が行き交うベンチの上で、大口を開けて爆睡している人がいるなんて。
しかもそれは先日子供たちを介して知り合った、子供たちの恩師で、それも何の趣味か、黒猫の耳をつけて寝ているなんて!!

やばい、この人、何か良からぬ趣味でもあるんじゃないの? 挨拶しに来たときは疲れ草臥れきっていたけど無害そうでお人好し感あふれる、忍びには珍しいタイプで、ま、これなら酒くらい一緒に飲んで子供たちの話とかしてみたいなぁとか思ったのに騙された!! あの人に育てられた、今はオレの部下たちは何かしらの悪い影響を受けているじゃないのと、おののき慌て、オレは最高権力者である三代目火影様へと報告しに行った。
告げ口というなかれ、忍びは歴然たる階級社会だ。不穏分子がいれば即上にご報告するのが義務なのである。
ヤバい教師がいるけど、アカデミー大丈夫なの? と真剣に告げたオレに、三代目はなんとも言えない息を漏らして、オレ以外からも報告を何度か受けたような態度で事もなげに言った。
「イルカじゃろ。よい、休ませておけ。おぬしが気になるなら、結界でも目眩ましでもしてやれ」
お咎めがないばかりか、積極的に寝させてやろうという差配にオレは二の句が継げなかった。
いやだ、あの無害な皮を被った猫耳変態男、火影を誑し込んでもいるの?

やばい、うちの里の火影がやばいと、その場はそうですねと穏やかに別れたが、里の忍びでも実力上位にいる腐れ縁共にこの里の危機を訴えたが、そこでもオレの望んでいた反応は得られなかった。

曰く。
「イルカか。仕方ねぇ。前触れもなくぶっ倒られるよりかは、ああして大口開けて寝てくれたほうが安心するぜ」
「あー、イルカ先生ね。そうね、私達もつい気軽に頼み事しちゃっていた手前、何も言えないわ。カカシ、あんた余計なちょっかいかけないでよ」
「あぁ、イルカ? 嫌なら断ればいいってのに、ホントあいつ不器用よねぇ」
「アンコさん、それは無理ってもんですよ。イルカの奴が断ったところなんて見たことねぇですもん」
などなど。
どれもが致し方ないという意見で埋め尽くされていたのだ。
なんてことだ。あの疲れて浮腫みまくって、吹き出物が出て、胃の調子も悪そうな男は、上忍どもの心も掌握していたのか! これは里の危機的状況ではあるまいか? あの大丈夫大丈夫俺まだ頑張れますよとどう見ても大丈夫じゃないのに頑張れるという無駄に健気な様を見せつけ、窶れて少し色気が出ている感もある男に、このままでは里を良いように扱われてしまう。
ここはこの中で唯一といっていいほど、男に対して何も思っていないオレの出番であろう。
疲れた男の眠る顔が何となく腹の奥底をくすぐるだけであとは何も思っていないオレが、最後まで責任を持って対処するべきだろう。
いやー、オレの木の葉の里愛も困ったもんだーね。危険人物をこれから始終見張らなくては気がすまないなんてっ。

それからというもの、オレは密かにうみのイルカを尾行し、何か良からぬことをする前に阻止しようと目を光らせている。
任務中は監視できないこともあり、里の未来が心配で出来得る限り早く任務を終わらせ、監視体制に戻るようにしているが、今のところあの男の毒牙にかかったものはいない。
中には何をとち狂ったのか、うみのイルカへ下心を持って近付いてくる輩がいたが、この百戦錬磨のオレが恐れおののいた人物だ。その危険性を力説して近寄ることはやめるよう噛んで含んで言い渡し、周囲にも伝えるよう厳命したので哀れな被害者が出ることはないだろう。
しかし。

目の前を行く、黒猫の後ろ姿を見て、ぞわぞわと背筋に震えが走る。
改めて見ても、なんて卑猥な教師なのだろう。
うみのイルカは尻尾をピンと立てて、キュッと引き締まった小さな肛門ばかりか、その下についている小さな2つの玉も曝け出していた。
こんなに人目のある通りで、己の卑猥な部分を堂々と見せびらかし闊歩するなんて!!
歩く度に、ふるんふるんと揺れるタマタマが非常にいやらしい。ほのかに毛に覆われていて、一見柔らかそうに見えるのも想像力が掻き立てられ、思わず叫んでしまうほどに目の毒だ。
これは猥褻物だ、木の葉の里を堕落せしめん特一級猥褻物である。

オレは本日も高速で印を組み、うみのイルカへと目眩ましの術をかける。
これで里の目は守られたと安堵するのも束の間、うみのイルカは目的のベンチの上へひらりと飛び乗り、口に咥えた弁当箱を傍らへと置き、そのまま腹を出すようにベンチへ座って、弁当箱の包みを解いた。そして弁当箱をお腹へ乗せるようにしてフォークを使って食べ始めたではないか!

その衝撃的な映像に思わず呻き、写輪眼を剥き出した。
弁当の包みを解いたり、フォークを持つなど、猫の身では普通出来ることではないが、チャクラを使って己の猫の手に吸着させているのだろう。
猫の身でベンチに座ろうとするから、足は大開脚してその間に鎮座するタマタマの全貌が今までの比でないくらいにお目見えされている。
これはいかんと、卑猥物すぎると、後に立証するための証拠集めとしてぐるぐる写輪眼を回して記録する。
オレがこうも必死にうみのイルカの悪事を記録しているというのに、当の本人はといえばのん気に弁当を食べている。
むぐむぐと口を動かす横の髭に大きな米粒がついているというのに、気付かずに食べ進めている様は、こちらの気を引きたいがためにわざとやっているとしか思えない。
むしゃぶりついて取られるのを待ち構えている計算高さに、喉の奥からうめき声がこぼれ出る。
な、なんて小狡い教師なんだ! さては、影から見ているオレに当てつけているんだなっ!! この陰乱猫めっっ。

写輪眼のカカシ、業師とも言われるオレを手玉に取っていることすら当然と思っている態度で、悠々と弁当を完食し、いちいち律儀に猫の手を合せて「にゃん」とあざとく食後の挨拶をしたうみのイルカは、弁当を包むと傍らへ置いた。
そこで毛づくろいをした後、満足そうな息を吐いて横たわると、重ねた腕の上に顔を置き眠りに入ろうとする。
本日もここで無防備に眠るのかと、その天真爛漫を装った罠に震えていると、ふとうみのイルカの目がこちらへ向いた。
アーモンド型をした大きな目が真っ直ぐオレを見つめてくる。途端に走る痛みに似た動悸を抑えるために胸を押さえつつ、こちらも負けじと睨み返す。
だが、うみのイルカはやがて興味を無くしたようにオレから目を背けると、自分の足に顎を乗せて目を閉じた。
その様子にオレは思わず呻いてしまった。

オレという第三者がいるにも関わらず、呆気なく眠りに落ちるということは、うみのイルカはオレという存在に気を許しているということに他ならない。
なぜなら、オレたちは忍びだからだ!
例え猫に変化しようが、忍びの本能として赤の他人の側で眠ることなど受け付けないからだ!!

何ていうことだと目眩すら覚えつつ、恒例となった、熟睡するうみのイルカの全身を撫で回す。
これもいつものことながら、オレの手つきが気持ちいいのか、開始数秒でお腹を天に向けて曝け出し、もっと触れと強請ってくる。
まったく何て陰乱教師だーよ。無意識化でも人をたらしこもうとするなんて!
もふもふもふとお腹の毛を触りつつ、口布を取って、顔を腹毛に埋める。
日の光に温められ、うみのイルカの体臭がより濃く臭う。そこに誰かを誑かしてつけた他の臭いがないことを隅々まで確認するため、そこかしこに鼻を埋め、より大きく息を吸う。ん、本日も異状なし。
異状ないことを理解しつつも、何となくうみのイルカの腹毛に埋まり、オレは冷静に思考を回す。

これはもう里のためにも、うみのイルカはオレが囲うしかあるまい。
幸い、顔を突き合わせ続けたおかげで、うみの
イルカの不特定多数を狙った誘惑行動ならびに関心は、ここにきてオレだけに向けられている。
これはまたとないチャンスだ。
里で名を挙げまくっている優秀な忍びであるオレという抑止力で、このド陰乱露出狂であり、あざとい仕草と天真爛漫と健気属性を装う、たちの悪い教師であり受付員に首輪をつけるのだ。
これでもううみのイルカの好き勝手で、里を惑わすこともなくなるだろう。
ゴロゴロと喉を鳴らしながら涎を垂らさん勢いで口を開ける、お気楽なうみのイルカを見つめながら、オレはフツフツとした何かが胸の中に生まれたのを感じるのだった。

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「アンタは今この瞬間から、オレの物であり、オレはアンタだけのものだかーら。それで手を打ちな」
目を覚まして開口一番に言われた言葉は全く意味の分からないものだった。
ふぁとかふへぇとか俺は言った気がする。
それより、俺は猫に変化して眠っていたはずだったのに何故か俺は人の姿で、しかも訳の分からないことを言った男、はたけカカシ上忍の腕の中だった。
寝ぼけた頭で考えようとして、瞬きと口元からこぼれ出そうな涎を拭うより早く、はたけ上忍は口布を下げて言った。
「拒否権は認めなーいよ。観念しな」
曝け出したその素顔の秀麗さと、右目の灰青色に潜む壮絶な熱と、口元に浮かんだ匂い立つような色気に当てられ、ぽかーんと間抜けに口を開いた俺は、気付けば唇を奪われ、ねちこすぎる舌技に翻弄されていた。
もう訳が分からないやら、気持ちいいやらで、そのときの俺は間違いなく腑抜けだった。何も考えていない馬鹿だった。
だからこそ、今の現状があるわけで、よくやったと褒めるべきか、もう少し考えようぜと無防備すぎる俺に苦言をするべきかでいつも迷う。
ただ、まぁ。

「カカシさん、今日は一緒に猫に変化してお昼寝しましょうよ」
昼休み。
カカシさんと昼休憩が重なった本日、昼飯を食べた後に俺は提案してみた。
「……まーた、アンタねぇ」
ものすごく不満げな表情を、右目以外はほぼ顔を隠している状態で、カカシさんは訴えてくる。
場所は俺が猫に変化していた時によくカカシさんと顔を合わせて?いた、中庭のベンチで、いわば二人の付き合うきっかけになった思い出の場所だ。
まぁまぁと宥めつつ俺が先じて印を切れば、カカシさんは口では何だかんだ言いつつ、俺に合わせてくれることを知っている。
始めの頃は戸惑ってばかりだったが、一緒に過ごすうちに何となくカカシさんがどういう人か分かってきた次第だ。

黒猫に変化した俺に続いて、カカシさんは白というには光り輝いている毛並みの猫に変化した。髪と同じで銀色に近いのかな?
少し戸惑い気味のカカシさんを誘導するように俺は寄り添って、共にベンチに寝そべる。
俺の頭はカカシさんの腹の上に置いて、カカシさんの頭も俺の腹の上になるよう二人で丸くなる。
どこか緊張気味の、逆さまなカカシさんの鼻へ俺は自身の鼻を軽くくっつけて笑う。
始まりが始まりだったし、いい大人だからやることはやっちゃってて今更だとは思うけど、やっぱり俺としてはちゃんとケジメをつけておきたい。

「好きですよ、カカシさん」
にゃーと心を込めて告白する。
対するカカシさんは一瞬にして毛を逆立てて目を真ん丸くさせている。
息すらしてないのではないかという硬直具合に苦笑しつつ、俺はつけていた鼻を押すようにしてお伺いをたてる。
「で、カカシさんは実際どうなんです? まーだ俺のこと木の葉に悪影響を及ぼす危険人物で、側で監視してないといけない輩なんですか?」
俺の言葉に、カカシさんの耳が倒れた。非常にバツの悪い気配を醸し出すカカシさんの反応に、分かっててやっていたのだなぁと少し安堵する。
付き合い当初は妙な疑いをかけられていることに戦々恐々としていたが、カカシさんの友人兼同僚に話を聞き、カカシさん自身を知るにつれ、だんだんと見えてきた。

カカシさんは私生活において全く素直じゃないというか、何かしらの理由がないと行動に移せない、とんだへたれだったのだ。

まぁ、カカシさんは里の誉れだ、写輪眼のカカシだなんだと周りから注目される存在だし、カカシさん自身も根は真面目な人だから何かしらの葛藤があっての、この行動なんだと今ならば理解できる。あくまで理解できるだけだがな。

非常に困っている気配を醸し出して、カカシさんは沈黙を守ったまま往生際悪く逃げようとするが、そうは問屋が卸さない。
「カカシさん、俺、ちゃんとあんたのことが好きですよ。始めこそ流されまくりでしたけど、今はきちんと惚れてます」
猫に変化した俺を影ながら見守っていてくれたこと、俺に過剰な頼み事をする人たちに釘を差していてくれたこと、寝ている俺を労るように撫で続けてくれたこと。
周りの人の話と、さりげない気遣いで俺を尊重してくれるカカシさんの優しさに触れて、俺はカカシさんを意識するようになった。
中には「止めとけ、止めとけ、あいつ変態だぞ?」「無理強いされているなら私達いつでも味方になるわよ?」という意見もあったが、そこはご愛嬌ということで。

カカシさんの目を見つめて答えを待つ俺に、カカシさんは一度だけきゅっと眉間に皺を寄せた後、か細い声でにゃーと鳴いた。
「初めて会った時から好き。……愛してる」
最後の言葉を吐息に乗せると同時に、カカシさんは身を起こして俺に抱きついてきた。
首に腕を回して体に乗り上げてくるから、肝心のカカシさんの顔は隠れて背中しか見えなかったけど、小さく震えていたから、とんでもなく勇気を振り絞って言ってくれたのだと理解した。
ちゃんと目を見て言って欲しかったなぁとか思ったけど、それは未来の俺の楽しみに取っておいてやることにした。

ぐいぐいと首元に顔を擦り付けてくるカカシさんの背中を撫でつつ、顔を傾けて舌が届く範囲を毛づくろいする。
途端にカカシさんも首元あたりの毛を懸命に梳ってくれた。
何故かカカシさんは俺の髪を手入れすることが好きで、オレの物宣言後に、俺の部屋に転がりこんでからは毎晩のように髪を触る。
今も必死に舐めてくれる様子からして、よほど好きなのだなぁと思っていたらぼそりと不穏な言葉が聞こえた。
「オレだけの匂いがするイルカって堪んない。もっと濃い匂いつけたくなる。このまま抱かせてくれないかーな」
イルカと初めての獣姦と、はっはっはっと小さく息があがっていることを確認し、俺の眉間に力が入る。
こういうことは明け透けなく言えるのに、カカシさんのヘタレスイッチはどうなっているんだ。

肉球がぷにぷにのかわいい猫の手なのに、動きが全く可愛くない軌道を描き始めたのを機に、俺は身をよじって、反対にカカシさんを体の下に敷いてやる。
「イルカってば大胆っ」
語尾にハートマークがつくような調子で発言してきたが、それをまるっと無視して俺は言う。
「今はお昼寝の時間ですー、それ以外のことは認めませーん」
「えぇー」
いけずだなんだと口では文句を言っているものの、カカシさんは俺の背中に手を回して固定してくれるから、そういうところが好きだなぁと再確認する。

空からはお日様の日が降り注ぎ、下からは大好きな人の体温を感じる。
とろとろと瞼が重くなってきて、それでももっと体温を感じたくて埋めるように首の下へと潜る俺に、カカシさんは小さく呟いた。
「意気地なしでごめーんね」
今更な言葉に吹き出しそうになったが、カカシさんが正攻法で俺に交際を願っても、頭の硬い俺が受け入れることは長い年月がかかっていたことは想像に固くないから、これが最速の最適解ではないかなとも思う。
さすがは年間最多任務達成記録持ちと、夢現で思いつつ、もう一度にゃーと鳴いた。

「大好きですよ、カカシさん」

俺の言葉に対する声は、もう眠りに飲まれて聞こえなかったのだけど、ぐるぐるとしきりに鳴る心地いい振動を感じて胸が温かくなった。



おわり