小説:マンション屋さん | マンション屋さんの溜め息

小説:マンション屋さん

この物語は事実に基づいたフィクションであり、実際の団体会社等とは関係ありません。



第1章 業界へ


真新しい白ワイシャツに、ぎこちなくスーツを着こなしている小旗恭介は、マンション業界第1位の「株式会社神京」の本社ビルを見上げていた。


新入社員は全員営業からスタートという社風に魅力を感じ、完全実力主義に共感をもった小旗は、業界の知識もないまま入社し1ヶ月の研修を終えて、心が踊っていた。


就職氷河期の昨今、学閥主義の会社はまだまだあり、表面上は、個性重視、平等な面接といっているが、いざ書類選考になると、ほとんどが不合格で、たまに1次面接を通っても、一流大学との席順や面接態度など

あからさまの差別があった。

ひどかったのは、ある商社での面接で、東大用席、早稲田・慶応用席、それ以下用席と分かれていて

自分の時は、面接時間はたったの3分。終わった後に、人事社員より

「ジュースは飲み放題だから、ゆっくりどうぞ」と言われたのは、屈辱だった。


最終的に不動産業界へ絞りSPI試験を熟読し、苦悩しながら4次面接までいき、内定合格の電話を自宅で受けた時には、隣で母親が泣いて喜んでいたのがより一層、小旗の気持ちを奮い立ててせていた。


社員通用口より、3階の営業部のフロアへ着くと、空気がピリッと痛く感じる気がした。

営業独特の緊張した雰囲気である。


「おはようございます。」


部屋の雰囲気で気合を入れて挨拶した。


が、それに対しての返答はまるでない。


”なんか、まずったかな・・・・。”


戸惑いつつも、辺りを見渡すとすでに同期の社員が席に座っていた。

研修中は、まったく面識がなかったので見落としていたが、よく見れば、飾り棚の人形のように机の置物になってて、「緊張」の二文字が体から表されていた。


他の同期社員は既に、電話をかけているものもいた。


小旗も自分の課の席がわかると、まずは課長に向かって歩き出した。


営業部は2部構成になっいて、1課~7課の6課体制。合計12課が存在する。

各課には課長、係長、主任、社員と4~5名が割り当てられるので、本社の営業部は約60名の社員が存在するわけだが実力主義の㈱神京は、社員同士骨肉の争いが繰り出されるのだ。


課長席に着き


「おはようございます。小旗です。今日からよろしくお願いします。」


と挨拶をすると、いやにリラックスした雰囲気で



「おー、来たか、俺は高山だよろしくな。」


と親しみのある、返答があった。


”思ったほど、怖そうじゃないな。”


やや、安堵しかけたのもつかの間


「じゃあ、早速、現場いってくれ。」


??


研修では、接客のしかたをロールプレイングで何度も社員同士やっていたが、いきなり現場とは・・・。


戸惑いつつ小旗は、東京のベッドタウンとして有名な、多摩エリア、「南大沢」へ向かった。