山行報告

  舟伏山(1,040m)岐阜県山県市・本巣市  ふなぶせやま

         令和4年4月9日(土)晴れ 単独行

 前に登った西上州の荒船山が巨大空母なら、こちらはノアの方舟を大型化した庶民を運ぶ建造船である。野火に掛かる直前の狐色のような山肌が、大きく空を覆っていた。林道の奥に見えたこの山のスケールの大きさを物語っている。

 駐車場には既に30台位停まっていた。西濃エリアでは人気の高さが窺える。

いきなりの急登が続く。伐採跡の滑りやすい山の斜面を緊張感を持って渡る。この暑さはなんだと言いたい今日の高温に、体が直ぐには慣れないのである。稜線に入る。ウグイスが恋の季節を迎えて、発声練習に余念がない。1時間で桜峠に出た。ミツマタやキブシの花が楚々と咲いている。ここからが今日のハイライト、滑落しやすい急な斜面のトラバースとなった。ここで地元の76歳の男性に会った。この山は15年振りだそうだが、見所をいろいろ教えていただいた。ここのカタクリは、葉も花も茎も色が濃いのが特徴だそうだ。咲き始めではあるが、確かに色が濃い。谷筋に石が多いなあと見ていたら、とんでもない事が起きた。数10個の石が加速度を付けて上から奈落の底へと吸い込まれていった。多分、誰かが浮石を踏んで落石を起こしたようだ。それ位に、今日は登山者が多い。肝を冷やした後のご褒美は、希少なイワザクラとのご対面だった。何という可憐さ、崖の岩の間にしっかりと根を下ろしている。サクラソウ科の花として、その美しさを特筆したい。

 ようやく痛い右足を引きづりながら、山頂の広場に出た。岐阜市方面は霞んでいたが、里山が幾重にも春爛漫の様相を伝えてくれる。背後は荒島岳らしいいまだ雪山讃歌の県境の山々が峰を連ねる。小舟伏山頂への道すがら、山菜の食卓を飾るヤブレガサの密生が目立った。バイケイソウもここの主だとアピールしてくる。僅かに残る残雪が白い幾何学模様を演出していた。下りではモミが見られた。クリスマスツリーの様な樹形をしていて微笑ましい。阿弥陀仏がある祠にはドラエモンも並んでおり、思わず笑ってしまった。険しい小舟伏沢

の源頭を横切り、あいの森へと下る。植林の多い山だが、雑木林との住み分けがいい。登山口に戻ってきた。朝の東海ラジオのニュースでは、薄墨桜が満開だと言う。夕方になれば混雑を避けられるかなと思い、西に向った。

 期待は裏切られた。大垣方面からの車が数珠つなぎで果てしなく続いていた。やむを得ず距離は遠いが、市役所分庁舎に停め歩いた。今から8年前の5月、Oさん、Nさんと3人で大白木山に向かう折に立ち寄った時は、誰もいない孤立無援の桜だったが、今は満開で大混雑の中で見守られている姿には、胸中複雑なものがあった。いつまでも元気でいて欲しい。  (辻 信明)