銀座シネパトス ④
デビュー50周年記念 ともに歩んだ青春の一ページ
スクリーンで観る 舟木一夫と時代を彩ったヒロインたち
「 仲 間 た ち 」
昭和39年3月公開 日活作品
監督: 柳瀬 観
出演: 舟木一夫/松原智恵子/浜田光夫/藤竜也/松尾嘉代
高度経済成長期の京浜工業地帯川崎市を舞台に、懸命に生きる若者たちを描いた青春映画。
舟木は同郷の親友(浜田光夫)が一目惚れしたバスの車掌(松原智恵子)に密かに好意を寄せ
ている。 舟木一夫のヒット曲も満載の青春歌謡ドラマ。
(銀座シネパトス 「名画座通信第42号」より)
舟木さんの日活作品では「学園広場」に続いての2作目。
ご自分では「学芸会」だの、「人寄せパンダ」だのと舟木さんは照れ隠しに言われているけれど、
初々しさの中にはっきりと光る才能を、舟木さん映画を初めて担当する柳瀬監督は、見逃さな
かったようである。
柳瀬監督は、舟木さんの才能を大いに評価し、この後、「北国の街」や「高原のお嬢さん」などで、
舟木さん主演の映画を撮り、日活俳優:舟木一夫を育てて下さった。
「仲間たち」はもちろん舟木さんの映画なのであるが、 お話は松原智恵子さんと浜田光夫さんの
恋が中心の映画となる。
舟木さん、松原さん、浜田さんの3人に恋と友情が絡み、舟木さんは友情を優先させるという役。
舟木さんは割とあっさりと友情を優先させ、浜田さんと松原さんが恋人同士となる。
若者の爽やかさが身上の青春歌謡映画だから、もちろんここで修羅場にはならない。
川崎の工場地帯で、夜空に揺れる廃油を燃やす赤い炎が、公害の源というより明日への夢を開く
希望の灯りであり、まだ ”美しいもの” として見られていた頃である。
田舎から都会に出てきた舟木さんは中華料理店で働き、餃子がお得意。
同郷の浜田さんは、自分の運送店を持つことを夢見るトラック運転手。
松原さんは、今はもうない職業であるが、路線バスの車掌さん。
今ではこんな働き方は許されないのだろうが、睡眠時間さえ削っての超過勤務の連続で、
浜田さんはとうとう事故を起こしてしまう。
この勤務が終われば、夢にまで見た自分のトラックが手に入るという日に、である。
自暴自棄になってしまう浜田さん。
相手を思うあまり、気持ちがすれ違っていく松原さん。
舟木さんは、「君は僕の恋人じゃないんだから、僕の三歩前を歩きな」 と言って、歌で傷心の
松原さんを慰める。
挿入歌 『夜更けの街の物語』 が流れるシーンである。
そういえば「僕の目玉に雨が降る」という歌もあった。
舟木さんは”仕方ないや” と さほどの葛藤もなく友情を優先させたように思えたが、やっぱり
そんなことないよね。
諦めたとはいうものの、親友の、傷心の恋人を慰めて夜更けの街を歩くのは、複雑な心情に違い
ない。
それにしても、柳瀬監督は挿入歌の入れ方が本当にお上手だ。
監督ご自身も、この点はとても苦心されたようだが、ストーリーに自然に溶け込んで、全く無理
なく流れていく。
「仲間たち」の友情物語には、「もう一つの仲間の友情」が描かれている。
事故で働けなくなり、運送店をクビになりそうな浜田さんに、同僚の仲間たちが見舞い金を集め、
社長に交渉して現場ではなく事務所で働けるようになる話。
松原さんの仕事の先輩(松尾嘉代)が、母体保護のために車掌ではなく内勤で仕事が続けられる
よう、組合で交渉して認められる話。
本当は「仲間たち」の友情物語として帰結する話ではないのだが、日活の青春歌謡映画は東京
オリンピックの頃の社会背景を、巧みにバックボーンに取り入れる。
高度経済成長、集団就職、労働問題、、、「新潮45」 2月号、3月号で作家の久間十儀さんが
考察されている通りである。
この後、翌年の昭和40年に柳瀬監督で、初の舟木さん主演映画『北国の街』が撮影される。
舟木さんによれば、『北国の街』は「映画の主役として舟木が持つかどうかという勝負がかかって
いた」ということである。 (夕刊フジ連載「舟木一夫の青春賛歌」第36回)
ともかく、柳瀬監督は以後の舟木さん主演作において、舟木さんの魅力をスクリーンに最大限に
表現してファンを喜ばせよう、と考えて撮影して下さった。
この「仲間たち」で舟木さんとの出会いが
あった からこそである。
このとき、日活映画出演2回目の舟木さん
は、演技においては、浜田さんや松原さんに
お任せするのは当然であるが、日活で本当
にいい監督との出会いがあったことの幸運が
嬉しく思われる。
「仲間たち」
昭和38年11月発売
作詞:西沢 爽
作曲:遠藤 実