あたしの・・・・・・思い違いだったのかな。
いや、
思いあがり、だったのかも。
帰り道。
雨粒が、頬にあたった。
空を見上げると、どんよりと重苦しい雲が、すごい速さで押し寄せてきている。
期待を、していた。
奈々実も、あたしと同じきもちなのかもしれないって。
あのとき・・・・・・
あたしはそれを、確かめたかったのかもしれない。
そして奈々実は、キスを、拒絶しなかった。
あたしが、奈々実の顔を引き寄せたとき、いくらでも、あたしから逃げることができた。
昨日のことで、あたしが奈々実を好きなことは、それとなくでも彼女に伝わったはずだった。
奈々実が拒絶しなかったことで、自信が湧いた。
あとは、まっすぐに、自分のきもちをぶつけるだけだって。思った。
でも。
『ちがったら、困る』
奈々実と、どこかで、すれ違ってる。
奈々実は、困るって、言った。
あたしが、おんなの子を好きになるおんなの子だと、困る・・・・・・ってこと?
それは、奈々実が、そういうおんなの子ではないってこと、か。
でも、その考えには少し違和感がある。
それじゃあなんで奈々実は、
『秋は、おんなの子を好きにはならないおんなの子だから』
と。
あたしに、拳を突き立てたの?
――「秋」
駅へ続く国道のわき道を歩いていると、コンビニ前の小さな駐車場で、車にもたれて煙草をふかしている女が、突然声をかけてきた。
女を見た瞬間、息が止まる。
奈々実といっしょにいた、女だった。
「秋で、いいんだよね?」
「・・・・・・あんた、だれ」
まずは自分から名乗れ、と。
女をにらみつけて、言った。
「あー、私は奈々実の保護者みたいなもんだよ。真川奈津子。どうぞよろしく」
奈々実の話に今まで出てきたことのない人物に、嫉妬心が煮えたつ。
「あのさ、秋にひとつ、頼みがある」
ふかしていた煙草の吸殻を携帯灰皿に押し付けると、真川奈津子はあたしに近づいてきた。
至近距離まで詰め寄ると、真川は腕組みをして、品定めするようにあたしを眺めまわす。
「あんた・・・・・・いいおんなだねー。奈々実も結構、面食いなのか」
「茶化すな」
「ふふ。私もあんたみたいなの、結構好きだよ。でも今は・・・・・・」
突然、くちびるに、何かが触れた。
真川の、親指だった。
あたしはぱしっと、真川の腕をはらいのける。
「あんまり、奈々実に悪さしないでくんない?今は、私のものだから」
「・・・・・・は、何言ってんの?」
奈々実は、ものなんかじゃない。
「今は私のものなんだ。あの子たちを、全国大会連れてくって、決めてる」
「ぜんこく・・・・・・吹奏楽コンクールの、こと?」
察しがいいと。真川にほめられても、ちっとも嬉しくなんかない。
「全国行くには、それなりの覚悟がいるんだよ。あの子も、そのことはよく知ってる。全国連れてくとは、あの子たちには言ってないけどね。でも必ず、連れてく。・・・・・・まあしかし、気は抜かない方がいいよ。私は、『今だけ』って割り切って付き合うつもりだけど。場合によっては・・・・・・マジになるかもしれない。昨夜、ひと晩いっしょにいて、正直ヤバイかもなーって思った。」
かあっと、頭に血がのぼる。
衝動的に、あたしは真川との距離を詰めて、彼女の胸倉を引っつかんだ。
「悪いけど私、バイセクシュアルなんで。秋と奈々実はどうなのか知んないけど。本気になったら、容赦なく攫うよ」
真川のあやしい笑みは、魔女のそれみたいだった。
「黙って持ってくのは好きじゃないから。先に、言っとく」
雨は、本降りになる。
奈々実。
今、何を思うの。
何を思っているの。
あたしは、たとえどんなことになっても、奈々実の味方でいたいよ。