「ばあちゃーん・・・・・・」
心もとなさすぎるこんな声が出せるんだと。
そんな自分に驚きつつ、あたしはシマばあちゃんちのドアを開けた。
小走りで、居間に入る。
シマばあちゃんはテレビを見ていた。
テーブルの上には、3人分に切り分けられたアップルパイと、すぐにいれられるように、紅茶のセットがスタンバイされていた。
それを見て、余計にせつなさがこみあげてきて。
思わず、シマばあちゃんの曲がった背中に、しがみついた。
「どうしよう!ばあちゃん!あたし・・・・・・がっついちゃった!」
そう。
自分でも、どうしてあんなに思いきれてしまったのか。
不思議で仕方なかった。
自分じゃないみたいだった・・・・・・あたし。
あたしの中の、別のあたしが。
勝手に、奈々実に手をのばして。
でもそれは、まぎれもなく、あたしだった。
奈々実が走り去ってはじめて、自分が何をしたのか。
自覚した。
「我慢、できなかったんだ・・・・・・」
涙が、にじみだす。
あたしがふるえだしたことに気づいて、シマばあちゃんが、ふり返った。
「あの子は、いい子だねえ。だけども。おそろしいライバルだよ」
シマばあちゃんの手が、なだめるように、あたしの髪をやさしくなでる。
「こんなにも簡単に、秋ちゃんのタガをはずしちゃうなんてねえ」
「・・・・・・タガ、はずれた。完全に」
ぐすっと鼻をすすって、言った。
「シマばあちゃん。あたし、自分が思ってたよりもずっと、はるかに、奈々実を好きだった」
そのことを、知った。
シマばあちゃんは、にっこり笑って、深くうなずいた。
そして、わくわくしたように声をうわずらせて、言った。
「嵐がくるねえ」
「・・・・・・あらし?」
「そうさね。嵐がくる。でも、秋ちゃんは、雨戸をしめちゃあいけないよ。どんなにひどい雷が鳴っても。どんなにひどい雨がふっても。ここにある、あんたの雨戸は、いつでも開けておかなきゃいけない」
あたしの心臓のあたりを、ドアをノックするようにこんこんっと叩いて。
シマばあちゃんはウインクした。
「それが、奈々実ちゃんに対する、礼儀じゃないか?」
ねえ、奈々実。
順序を間違えて、ごめんね。
びっくりしたよね。
こわかったよね。
あたしのタガは、はずれた。
もう元には戻せない。
それならばいっそ、はずしたままで。
ぜんぶを、さらけだして。
あたしは、これからあたしたちの間に訪れる嵐に。
立ち向かうよ。
あたしは、ぜんぶ、ほんとのことを言うよ。
奈々実が、どうして?
と、きけば。
奈々実が、好きだからだよ、と。
ただ、真っ直ぐに。
ひたすら。
伝えるよ。
たとえ、嵐のおわりに、この身がひきさかれそうなほどの孤独が待っていようとも。
あたしは、誓う。
自分のきもちに、嘘は、つかないって。