大 浮 世 絵 展
~ 江戸東京博物館 ~
~ 1 ~
浮世絵の傑作、大集合。
あなたの見たい浮世絵に出会えます。
過去の世でもなくあの世でもなく、今現在の世の中の様々を描いた
絵画という意味での ” 浮世絵 ” 。
江戸の人々の暮らしや風俗が率直に表現された,海外からも含めた
作品約400点が並び、” 浮世絵 ” の全てが分かるようになっている。
国際浮世絵学会創立50周年記念、江戸東京博物館開館20周年記
念特別展ということであるから、学会と博物館、双方の総力を挙げて
開催の美術展なのだろう。
(3月11日から名古屋市立博物館、5月16日から山口県立美術館へ巡回)
時代を追って展示されている作品を辿っていくと・・・
Ⅰ 浮世絵前夜
Ⅱ 浮世絵のあけぼの
Ⅲ 錦絵の誕生
Ⅳ 浮世絵の黄金期
Ⅴ さらなる展開
Ⅵ 新たなるステージへ
Ⅰ 浮世絵前夜 では、いきなり見覚えのある名前が飛び込んできた。
あの、「洛中洛外図」(舟木本)で目にした岩佐又兵衛である。
1月30日に
岩佐又兵衛作関連で
出品されていたのは、
「江戸名所図屏風」
左隻 (出光美術館)
岩佐又兵衛の様式
を踏襲した絵師に
よって作成されたと
思われる屏風
( 岩佐又兵衛作とされてい
た時代もあったが、今で
は否定的で、様式を踏襲
した絵師の作とされている
ようだ)
Ⅰ 浮世絵前夜 の解説文によると
~「江戸名所図屏風」 (出光美術館) には、
上方からの人形浄瑠璃や若衆歌舞伎など
の興業、吉原の遊郭、湯屋と湯女(ゆな)、
浅草三社祭礼の様子などが描かれ、草創
期の城郭都市・江戸を表現している。
こうした近世初期風俗画の世界で、
豊頬長頤(ほうきょうちょうい)の面貌と胸を反ら
せた容姿の人物像を描いた絵師・ 岩佐又
兵衛(1578-1650) の存在を忘れてはなら
ないだろう。
近世初期風俗画に登場するモチーフ、最新
流行のファッション、新しい演劇の歌舞伎、
現世にある楽土の遊里などの描写に
「浮世」の思想がうかがえ、「浮世絵」成立へ
の先駆を為したと考えられる。 (図録「大浮世絵展」P25)
(舟木本)につられて「洛中洛外図」を確かめに駆けつけて知った岩佐又兵衛
の名であるが、浮世絵の先駆者と評価されていたことは、『 大浮世絵展 』 の
会場に入って初めて分かった。
確かに、国立博物館が大きなスクリーンまで使って大々的に展示しただけの
絵師だったのだ、と事前に鑑賞していたことがちょっと嬉しかった。
スケールの大きさとリアルで詳細な描写が同時に表現されていた図は、展示
されていた数ある「洛中洛外図」の中でもピカ一、群を抜いていた作品だった
から。ただし図録の中の 『 絵師解説 』 には取り上げられていないから、岩佐
又兵衛は、あくまで 近世初期風俗画を ” 浮世絵成立 ” に導いた絵師、という
ことでの紹介である。
ともあれ、
江戸時代初期の風俗図屏風が、” 浮世 ” を初めて絵画の題材として
取り込んだ!
ことは確かである。
Ⅱ 浮世絵のあけぼの になって、いよいよ最初の浮世絵師、菱川師宣の
登場である。
切手の図柄でもおなじみの
「見返り美人図」。展示期間は
1月28日(火)~2月16日(日)まで
の3週間。
この華やかな美人図はぜひとも拝見
したいもの、と展示されたのを確かめ
て見に行った。
大きさは、63.2×31.0
絹本着色(けんぽんちゃくしょく)という、日本画
の代表的技法で描かれており、掛け軸
に掛けられていた。
左足が前に出ているのに、右後に振り
返っている異例のポ-ズ。そのため
顔は真横から描く形になったが、ゆっ
たりした髪形(玉結び)、着物の菊と桜
の3段花模様、お洒落な帯(吉弥結び)
が際立つ事となった。 悠揚とした趣を
演出するのに成功している。
膝から下の微妙な動きを捉えた着衣の線も見逃せない。 (参考:「図録」作品解説)
モデルの女性は、江戸幕府から公認されていた吉原遊郭周辺の遊女であるらしい。
この時代のお洒落で最新のファッションは遊女たちから広がり、吉原遊郭は新しい文化の
発信地ともなっていた。
「見返り美人図」は肉筆画であるが、最新流行の風俗を描いた浮世絵は版画の形でも刊行
され始め、庶民でも身近な絵画として入手できるようになっていった。
版画は新興都市 ” 江戸 ” が生んだ新たなエネルギーでもあった。
師宣の生き生きとした女性像は、絵入り本の単なる挿絵でしかなかった浮世絵を、鑑賞に
耐えうる絵画作品にまで高め、絵画史上に画期的な新領域を開拓したということである。
さて、” 浮世絵 ” という言葉が使われ始め、師宣が生前から ” 浮世絵の
始祖 ” といわれるようになっていた約100年が過ぎた頃、浮世絵に技法
上の飛躍的進歩がもたらされることとなった。
~②~へ続く