神田の素敵なお店 神田ラガン訪問(3)
さて、今回は、「神田ラガン」オーナーのポリシーをお伝えいたします。
それは「残ること」。
残したいものは、自分たちばかりではなく、お客様の感性であったり、仕事をしていただく職人であったり、生地やボタン等の材料を作る生産者などやその他、神田ラガンを取り巻くステークホルダー全体です。
残るためには自分が納得できる商品の提供がまず初めにありきです。そこで、一番大切なものは生地と縫製工場ということで、商いを始めるにあたり、開拓のために20か所ほどを工場を訪ねましたが、その時点から数年後には8割の工場は閉鎖してしまいました。
アパレルの業界の冷え込みにより末端が切られ、生産工場が海外に移転して、日本の生産に携わる方々が追いつめられてゆくのを見て、
自分が残らなければこの方々が残ることができない、
けれどもそのために奇抜な商いで地域性を無視することは望まず、調和しなければいけない、
10年残る服を売りたいけれども、今日も売れなければいけない
などの葛藤もありました。
そのために、まちに馴染むための期間を経たうえで、
・うちのものはうちでしか扱っていないという希少性
・HPを媒介とした商品の紹介を手掛け、商品に興味を持った方が実際に神田で試着ができるようにする
といった販売の仕方とともに、どのようなお客様でも日常にお買い物ついでに自転車で立ち寄ることのできる、井戸端会議的場所になりたいとのお考えです。
というのは、ご自身が直接このお店の商品のユーザーとならないお客様であったとしても、、良い商品を目にしたなら、口コミでこれらの商品を求めてくださる方に伝えてくださることがあります。
いろいろな経路で商品を知っていただく機会が増えれば、安定した継続的な売り上げが実現できます。
利益追求型ではないけれども、商いを続けるためには必要な収益を上げ、ステークホルダーが良好に維持継続ができるよう、努めてゆきたいとのお考えと理解しました。
これは、コミュニティビジネスの要素を多分に含み、同時に雇用CSRの実現とも考えられます。
フェアトレードという言葉をききます。これは、「途上国の生産者に公正な賃金や労働条件を保証した価格で商品を購入すること(大辞泉)」ですが、国内にもフェアトレード的関係構築が必要な場面は多々あると思います。
第一次産業の生産品はもちろんですが、前述しました、生地の生産者、ボタンを作る方、縫製工場など、それぞれの生活が成り立たなければ日本での調達はできなくなり、つまりは日本人の感性に依拠する商品はできなくなるということになります。
そして、そのような状況は注文紳士服業界にも同様です。
旧来、オーダーの紳士服の職人は奉公する間お小遣い程度の給金しかもらわず、お礼奉公をしたのちにようやく一人立ちとなったそうです。そのような技術者も、そもそも質の違う既製服価格に押されて手間賃を削減され、手に職として生活してゆけるだけの収入を得ることができずに仕事替えをしてしまい、職人の子どもが後継者になることはほとんどなく、技術の承継も途絶えてしまいます。
また、注文紳士服の仕立て職人の高齢化率はもしかしたら農業就業者の高齢化率に劣らないのではないだろうかと危惧しています。
ゆくゆく、日本人の感性と高度な技術を持つ職人に、国産の注文紳士服を作ってもらえることが出来なくなる日が来るのではないでしょうか。
若い職人さんの卵を見かけると、「将来、あなたが天皇の洋服を作る人になれるかもしれないね!」と、期待を込めて述べたりしております。
文責 法政大学大学院 政策創造研究科 修士課程2年 中野