くるしくて、悲しくて、つらい日々がつづくと、
いつも夢に、アミちゃんが出てくる。
アミちゃんは、いつまでたっても小学2年生の姿のままで。
でも、出てくるたびに、はいているスカートの色は、ちがう。
わたしは、今現在の姿で、夢の中で、泣いてる。
さんかく座りをして。
悲しくて、悲しくて。
何も考えるのが嫌で。
ただ、ひたすら泣いてる。
ぽんっと、頭の上に、小さなものがのっかって。
わたしは不思議に思って、顔をあげる。
すると、そこには、アミちゃんがいる。
アミちゃんの小さな手が、わたしの頭にのっかってる。
『ナナちゃん、どうして泣いてるの?また、おなか、痛いの?』
アミちゃんは、その小さな手で、わたしの頭をなでつづける。
「ちがうよ、アミちゃん。おなかが痛いんじゃないの。胸が、痛いんだよ・・・・・・」
わたしが答えると、アミちゃんは首をかしげた。
アミちゃんの長くてくるんっとカールしたまつげが、ふるふると揺れる。
『むねが、痛いの?どうして?病気にでもなっちゃったの?お医者さんにはみてもらったの?』
病気・・・・・・か。
そうなのかなあ。
そうかもしれない。
気がつけば、いつも、秋のことを考えてる。
はちみつサンドイッチを食べる、秋の横顔。
くちびるの端っこに少しついてしまったはちみつを、おやゆびでぬぐう。
それを舌でぺろっとなめる秋を見るのが、好きで。
なめたあと、秋はわたしの方を向いて、いたずらっぽく笑う。
その笑顔につられて、わたしも笑った。
わたしは、秋が好きだ。
誰に、何と言われようとも。
どうしたって、このきもちは、なくならない。
けれど・・・・・・
―――ごめんね
秋の声が、耳の奥でこだまする。
まるで、自分が言われたような感覚におちいる。
「ねえ、アミちゃん。わたしね、今ね、好きなひとが、いるの」
途端に、アミちゃんのほっぺが、赤く染まる。
『え!ナナちゃん、ほんと?好きなひと・・・・・・かあ。何だか、すてき』
うっとりとわたしを見つめるアミちゃんは、だけど、思いだしたようにたずねてきた。
『でも、好きなひとがいるのって、すごく楽しくて、わくわくして、きゃーっ!ってなるもんでしょ?なのに、何でナナちゃん、泣いてるの?』
「・・・・・・え?」
突然。
アミちゃんの顔が、ゆらゆらと、激しく揺れた。
アミちゃんの、不思議そうにわたしを見つめる顔が、薄く、透明になっていく。
「アミちゃん、待って!まだ行かないで!あのね、わたしね・・・・・・」
「・・・・・・み、奈々実!起きろっ!ってば!」
机の上に右のほっぺをくっつけて寝ていたわたしは、誰かの大声で目を覚ました。
子守唄のように解説をする先生の世界史の授業は、とっくに終わっている。
「むうー・・・・・・ねむーい」
何とか重い頭を机から離すと、わたしは声の主に抗議の目を向けた。
頭がふわんふわんしてる。
「そんだけ爆睡してて、まだ眠いのかね」
起こし主でありクラスメイトの香奈ちゃんが、ねぼけまなこのわたしを、腕組みしながら見下ろして言った。
そして、教室の入り口を、指さす。
「さっきから、だいぶ待たせちゃってるんだけど」
「えー、何・・・・・・が・・・・・・・・・」
むにゃむにゃと。
まだ半分夢の世界から抜け出せていないまま、香奈ちゃんの指さす方向を、見つめた。
一瞬で、目が覚める。
「めずらしいね、7組の子だって。奈々実のともだちなんでしょ?」
勢いよく立ち上がったせいで、椅子ががたんっと後ろに倒れる。
でも、そんなこと気にもしないで、わたしはかけだしていた。
入り口の柱によりかかって難しい顔をしていた秋は、向かってくるわたしに気づくと、顔をほころばせて、言った。
「ひさしぶり」
わたしが、青いベンチへ行かなくなって、一週間とちょっとが、過ぎていた。