『女の子は泣いちゃいけないよ、なんでもじっと我慢しなけりゃ、、、』
母は私が泣きそうになると、いつもそう言ってたしなめた。
どうして、女の子は泣いちゃいけないのか、ときいたら、母はすまして答えた。
『泣いてると、ご飯の支度がおそくなるからさ』
大正8年は全国的な不況で、たくさんの銀行がつぶれた。父と母が食べるものから着るものまでつめて、やっと貯めた小金も一夜のうちになくなってしまった。
あのときも、父は座敷でじっとうずくまって泣いていたけれど、母は台所でせっせと煮物をしていた。
朝から何も口にしない父に、何か食べてもらおうと一生けんめいだった。
涙があふれそうになっていたけれど
母は泣かなかった。

沢村貞子