横になって肋骨の数を数え、印を付ける。
そのころには、もう、どうでもよくなっていた。電車の中で死にかけたこと。自転車を診療所に放置したままなこと。明日からの自分。これから開けられる穴(涙)。
局所麻酔のことはよく知っている。子供の頃、顎が細いから永久歯を3本抜いたからだ。麻酔の注射は痛くて、何かしている感触はあるが、痛みはない。
その経験則から最初の麻酔の注射のみ我慢すれば良かった。
実際に打たれた麻酔は痛かった。刺した瞬間ではなく、薬品を注入するときに広がる妙な痺れと圧力。
取るに足らない痛さ。
俺の中で処置は終わっていた。これが抜歯だったのなら。
微妙な感触のみで痛さは感じない。しかし、途中から狂ったように、胴を押さえつけた。医師、看護士が口を揃えて言う。
「少し押されますね~」
違う!押さえてんのはテメエだろうが!自分はあたかも関係ないです、みたいな言い方しやがって。しかも、全体押さえるって麻酔効いてないとこがほとんどだれうが!
そう、胴体に管を差し込むために、管を持っている手とそれに添えている手に思いっきり体重を乗せているのだ。子供の頃、ふざけて遊んだ心臓マッサージのモノマネを、大人がガチで健康な人にやるというようなイメージだろうか。
傷口が痛いのではなく、肋骨が折れそうな痛み。思い出しただけで、左半身が痺れる。
歯を食い縛り、何度も行なわれるその荒療治に耐えるしかなかった。
ようやく終わって医師が言った一言は、
「痛かったですか?」
テメェ、殺す。今、俺に管が付いていなければ、確実に殺してやる。見てたら分かるだろうが、痛そうなのは。
殺意を覚えつつ、疲れ切った俺の左肺には、シャワーホースほどの管が付けられていたのだった。