連続テレビ小説 オードリー 再放送 ⑱
雀蓮尼の庵
椿の元、髭蓄えし文士あり。かの筆より生まれいずる連らなりし物語
の遥か彼方に、世を恨み捨てたる無頼の徒あり。
太秦の野に、新しき若竹の萌芽が見ゆる。
若竹とは・・・
(社長、このお告げは前にも聞いたことが・・・やっぱりですよ、昭和
39年4月、葉隠仙鋭の中内先生・・・)
カァ~~! 仏の声に耳を傾けない者は、出ていきなされ。
申し訳ございません。今日、大京映画があるのは、雀蓮様のお蔭ぞ。
恩知らずな。
もうよい。
巻物のごとき長い絵で答えを得るべし。複数の短き絵は、排除すべし。
では、2本立てをやめて、大作を作れとの仰せでございますか。
太き幹の一本は、銀幕に新しき光を与えてくれよう。
主役はやはり幸太郎で。
嵐山が深き緑に染まる頃、勝負を賭けよ。
「御意」
世を恨み、捨てたる無頼の徒? また脇役やなぁ~。今、股旅物を
書いとるんやが、一家の内紛で一人はぐれていく”ムササビの銀次郎”
ちゅう若い衆がおるんやが、たぶんそいつのことやろう。
「先生、タイトルはずばり『無頼人』で」
「わかった、銀次郎主役に書き直すわ。最近葉隠仙鋭、全然売れへん
のや。これで又、一儲けしよう。」「よろしゅうお願い致します。」
「尼僧の占いは当たるからなぁ。」
「脚本作りもありますので、先生、お原稿のご執筆を何とぞお急ぎ
頂きたく・・・」
「これはいい話や。これでここのツケも払えるかなぁ。貯金もせな
あかんしなぁ。おお、ペンが走っとるで。」
「さっさと書いて頂かなければ、嵐山が紅葉になってしまいます」
関川秘書、廊下で愛子に出会う。
「明日から本書きの部屋を缶詰にする。急ぎの仕事や。頼むで。」
「承知致しました。」
滝乃は黒田社長に毎日疲れ果てて帰宅する美月のことを訊こうとする
が、「誰のことや。末端の大部屋女優の名前など、いちいち覚えられ
へん」
「お嬢様のご様子は、この関川が逐一お知らせ致しますので」
「よろしくお願い致します。」
「何やの、あれ。黒田はんを信じて美月ちゃんを預けたのに、、。
こうなったら関川さんだけが頼りやな。愛子さん、お願いね。」
男部屋では、晋八が自分の店のおにぎりを売っている。
追加のおにぎりは、「”飛び降り”があるから」「幹先生のスタントが
あるから」おなかいっぱいにはなれないということで、売れない。
トラさんが、手当(飛び降り手当¥5,000、はまり手当\3,000、落馬
手当\2,000)の付くスタントマンになれるよう練習しないかとジョー
を誘ったが、「俺はお前たちのように、斬られ役には甘んじない」と
のつれない返事。「カッコ付けやがって、かませ犬のジョ―が。斜陽
化しているこのご時世に、主役とれると思ってんのか」と腹を立てる。
晋八は、ジョーがまだ今後の活動を諦めていないことがわかって、ほ
っとする。
大部屋女優の女部屋では
美月、ブーブークッションの嫌がらせを受けたり、固定された缶ジュー
スを引き剝がそうとして、自分の衣裳に掛けてしまう。美月が衣裳部屋
へ走っていった隙に、椿屋のお嬢のお弁当は?と興味津々の先輩たちに
美月のお弁当を開けられてしまった。あまりの豪華さに、声も出ない
” もみじ ” たち。
もみじのお弁当 美月のお弁当
衣裳のマロさん
「撮影所にはな、神様がおるねん。活動の神さんや。撮影所に来た新人を
神様が試すんや。根性の曲がったヤツ使うてな。どんな辛いことがあっ
ても、活動屋としてやっていけるかどうか。」
「あの~、神様はいつまで私を試すんでしょうか。」「さぁな」
「いつ頃までか判れば、何があっても辛抱できるというか、我慢
できるというか。こんなこと言うたら、神様に怒られるやろか。」
「それはあんた次第や。衣裳の染みは、水で丹念に叩いて落とすんや。
こうやって叩いていると、だんだんシミが消えていくけどな、人の
心に浸み込んだ染みは、二度と取れへん。」
衣裳のマロさんは、見た目より優しい人やった。けど、言うてることは
パパ以上に判りにくかった。
その日の撮影が終わり、美月が女部屋の後片づけなどしていると、二階
堂樹里が忘れ物をしたと言って、戻ってきた。
掃除なんか適当でいい。苛められるときには苛められるのだから。
これから私の彼の幸太郎さんと、夜桜を見に行くので待ち合わせをして
いるの。今、京都の桜は満開だけど、来年の今頃は、私が満開。満開の
私の足元には、大っ嫌いなこの大部屋女優連中の死体が埋まっている。
もうすぐ大京映画をやめて、幸太郎さんと二人でプロダクションを作る
の、東京で。
「幹先生は、新婚ホヤホヤでは・・・」
「どうせ黒田社長にあてがわれた女房でしょ。社長のスパイみたいなもの、
可愛いはずないわ。」「吉岡さんのことは、私は桜の木の下に埋めたり
しないから、安心して。」
満開の桜が散っている帰り道、自転車に乗った晋八が追いついてきた。
今、幸太郎先生を自宅まで送ってきた帰りということだった。
「自宅って、東山寺?」
「何言うとるんや、上賀茂のご自宅やがな。立派なお屋敷やで~。
綺麗な奥さんでな。最近は、幹先生は仕事が終わったら自宅へ
直行や。新婚てええなぁ。あんなん見てたら、ワイも結婚しと
ぅなるわ。」
「?????」
樹里は、「幸太郎との待ち合わせは東山寺のしだれ桜の下」で、そ
こは一般の人は立ち入ることの出来ないところなのだと言っていた。
ということは、
晋八は太秦から上賀茂の自宅まで幸太郎を送り届け、また太秦へ帰
ってきたので、 太秦~上賀茂~太秦
樹里は、 太秦~東山寺へ。
幸太郎は撮影終了後はすぐに上賀茂の自宅に帰り、その後東山寺で
樹里と待ち合わせ?で、 太秦~上賀茂~東山寺?
樹里は、こうも言っていた。
「あの人の背中にはね、桜の花みたいな痣があるの・・・」
さっき聞いた話は何やったんだろう。
1か月後
美月が大京映画の大部屋女優となって、1か月が過ぎた。
大京ダイナマイツ7連勝。 「よっしゃー。大京 登り坂や。
『無頼人』も絶対ヒットする。頼むでぇ~幸太郎」
「配役表 一本立て」
大京も本気やで。これでコケたら、廃業や。
美月は、茶店の娘・お杉の役が付いた。
晋八は、自分のことのように「嬉しい~」と喜んでいる。もみじ
「ジョー、あんたどう思う?」「いいんじゃないか、お前よりはな。」
美月、「吉岡美月」として自分用に配布された台本を見ている。
樹里「おめでとう。幸太郎さんも喜んでいたわよ。この部屋で花にな
るのは、あなたと私だけ。後は根元の土になる人ばかり。頑張ろうね。」
大部屋女優達には、女部屋用として1冊だけ台本が配られた。
もみじ「みな、読んどきや~。茶店のお杉がケガでもしたら、誰で
もすぐに替われるようにな・・・」
椿屋では・・・
梓は、自分の部屋を勝ち取った。パパが妥協したからや。
しかし、隣の部屋でパパの打つタイプライターの音が気になって、梓
は受験勉強に集中できない。
役付きとなり台詞も貰えた美月は、ママに楽し気に報告している。
役付きになれば、台詞も貰えたり、カツラも私に合わせて作って貰
えるし、衣装も衣装さんが着させてくれるんや。
「台詞は?」「1コ。『逃げて~』って、一言。」「これ一コだけ?」
「相手は主役の銀次郎やで。幹幸太郎やで。凄いやろ?」
パパは、ラブシーンがあるのではないかと心配しているが、台詞一つ
だけの役だから大丈夫。
「何や、一言か。」「一言でも凄いこと。大京映画で、入ってすぐ役
付きになったのは雪坂文子以来なんだって。」
「雪坂文子?あの人と一緒に仕事するんか?」パパもだんだんと二人の
会話に乗ってきていると、梓が「静かにしてくれよ。」
愛子「ごめんなさい。」 「偉そうな声出しやがって。」
愛子が謝ること、あらへん。夫婦あっての子供。日本は、おかしい。最
近はどこの家も親が子供に気を使っている。親に迷惑かけなできん勉強
なんか、止めたらいいんや。医者になんか、ならんでいい。」
「建築家やったら、ええの?」「建築家にも、ならんでええ。」
「うるさい。」 「うるさいのは、お前じゃ。」
梓、腹立ちのあまり、家から出て行ってしまった。あれから、梓とパパ
の間はこんなになっていたんや。
「茶店のお杉、か。女郎とか、夜鷹はやらんといてほしいな~」
パパは相変わらず、梓の将来よりもオードリーの方が気掛かりなようだ
った。






































