千石山(福井県)

 令和6年5月26日(日)曇

 

若狭の山は、常に登山口にお寺がある。名水百選の瓜割の滝は、天徳寺から始まる。その背後に実に端正に、伸びやかにスカイラインを引いているのが千石山である。
賑わいを抜けるとそこは涼感たっぷりの世界だった。獣除けの柵を通り林道を進む。滝の源辺りからシダの多い尾根に取りつく。急登に次ぐ急登、ロープに捕まり懸命に高度を稼ぐ。時折、若狭町の一角が視界に入る。次第に緩やかな尾根となり、雑木林と植林地の対比が均衡を保っていた。ここは登山道ではなくて、植林地への作業道であるらしい。3時間半でようやく分岐に達した。
ハミングしたくなるような稜線漫歩の世界が展開する。山頂は点在する樹木が憩いの場を供してくれる。再び分岐に移動し、又しても急坂に辟易しながら、落ち葉が堆積して滑落しそうな心細い道を励ましあいながら慎重に下った。小鹿が木の間にうずくまっており、ケガをしているようだった。時折、熊の糞も見られ、人と野生動物との共存が里山の宿命でもあろう。よもんだいらから熊野神社に降りる筈が、体育館の方に出てしまった。タクシーも来てくれず天徳寺まで歩くかと思案していたら、若い女性の方のご厚意で車で送っていただいた。これも旅先での一期一会である。若狭の自然や歴史、人の情けも享受しながら今回もまた里山歩きの難解さに直面したのであった。(辻)