山行報告
湖南アルプスの名峰「堂山」384m 滋賀県大津市
令和4年3月12日(土)晴れ 単独行 往復522km
標高が低いからと侮ってはいけない。同じ花崗岩の南アルプス鳳凰三山に引けを取らないし、危険度では西穂高並みの慎重さが求められた。渓流も磨かれた美しさがあり、上高地のような広い河原が展開し、正に威風堂々を地てゆく孤高の気高さがあった。
この山は何度かの渡渉がある。それもこの山旅の楽しみである。天神川を渡り対岸に取りつく。先ずはオランダ人技師ブ・レイケによるオランダ堰堤を越す。次第に谷も狭まりミニ夫婦滝があったり、草付きの傾斜地の樹木の春らしい装い、何もかもが新鮮だった。鎧堰堤に出る。ここからが圧巻の阿弥陀河原が続く。田上山卒業記念植樹の松が一面に繁っている。これが松ではなく、ケショウヤナギだったら、湖南アルプスの上高地と称されることだろう。
どこまでも続く河原の途中で左に折れる。しばらくは樹林帯の中、一本のアセビが白い花をこぼれんばかりに咲かせていた。稜線に入るとあっと驚く平野部の景色が目に眩しく、近江富士の三上山が朧げにたゆたう。さあここからがこの山の見せ場だった。花崗岩特有のザレ場が滑りやすく、しかもロープがないと通過できない個所が岩場に慣れない人を悩ます。汗ばむ陽気が更に拍車を掛ける。奇岩、怪岩が思わせ振りにアプローチをかけてくる。多くの登山者が懸命に岩場を乗り越えようとエネルギーを費やしていた。滑落しないようにようやく到達した山頂での憩い、何という豊潤な時間なのだろうか。
下りは展望の良いコースを選んだ。浅見尾根から五味谷に降りる頃、山頂が完璧を成す城郭の如く天空に映える姿に見とれるばかりだった。渡渉を繰り返し、午後1時前に車の停車地に戻った。もうひとつ登ろうか?笹間ケ岳か、太神山か、矢筈ケ岳か、しかし帰宅は深夜になりそうだった。そうだ、40年振りに琵琶湖競艇場を訪ねよう、折しもGⅡ秩父宮妃記念杯競争の3日目、久しぶりに生で味わう水上の格闘技、選手の息遣いを感じながら水飛沫に酔いしれた。
テレビのコマーシャルで人気抜群の、中村獅童が吠える。「お前ら 6万年はぇぇ!仲良しごっこをしに来たんじゃねーぞ!」。もうひとつ訪ねたい所、琵琶湖周航の歌資料館は時間がなかった。いつも素通りしていた白髭神社に立ち寄った。ここは源氏物語の作者紫式部の歌碑がある。
比良山地もまだ豊富な残雪に覆われていたが、確実に春の準備が整いつつある季節感が窺えた。また来よう、滋賀県の山々に思いを託し、敦賀に向った。
(辻 信明)