ろくでもない夜はEX下北沢・屋根裏。SKCが『友殺』のリリパをやったライブハウス。

 

いろんな意味で感慨深く、かつ考えるヒントがいっぱいもらえたイベントだった。

まず会場のろくでもない夜は元バンギャの私には神聖かまってちゃんの聖地である。

そして、りあるキッズの安田善紀さん。彼が本当に少年だった頃の漫才を関西で見ている。

だから、東京で閃光少女として再会した彼が、あの子だとはすぐにはわからなかった。

今日、すっかり大人というよりおっさんになった安田くんは舞台上でたばこ吸うてましたわ。

(もちろん他の演者さんにもお客さんにもちゃんと断ったうえで)

 

しかし、コンビ名閃光少女ってどう考えても椎名林檎めっちゃ好きでしょ?

 

エルシャラカーニの清和さんは、3/20江戸魂VS浪速魂@なかの芸小で

「大阪はお笑いが閉鎖的」というようなことを言うてはってまったく同感だった。

一緒に行ってた関西人の連れも「ほんまにそうやわ」と同意していた。

 

基本的に関西には吉本と松竹しかお笑いの芸能プロダクションがない。

私のような口の悪い関東在住お笑い好き関西人は、

吉本クビになって大阪から東京に拠点を移した芸人を「都落ち」と呼ぶ。

しかし、吉本におられんようになってもお笑いを続けようとしたら

東京の事務所に移籍するしか道がないのもよくわかる。

 

東京では吉本のハコにまず行かないので、ライブでは初見のマドンナ。

 

今日もゲストのマドンナが出てきて漫才始めたとたんに「あ、吉本やわ」と思った。

芸人の所属事務所をいちいち覚えているわけではないが、

大阪吉本所属、あるいは関西出身で東京吉本所属の芸人は一発でわかる。

「なんで?」と訊かれても説明に困るのだが、とにかくどうしょうもなく吉本くさいのだ。

(例外もある。東京ダイナマイトみたいに他事務所から吉本に移籍したコンビもいれば、

金属バット、デルマパンゲ、Dr.ハインリッヒみたいに吉本臭のしない吉本所属コンビもいる。

たとえばPOISON GIRL BANDが吉本っぽくないのは関西出身ではないからだろう)

 

「デブの女の芸人とか、子供のときやった遊びとか、すでにやりつくされたことを

またやってるのが嫌」てな話に壇上でなったけど、小さいときからええ大人になるまで

もはや古典的といえる吉本の漫才を関西でずっと浴びるほど見てきた身としては、

もうそんなレベルはとっくに通り越して、ボケ→ツッコミ→ボケ→ツッコミと交互に

規則正しい定型で進められる漫才自体にいいかげん飽き飽きしていたのだと思う。

 

だから、東京でメイプル超合金、そしてランジャタイを見たときの衝撃がすごかったのよ。

カズレーザーが募集がすでに締め切られていたNSCに入学できなくて、

ランジャタイがNSCを早々に退学させられて、本当によかった!

彼らの今持っているよさは吉本では育たなかったものなのではないだろうか?

 

もし、字面で読んで完璧におもしろい漫才の台本が書ける人がいたとしても、

当たり前だけど、それを漫才としてやったところでおもしろいとはかぎらない。

ランジャタイはしゃべくりではなく、動きボケが売り。そもそもくにちゃんは台本を書かない。

だから、ランジャタイほどネタの文字起こしが無意味なコンビはない。

ちなみに、今日のランジャタイのネタは『ザリガニホームラン』で、

参考までに台本が客席に配布されたが読んだところでまったくおもしろいわけがない。

東京吉本ではマヂカルラブリーが動きボケだけど、

大阪には一貫してずっと動きボケをやり続けてるコンビは今はいないのでは?

それは大阪の、吉本の、もっといえば、M-1の主流がしゃべくりということでもある。

 

ランジャタイのくにちゃんと伊藤ちゃんの関係は、

神聖かまってちゃんギタボのの子とベースちばぎんの関係によく似ている。

創作するのはの子だけど、バンドの求心力は実はちばぎんにある。

ちばぎんなしにはあのバンドはバンド足りえない。

 

同じく、ランジャタイの要は間違いなく伊藤ちゃんなのだ。

構成なんも考えずに天然であれだけおもしろいネタができるくにちゃんは天才なのだが、

(今日もくにちゃんの抽象概念も客観性もまるでゼロのコメントを

「この人、アホなんだかお利口なんだか」と思いながら聞いていた)

富山の田舎から出てきたマジキチ好青年くにちゃんというキャラには、

彼をお客にわからせる伊藤ちゃんという媒体が必要不可欠なのである。

 

今日、清和さんが「伊藤が変わったからランジャタイがおもしろくなった」とおっしゃっていて、

「よくわかっていらっしゃる!」と思わず握手を求めたくなった。

「ランジャタイは人(にん)の漫才。テレビで最初の30秒で人(にん)を伝えられたら

革命が起きる」ともおっしゃっていた。だから、テレビでは全然ウケなかったんだ!

M-1グランプリの1回戦は2分だし、『ゴッドタン』では3分しかOAされなかったのだから

30秒でも長いくらいや。人(にん)を表す短い一言があれば、それに越したことはない。

ネタの始まりに「うちらマジ最強だからー(ギャル口調)」とでも言おうかとくにちゃん。

 

その点、策士カズレーザーは計算しつくしている。

同大在学中から「体重が100kgぐらいある女とコンビ組んだらめっちゃ面白くない!?」

言ってたらしいので見た目重視で相方を選んだことはほぼまちがいない。

メイプル超合金はあの見てくれでネタに入る前に一目で人(にん)が伝わる。所要0秒。

見たとおりの変人とデブ女なのだから説明は一切いらない。

ただカズレーザーという人は見てのとおり、己の自由を謳歌し、権利を行使する人なので

相方には多大な忍耐と寛容が求められる。安藤なつさんはそれも兼ね備えていた。

そういう意味では、メイプル超合金は夫婦よりも絆が深い、運命の漫才コンビなんだろう。

 

の子の本名・大島亮介名義のデモテープ版『ロク鳴り』

 

アルバムに収録された『ロク鳴り』。こっちのほうが耳障りがよくて聴きやすい。

 

以前、スピッツのドラムの崎山さんがこんなことを言っていた。

専門学校生時代(80年代後半)にいくつか掛け持ちでバンドをやっていた。

そのときのデモテープを聴いてみたら、他のバンドは笑っちゃうほど陳腐に響くのに

草野がつくった曲は今もなにひとつとして古くさくない。

この境界がプロとアマチュア、さらには売れる人と売れない人との違いである。

要するになにがいいたいかというと、草野マサムネは最初から独りよがりに陥ることなく、

初期衝動の客観化、一般化が独力ですでにできていたということだ。

(ただ後世に残る曲には普遍性があるけれども、漫才には別に普遍性はいらんでしょう)

 

中二病をうんとこじらせた才能を一瞬で大爆発させて、

旬がすぎたらあっさり解散してほしいと常々バンドに関してはそう望んでいる。

計算されつくしたものよりも初期衝動の塊のほうがはるかにおもしろいに決まっている。

これが漫才ならともかく、楽曲に関しては残念ながら初期衝動はそう長くは続かない。

あくまでも個人的な主観だけれど、だいたいのバンドはファーストアルバム1枚のみ、

たとえばスピッツにしても、神聖かまってちゃんにしても、

最初のアルバム3枚ずつくらいかな、初期衝動を強く感じるのは。

 

ランジャタイのなにがおもしろいって、いつも初期衝動しかないところに尽きる。

今回初めて「大会漫才」なる語句を耳にしたのだが、これは楽曲でいえば、

初期衝動でつくった曲を編曲で耳障りよくするということにあたる。

つまり、主観的から客観的に、個人的から一般的にとお客に寄せるための作業である。

 

今となってはなにがおもしろかったのかわからんと当の本人が言っている『カラオケ』。

 

★ランジャタイ大会漫才化計画★

では、ランジャタイが今年のM-1で勝ち残るには具体的にどうしたらよいか考えてみたい。

去年の3回戦でやった『宇宙大戦争』はとても大会向きのよいネタだったが、

敗退した準々決勝でやった『カラオケ』は大会向きではなかったと思う。

個人的には両方とも会場で見ていてどちらも爆笑したのだがあくまでも客観的に捉えてみる。

 

・ネタ中の登場人物、あまりに唐突な場面転換は少なく抑える。

漫才ブームのときに早口の漫才に年寄りがついていけなかったように、

登場人物や場面転換が多すぎるとお客がおいてきぼりになる。

いきなりカッパとふれあいタイムも、沼から突如としてシャワールームにワープするのも、

普段正統派の漫才しか見ていない人はついてこれない。

 

・印象に残る決め台詞がほしい。

しゃべくりではないぶん、ネタ中に繰り返す決め台詞がほしい。

「持ったら最後、はなさなーい」とか、「あんことわんこはだいたい一緒」みたいな。

 

・途中で切らない。なんらかのオチをつける。

たとえばネタ尺が2分とか短い場合、4分のネタを途中で終わったりするのではなく、

元々4分のネタを編集して2分に収めること。もしくは新たに2分のネタをつくること。

結末に至らず途中で終わるほど、お客にとってフラストレーションのたまる漫才はない。

 

・それって今おもしろいだけ? 1年後もちゃんとおもしろい?

初期衝動上等。だけど、『カラオケ』が今となってはおもしろくないわけでしょう?

去年つくったネタで一番おもしろいと思ってた『ゴリラ』もファンのウケはもうひとつ。

今年つくったネタで一番おもしろいと思っている『肉まんハイハイ』は、果たして

1年後もおもしろいと思えるんだろうか? そのへんに当人とお客の目線の違いを感じる。

 

・ネタの初めに「田舎から出てきたマジキチ好青年」だとお客にわからせる。

ランジャタイを初めて見たのが『宇宙大戦争』だったのだが、

なんの予備知識もなくて見たのであっけにとられて最初はひとつも笑えなかった。

「あの基地外のにいちゃん!」と脳髄に刻みこまれていた2回目からは笑った。

初見の人も笑わせるためには人(にん)を表す一声が必要(と今日学んだ)。

 

・とにかくがんばれ! 伊藤ちゃん

くにちゃんはゴジラでいえばもう第4形態くらいでほぼ完成しているので、

あとは伊藤ちゃんがどれだけくにちゃんの言動をお客にわかりやすくできるかが課題。

まずはお客の疑問や気持ちを代弁できればそれでよし。

「伊藤の髪型こそがランジャタイ」というくにちゃんの発言はあながち外れてはいない。

だって、伊藤ちゃんこそがランジャタイの要なのだから。大事なことなので2回言いました!

もみあげ大明神、その微動だにしないもみあげでM-1ファイナリストまでお導きください!

 

さて、M-1グランプリ2017、ランジャタイは1回戦 8/22 Cグループに出場決定!

『おもしろ荘』、『ゴッドタン』とつかみそこねたチャンスを今度こそつかんでくれ!

 

清和「ランジャタイは初期レッチリ」、安田「ランジャタイは中田カウス・ボタン」

 

【論客】

エルシャラカーニ清和(サンミュージックプロダクション)

安田善紀(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)

 

【ゲスト】

マドンナ(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)

ランジャタイ(オフィス北野)