・・・・・・まだ、肩のあたりがほてってるような気がする。

湯船に鼻の下までつかりながら、今日の部活前のことを思い出していた。

どうして、あんなことするかなあ・・・・・・
山田先輩。

あの後はひとりっきりで、ひたすら黙々と基礎練習をした。
誰も、こないところで。
外にある、非常階段のおどり場で。
そこからは、体育館の中の音が、とてもよくきこえた。

時々手を止めて。
耳をすませて。
きこえてくる声の中に、秋を探した。

でも、わからなかった。


わたし、秋の声、わかんなかったんだなあ。
好きなくせに。


口から少しずつ息をはいて、湯船の中で、ぶくぶくと、あぶくをたたせる。


・・・・・・あぶくみたいな、ものなのかな。
わたしと、秋の関係は。


ブー、 ブー、 ブー、


脱衣所に置いてある携帯が、鳴ったような気がした。
マナーモードにしてあったから、振動音。

湯船の中で色んなことを考え過ぎて、ゆでダコになりかけていたわたしは、携帯が鳴ってくれたおかげで、真っ赤にゆであがらなくてすんだ。
少しよろめきながら、湯船から上がる。

からだをバスタオルでふきながら、わたしは携帯を手に取った。

メールの受信箱をひらく。

そして、時が、止まる。

わたしは結局、真っ赤になった。
秋と、携帯の番号とメールアドレスを交換したのは、つい最近のことで。
でも、秋からのメールを受信したのは、これが初めてだった。

ものすごく、うれしい・・・・・・



>初メールだね。
奈々実、今何してるの?
あたし、多分今、奈々実んちの近所にいるよ。
くじら公園ってところ。
奈々実の顔が見たいなあと思って。



泣きそうになる。
会いたい・・・・・・!


夜の八時だった。
まだ、晩ご飯も食べてなかったけれど。
そんなことよりも、今わたしの中では、秋、だから。
髪も乾かさないで。
急いで、服を着て。
台所のお母さんに、行き先だけ言って。

自転車の鍵ひっつかんで、家をとびだした。


五月の風が、わたしの濡れたままの髪を、なでていく。
風邪、ひいちゃうかもって、思った。
でも、ひいてもいいんだ。
今、秋に会いたいから。
髪なんて、乾かしてる場合じゃ、ない。


わたしが、また、青いベンチへ行かなかったのに・・・・・・


何かがあるたびに、閉ざしてしまうのは、わたしの方だ。
こんなによわ虫じゃ、秋に迷惑ばかりかけてしまう。

涙目になりながら、空を見上げた。
夜空には、満月が浮かんでいる。

ひと粒だけ涙をこぼすと、わたしは自転車のペダルをこぐ速度を上げた。

くじら公園まで、あと少し。



それまで、わたしの中では『わたし』が、常に優先順位のトップだった。

でも、今は、違う。

わたしよりも大事だと。
そう思えるひとが、いる。

そしてそれが、
秋なんだって、ことに。


胸が、ふるえた。






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