頑張れアブラゼミ! | 入来院重宏のオフィシャルブログ

頑張れアブラゼミ!

子供時代(とくに小学生低学年)に東京の多摩地区に住んでいた人に聞きたい。
「君の子供時代の夏に見た蝉は何蝉ですか」と

僕は1961年生まれで、小学校低学年時代は東京都日野市の近くに浅川が流れる住宅街で育った。
僕がこの時代に見た蝉で圧倒的に多かったのがアブラゼミで残りのほとんどがツクツクボウシだった。
アブラゼミとツクツクボウシの比は4対1くらいだったという印象だ。
あとひと夏に一度見るか見ないかという程度の珍しい蝉がニイニイゼミで、鳴き声は結構耳にするけど稀にしか見ることができない蝉がヒグラシだった。

アブラゼミは、羽が茶色で身体も黒っぽくて「美しくない」ので、少年入来院君は子供心にもこのアブラゼミが好きになれなかった。
また、やたらと多くて希少価値を全く感じさせなかったことも、アブラゼミを好きになれなかった理由と思う。
少年入来院君は、図鑑でしか見たことのないクマゼミとかミンミンゼミのように大型で羽が透明な蝉を一度でいいから自分の手で捕まえてみたかった。
ある日の午後、少年入来院君は蝉の鳴き声でお昼寝から目を覚ました。何気なく蝉の鳴き声を聞いていると、どうも「ミーンミーン」と聞こえてくる。
少年入来院君は「ミンミンゼミだっ」と思わず飛び起きて、興奮したまま虫取り網を持って玄関を飛び出した。
鳴き声がすると思われる木の根元まで走って行って木の上方を見上げるがいつの間にか鳴き声も止み、辺りを一所懸命に探すけど、どこにもミンミンゼミは見当たらない。
長い夏休みの間にはこんな午後がいくたびかあった。

月日は「あっと」流れて40年程経った2007年の夏の夜、中年入来院(僕)は事務所の近くで蝉の幼虫を発見した。事務所の裏が公園なのだが、きっとそこから這い出してきたのだろう。羽化しようと歩道の脇に立つ木を目指していたようだ。人通りは少ないとはいえ誰かに踏みつぶされないとも限らない。僕はこの羽化直前の蝉の幼虫をヒョイとつまんで事務所に持って帰ると、ベランダにある高さ約2mのユッカの木の根元に置いた。
どのくらいの時間放っておいたか忘れたが、しばらくして見に行くとユッカの木の高さ1.5mくらいの高さでちょうど羽化を始めている最中だった。
しばらく仕事を中断して羽化の様子を見ていると、どうやらこの蝉は子供時代に捕まえるどころか生きている姿を見たことすらなかったミンミンゼミのようだ。僕はてっきりアブラゼミだとばかり思っていたので驚き、興奮して写真を撮ったりしてネットで確認するとやっぱりミンミンゼミだった。

さて、今年も暑い夏の真っ最中だけど、お盆休みが始まったあたりからあちこちと蝉の死骸を見かけるようになった。
子供の頃はアブラゼミの死骸ばかり目にしていたけど、最近では確かにミンミンゼミの死骸も見かけるようになった。
4年前に実際にミンミンゼミの羽化を目の当たりしたこともあり、気になったのでウィキペディアを見てみると、実際に東京都心部ではミンミンゼミが増えている(アブラゼミが減っている)ことが分かった。
「アブラゼミは幼虫・成虫とも、クマゼミやミンミンゼミと比べると湿度のやや高い環境を好むという仮説がある。このため、都市化の進んだ地域ではヒートアイランド現象による乾燥化によってアブラゼミにとっては非常に生息しにくい環境となっており、乾燥に強い種類のセミが優勢となっている。東京都心部ではミンミンゼミに、大阪市などの西日本ではクマゼミにほぼ完全に置き換わっている。」(ウィキペディア)
また、「セミの多くは透明の翅をもつが、アブラゼミの翅は前後とも不透明の褐色をしていて、世界でも珍しい翅全体が不透明のセミである。」(ウィキペディア)
実はアブラゼミは蝉の仲間のうちでは珍しい種だったのだね。知りませんでした。
アブラゼミが減少しているというけれど、僕ら大人が子供時代にアブラゼミ君たちを大事にしてこなかったつけがまわってきたのかもしれないね。
ごめんね。そして、頑張れアブラゼミ!