小説:マンション屋さん 11
冬になり、各支店とも、在庫強化月間となった。
物件によっては、2週間で即日完売するものもあれば、半年でも半分以上残っているものもある。
小旗の部では、千葉の船橋エリアの物件が担当となった。
駅12分、総戸数120戸と規模感はあったが、発売半年からまだ半分以上残っている。
原因は、やはり価格の高さが災いして、広さがなく3000万円台はすぐ売れていたが、4000万円台、5000万円台のお客様がいない。
公庫3.35% 銀行2.375%でも月々14万円台はやはり厳しいの一言。
かといって、値引きなどほとんど皆無であるから、
マンパワーの全てで売らなくてはいけない。
小旗を含めた2部は半径1kmを30ブロックに分けて、完全な
ローラー作戦での「飛び込み営業」となった。
半年もたてば、物件の認知はされているので、小旗が飛び込むと
「あ、あそこのエレファントマンションでしょ?知ってるわよ。高いじゃない。」
と、奥様に一蹴される始末。
どこへ行っても、そのスパライルで小旗のやる気は徐々に無くなっていった。
1週間が経ち、エリアもほとんど潰し終わり、留守宅に再度アタックすべく21時ぐらいから飛び込み始めると
3件目で明かりがついているマンションがあった。換気扇からも夕食の匂いがする。
「カレーか。」
小旗は直感で子供がいるファミリー世帯と予測してみた。
「時間的に考えても、そんなに、小さい子供はいそうにないな。」
ある程度、頭の中でシュミレーションを開始して、ドアをノックした
「夜分に申し訳ありません。エレファントマンションの小旗と申します。最近ご住宅のご検討いかがでしょうか?」
夜の来訪をことさらに、恐縮した表情で小旗が挨拶すると
40代中盤の主人が出てきた。
「まあ、検討していないこともないけど、あんたも夜遅くまで大変だね。」
「いえ、実は、すぐお近くのエレファントマンションなんですがご存知でしたか?」
「知っているけど、中々時間がなくてね見たいとは思っていたんだけどね。」
!!
来た!!
釣りの当たりが来たように、小旗の全身が震えた
「それでしたら、是非一度、週末にご覧になってみませんか?このチラシをお持ちいただければ、プレゼントも用意しておきますので。」
「そうかい、じゃあ土曜日辺り行くかもしれないから。」
「ありがとうございます。当日、ご案内に支障があるといけないので、14時ぐらいでお待ちしていてもよろしいでしょうか?」
「まあ、約束は出来ないけど、たぶん大丈夫だよ。」
「ありがとうございます。是非、お待ちしております。」
里中と名乗る男は、チラシを受け取り、食事の途中なのでと、早々に話を切り上げドアを閉めた。
小旗は、はやる気持ちを抑えて、足早に課長に報告するため、モデルルームへと戻った。
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土曜日、予定とおり、里中親子は来場した。もちろん、この時間に来るかどうかは、確信がなかったので、前日同じ時間に再アタックをして、来場を確認していた。
交渉が始まり、意外にスムーズな流れとなる。
広さ、価格ともさほど苦にならなく資金内容も問題ない。
トントン拍子でいき、申込みの段階となった。
「里中さん、他にご質問ありますか?」
「ま、特にないけど、駐車場はどうなるの?」
「お引渡のときに、希望者をつのり抽選して決めます。里中さんお車は?」
「まあ、ちょっとサイズがあるワンボックスだからね。大丈夫かな?」
「抽選なので、確実とはいえませんが、止められないことはないと思います。」
「ま、その辺はしょうがないね。お願いしますよ。」
小旗は、里中が車を重要視していない様子であったので、そのまま契約へと向かっていった。
在庫強化月間での自力契約評価は高く、プレミアムの成績がつき、通常の1.5倍の売り上げが加算され、小旗はその月、上位の営業順位となった。
順調なる営業成績で、年が明けた3ヵ月後、船橋の物件の引渡が近づいてきたが、小旗は埼玉で新たな物件営業をこなしていた。
通常、契約後はローンから引渡までは各部署に移るので、小旗がお客様と会うことはない。
その分、会社としては、より一層他のお客様の契約をあげるよう営業社員を他物件の販売を強化するのだが・・。
ここで、立った一言の過ちが、大きな問題となって小旗に降りかかってきた。
業務課から小旗に呼び出しが入り、半信半疑で会社に戻ると
「小旗まずいぞ。」
業務課長の中村がボソっと話し始めた。
次号に続く・・・・。