竹久夢二伊香保記念館
~ 舟木さんの抒情の世界② ~
夢二の「黒船屋」を展示するためにのみ作られた屋敷蔵の
和室。 花の生けられた床の間に、静かに淡い照明が当り、
濡れたような黒が目に飛び込んできた。
「ああ、これが『黒船屋』だ。これを見ずして竹久夢二は語れないだろ
う。しっかり拝見させていただこう。」
「黒 船 屋」
大正8年、竹久夢二36歳の作品
その頃、最愛の恋人彦乃は病を得て
順天堂病院に入院し、仲を引き裂かれて、
会うことも出来ない夢二は、本郷菊富士
ホテルで、辛い日々を過ごしていた。
その頃、知人からの求めに応じて制作した
のが「黒船屋」
実際のモデルはお葉であるが、この時夢二の
心を占めていたのは、病床の彦乃。
したがって、この女性はお葉であって、お葉で
はなく、彦乃が描かれているということだ。
「黒船屋」の箱に腰掛けた女性の華奢な肩に
前脚を乗せた、不自然なほどアンバランスな
大きさの黒猫。
小さな顔に描かれた女性は、これまた不自然
なほどの大きさの両手で、この大きな尻尾の
黒猫を、さも愛しそうにかき抱く。
館長さんの解説
「黒船屋」(もちろん実際には「港屋」のこと)の屋号が入った箱は、夢二と
彦乃の恋を表している。
だからこそ、その悲しい想い出の恋には黒で縁取りをし、立派な金具で
補強をして閉じ込めているのだ。
封印しなければならない彦乃との恋。 黒猫は夢二自身。
彦乃への想い、別離の苦しさに耐えねばならない切なさが、「黒船屋」の
画の中には詰まっている。
解説をしていただきながら、改めてまじまじとこの画を見る。
前脚を襟に掛けて、すっぽりと女性に抱かれ甘えている黒猫。
夢二さん、(必ずしも彦乃さんにかどうかわからないが)きっとこうして欲しかったのだろう。
竹久夢二の最高傑作と言われる「黒船屋」。
夢二さんが秘した想いの強さが、濡れたように描かれた黒猫と、小顔なのにはっきりと描かれた
眉、大きな瞳から伝わってくるようだった。
やはり、多くの人が心を捉えられるわけである。
他では伺えない館長さんの解説を聞かせていただいたので、ショップで著作を買い求めた
ら、記念に夢ニさんの詩を表紙裏に書いてくださった。
お好きな詩があれば書きますからどうぞ、といわれたのだが、とっさのことでタイトルが
言えなかった。 お任せします、ということで書いて下さったのが
” ね が い ”
おうちに屋根がなかったら
いつも月夜でうれしかろ
あの門番が死んだなら
あの柿とってたべよもの
世界に時計がなかったら
さみしい夜はこまいもの
「この詩はどの詩集に載っている詩でしょうか」と職員の方に訊ねると、詩集は不明だったが、
CDがあることを教えてくれた。
小椋佳さんも、夢二の詩に曲を付けていた・・これは聴かねばならない。
「 あ け く れ」
小椋佳さんの曲によるCD
歌唱:竹久 晋士
ナレーター: 八千草 薫
姓が同じなので、夢二さんに
連なるお身内の方が歌ってお
られるのだろう。
小椋佳さんそのものの、
まさしく小椋メロディの曲
素直な歌唱が、余計にデビ
ュー当時の小椋さんに似て
聴こえる。
この次に、こんな機会があっ
たなら、今度は
” や く そ く”
を書いていただこう。
「宵待草」のオルゴール
やはり、一応はこの曲のオルゴールを記念に、、。
ただ、オルゴール用に編曲されているのか、
”今宵は月も出ぬそうな~”のメロディが抜けているよう
な、、。
「宵待草」
~竹久夢二の郷愁~
1973年6月発売
舟木さん28歳の時の
LP
28歳といえば、舟木さん
は心身ともに苦しかった
時期。
そんなときに、
随分と意欲的な力作の
アルバム制作が行われ
ていたものだ。
情感溢れた美しい詩をたくさん書き、「夢二式美人」で繊細な女性美を
表現した「漂泊の画家」竹下夢二。
郷愁や憧れ、どこか惹きつけられる哀愁などの詩情を絵画で表現したのは夢二さん
だが、舟木さんはそれらを歌で表現する。
それが舟木一夫の抒情であり、誰も真似できない舟木さんの抒情の世界である。
舟木さんが表現してくれる抒情の世界に惹かれるあまりに、竹下夢二も、どこか
舟木さんを通してみる夢二さんになってしまう。
記念館から窓外を写す
雨に煙る、記念館入り口の庭、大正ロマンの森
喫茶室「港屋」あり、オルゴール演奏あり、別館「ぎやまん楼」(ガラス作品蒐集)
あり、伊香保温泉のすぐ下の豪華な館で、夢二さんの世界を随分楽しめた。
時間を気にせずゆっくり回ったつもりだが、でも、何だか全部は見て来なかったような
気がする。
舟木さんのコンサートでも、終わった後同じように、こんな気持ちになる。
あんなにたっぷり聴かせて頂いたのに、まだほんの少ししか聴いていないような気がして、
又次のコンサートに行きたくなる、、。
大好きな舟木さんの抒情の世界。
おりしも、銀座シネパトスで「夕笛」が始まる。
「絶唱」も「夕笛」も「初恋」も、”抒情歌の舟木一夫”の中心をなす曲である。
早速シネパトスへ急がねばなるまい。 さあ、銀座へ急ぐべし!