『花が丘高等学校、金賞、ゴールド』
発表の瞬間。
いったい、何が起こったのか、わかんなくて。
歓声を上げるタイミングを、みんなが、逃してしまった。
普通、『金賞、ゴールド』とアナウンスが流れた途端、ほとんど悲鳴みたいな歓声が、その団体一帯から沸く。
だけど、わたしたちは。
すべての団体の発表が終わって。
ようやく、自分たちの身に降り注いだ幸福に、気づいた。
それくらい、わたしたちにとって、ありえないことに。
わたしたちは、必死に、挑んだんだ。
泣いた。
抱き合ったり。
手を取り合ったりして。
こぼれ続ける涙を、ぬぐいもせずに。
――でも。
わたしたちが勝ち得たものは、これだけじゃなかった。
『県代表として、支部大会へ進んで頂く団体を発表します。花が丘高等学校、・・・・・・』
びっくりしすぎて。
涙が、止まった。
そして。
みんなでいっせいに、真川さんに抱きついた。
真川さんは放心状態で。
あんなに、自身満々だって、上に行けないわけがないって、クールに澄ましてたのに。
わたしたちに揉みくちゃにされながら、徐々に実感が湧いてきたのか、目元を赤く染めて苦笑しながら、
「あんたたち、やればできるじゃん」
って。
はじめて、言葉にして、わたしたちを褒めた。
県代表。
今まで、金賞も数えるほどしかとったことのない、無名の学校が。
金賞だけでも快挙なのに。
支部大会へ行けるだなんて。
わたしたちは、かなりのしあわせものだ。
■ □ ■
『へー。やったね、奈々実。おめでとう!』
電話の向こう側の、秋の声が、何だかくすぐったい。
夜。
寝る前に、秋に電話する約束を、昼間にしていて。
布団の中にもぐりこんで、電気を消して。
秋に、電話をかけた。
「ありがとう。ほんとにね、うれしいんだー。先輩たちもとってもうれしそうでね?そのうれしそうな顔見てると、こっちはもっとうれしくなっちゃって」
『支部大会も、ききに行けたらいいなあ。夏休みの後半なんだよね?』
「うん、そうなの。ほんと、ききにこれたらでいいよ。秋も・・・・・・足、大変だったね」
秋は、夏の大会の前の練習試合中、着地に失敗して、足を捻ってしまったらしく。
メンバーから外されて、夏休みは療養とリハビリに励むことになってしまったって。
話をきいた。
「だいじょうぶだよ。秋なら、すぐにまた元気になって、前よりも高く飛べるようになっちゃうよ」
あははって。
軽やかな秋の笑い声がきこえたけど。
あ、笑ってないな・・・・・・って。
思った。
「秋・・・・・・」
『んー?』
窓の向こうの夜空に浮かぶ、ゆみはり月を、見つめる。
少し、輪郭がぼやけてるみたいに見える。
月が、泣いてるみたい。
「すき・・・・・・」
そして。
心地良い間のあとに。
返ってくる、ことば。
『すきだよ、あたしも。奈々実が凄く、すき』
わたし、こんなにも幸せなことばかり続いて、だいじょうぶかな。
吹奏楽も。
恋も。
とっても順調に、歯車がまわってる感じだ。
特に、恋は、今日の今日まで、あきらめていただけに・・・・・・
「何だか、ちょっと、怖くなってきた」
『・・・・・・あたしが?』
「んーん、わたしが。だって、幸せなことばっかりなんだもん。反動で、とてつもなく怖ろしいことが起こりそうで」
『だいじょうぶだよ』
――奈々実は、あたしが守るから。
ねえ、秋。
そんなこと言ってくれたら。
また、幸せになっちゃうから。
また、もうひとつ怖くなっちゃうじゃん。