五輪「完成度」重視で北米側に軍配
ライサチェク(米)が逆転優勝を飾ったバンクーバー五輪のフィギュアスケート男子で、銀メダルのプルシェンコ(ロシア)が、採点基準の不公平さを訴える一幕があった。女子の浅田真央(中京大)のトリプルアクセル(3回転半ジャンプ)でも指摘されたが、新採点基準が高難度技を十分評価しないとの議論は根強い。(バンクーバーで、結城和香子)
3回転半、4回転 新採点基準の壁
「今の採点基準は4回転ジャンプを正当に評価しない。皆が4回転への挑戦をやめたら、競技は停滞する」――。プルシェンコはフリーでも4回転―3回転の連続ジャンプを決めたが、4回転を回避して完成度で勝負したライサチェクを技術点で1・86点下回り、金メダルを逃した。浅田は五輪の女子で史上初めて2度のトリプルアクセルを成功させたフリーで、3回転―3回転を武器にした金妍児(キムヨナ)(韓国)と、技術点で13・62点の大差がついた。敗れた2選手は、大技以外のジャンプでミスが出たが、トリプルアクセル―2回転ジャンプの基礎点が、3回転―3回転より低いように、大技や歴史的快挙の「意義」が、以前ほど得点に反映されないのも事実だ。
ロシア陣営などからの不満に対する、国際スケート連合(ISU)のチンクワンタ会長は「ジャンプはスピンやステップといった要素の一つでしかない。今の採点基準は、フィギュアスケートの持つさまざまな側面を総合的に評価するものだ」と反論した。
金を指導したカナダのオーサー・コーチは、採点基準の攻略法をこう語る。「カギは完成度。要素を流れの中でミスなくこなした時、フリーの12要素で得られるGOE(出来栄えを示す評価点)のプラス分と、加算されるプログラム構成点を考えれば分かる。大技を決めても他で得点を取りこぼすのでは意味はない」。金はフリーのGOEだけで17・40点と、浅田の倍近くを稼いだ。
新採点基準は2002年ソルトレーク五輪の不正採点疑惑後に導入された。北米は新制度の考案や改定にかかわった人材が多く、採点傾向の変遷にも敏感だ。今回男女の優勝が、完成度を重視した米国・カナダの指導陣の選手で、浅田ら大技にこだわったロシア指導陣の選手が銀だったのは、偶然とばかりも言えない。
採点基準は毎年見直される。高難度技の基礎点や、大技に挑戦し回転不足となった時の減点幅の緩和などは、今後も焦点となるだろう。
(2010年3月9日 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/sports/feature/figure/fi20100309_01.htm