乗鞍高原の初秋に遊ぶ(標高約1500m)
令和3年9月12日(日)曇り 単独行
初めて乗鞍高原を訪ねた。空は全天曇りだったが、山々はあらゆる虚飾を脱ぎ捨て、1点の曇りもなかった。駐車場はほぼ満車、傍には鹿児島や鳥取ナンバーなど、全国区からの参集だった。総帥の剣ヶ峰を中心に、大日岳や摩利支天岳など参謀が脇を固め、豪快な布陣を成している。
先ずは善五郎の滝を目差し、シラカンバとミズナラの混成林の中の美林を往く。マユミの赤い実を見る頃、滝に着いた。落差30mはあるだろうか。堂々とした水飛沫が、この高原の魅力を引き出している。ここからは思わせぶりな「ふたりの径」に入る。途中、シラカンバとダケカンバの兄弟が並んでいる姿を目の当たりにした。流浪の歌人若山牧水の碑があった。「渓あいのみちはかなし白樺の 白き木立にきはまりにけり」。カラマツ林を愛で、牛留池の周回コースに入る。ミズバショウが君臨し、シラビソが楚々と佇む。東屋から正面に仰ぐ本峰の連なりは、正に御家族御一同様である。木曽五木のサワラとクロベ(ネズコ)の違いがよく解らないが、針葉樹は難しい。「口笛の径」を下る。径は快適だが、吸血の蚊が集団でしつこく迫ってくる。
あざみ池に出た。水面には鴨が1羽泳ぎ、サギが身じろぎもせずに何かを狙っていた。一の瀬園地はかつて牛の放牧地だった。小川が奔放に流れ、秋の装いを凝らす。サイクリングロードをぶらぶら歩き、豊かな自然を満喫した。
帰路、天を突く笠ガ岳の偉容に見とれてしまった。北アルプスの精鋭達の一角がここに確たる地歩を占めているのである。 (辻 信明)