放課後の音楽室。

吹奏楽部の楽器部屋へ入ると、すぐ右の壁に、ホワイトボードがかけてある。

各パートの、その日の練習場所やスケジュールなどを書き込むものなんだけど。

今日は、でっかく、


17:30~ 第2音楽室

第一回 コンクール曲 合奏 !


とだけ、書かれてあった。

もちろん、山田先輩の文字だ。


ついに。

このときが、きてしまった。

一回目の合奏は、とにかく、わたしにとって、これからを左右するものになる。


のるかそるか。


舞台のどん帳が上がっていくときの、あの感覚に似ている。

しかも、指揮者はOBの先輩で、おととしからコンクールのときに振りにきてくれるひとらしいんだけれど。

わたしはまだ、一度もお会いしたことが、ない。


初対面のひととは、打ち解けるまでに人一倍時間がかかるわたしにとって。

それも、関門のひとつだった。


・・・・・・息、つまりそう。


心の中でぼそりと弱音をはく。

通学鞄の中からおやつの入った巾着をとりだすと、音楽室をとびだした。

秋の待つ、青いベンチ目指して。


秋に、元気と勇気をもらおう。


ときどき。

秋が、うらやましいと思うことが、ある。


秋は、いつだって、どんなときだって、凛としていて。

強いおんなの子っていう、印象がある。

いつ見ても変わらない、クールな表情が、余計そう思わせるのかもしれない。

秋が、涙を落すところなんて、想像もつかない。

飛んで。

どこまでも高く、秋は、飛べるから。

どんなに高いところにあるものでも、秋なら、手がとどいて。


秋には、手に入らないものなんて、ないのかもしれない。



「高殿さん」



体育館前に一番近い校舎の出口を出たところで、背後から声をかけられた。

どこかできいたことのあるその声に。

じゅうぶんすぎる、嫌な予感がした。


ゆっくりと、振り返る。


声でしか知らない、そのおんなの子は。

肩につくかつかないかくらいの、外国のおんなの子みたいな、ふわふわのくるんくるんの、髪をしていて。

背は、わたしよりも低くて。

肌は、ほんのりとしたもも色で。


『かわいいおんなの子』以外の、何者でもなく。


子ねこみたいな目で、わたしを、まっすぐに見ていた。







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